この気持ちの名前を俺はまだ知らない

遊。

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第一章

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美波と話した後、俺は机に突っ伏して今にも昇天しそうになっていた。

「魂抜けかけてんじゃねぇか…。」

言いながらヤスは頭を抱える。

「フラレマシタ、」

「だろうな。

お前のその面を見ればすぐに分かる。」

「ハハハ、デスヨネー。」

返す返事は適当になっていて、ちゃんと返せてるかすら怪しい。

「…で?」

そして、そんな俺の適当な返事は、あまりにあっさり切り捨てられた。

「でっ!?でって言っちゃう!?

酷くね!?冷血漢!薄情者!」

これには流石に納得行かず、我に返って反論すると、ヤスは盛大にため息を吐いた。

「普段お前が俺の事をどう思ってるのかよーく分かったよ…。

…別にそう言うつもりで言ったんじゃねぇよ。

聞いてやるからそうなった経緯を話せって言ってんだ。」

「や、ヤス。

お前最高!やっぱり持つべき者は幼馴染だな!」

「存分に貶された後に言われてもな…。

まぁ良いや、それで?」

「美波に別に私じゃなくてもえぇんじゃろって言われてさ、そんな事ないってはっきり言えなかった。」

「なるほど、ね。」

「確かに…さ。

あいつと過ごしてる時間は楽しかった。

でも、だからあいつじゃなくちゃ駄目なのかって言われたらなんか分からなくなってさ。」

「ふーん。」

「一年も一緒に居たのに、こんなにはっきりしない気持ちで付き合ってたんだなって今になって気付いた。」

「馬鹿、たった一年だろ。」

「そう…だよな。

たった一年だ。

俺、あいつの事全然知らなかったんだな。

本気で怒った顔だって喧嘩して初めて見た。」

「まぁそんなの普段そう見るもんでもねぇだろうけどな。」

「それにあいつさ、俺の事を(あなた)って呼んだんだ。

付き合う前だってそんな風に呼ばれた事一度も無かったのに。」

「そりゃそうだ。

今は別れてるんだからな。

他人行儀にもなるだろう。」

「そっか…。」

ついこないだまであんなに近くで仲良くしていたのに、一度別れてしまえば他人になってしまう。

今自分と彼女は他人なのだと嫌でも思い知らされる。

そしてそんな風に態度を変える彼女が、まるで別人のように思えてならない程に自分は彼女の事を知らなかったのだなと思い知る。

「正直さ、本当に好きだったのかどうかも今は分からないんだ。

舞い上がってたんだよ、面と向かって告白されたのなんて初めてだったし。

だからきっと勘違いしてただけなんだと思う。」

「ま、お前がそう思うんならそうなんじゃねぇの?」

「だよな…。」

「お前にとってはその程度って事だろ?

ならもうほっといてやれよ。

そんな中途半端な気持ちでこれ以上付きまとったってどっちにとっても良いもんじゃねぇぞ。」

「そう、だよなー…。」

ヤスの言う通りだ。

これ以上関わっちゃいけない。

これはただの勘違いなんだ。

ただ、持ち上げられて調子に乗っただけの嘘っぱち。

だからこれ以上、彼女の事を考える必要なんてないんだ。

「ヤス、ありがとう!

俺頑張るよ!」

「おう。」

そんなやり取りを交わしていると、やがて始業のチャイムが鳴る。

「おーし、お前ら席着けよー。」

橋本が言いながら教室に入ってくる。

今いるクラスは担任とヤスが一緒だって事こそ変わってないものの、クラスのメンツは一年の時とほとんど違う奴らばかりだ。

そしてそんな生活にも今は段々慣れてきている。

俺のクラスは二組で、席は真ん中の一番後ろ。

左隣の席に居るのは高橋静《たかはししずか》。

直接話した事が無いから大した事は分からないが、成績はクラスで常に上位の部類に入る。

髪型は首筋までの黒髪で、黒縁眼鏡が良く似合う真面目で大人しい女子、と言うのが俺から見た彼女の印象。

普段の休憩時間とかは大体勉強するか本を読んでいて、他の人と話してるところをあんまり見た事が無い。

右隣に座る小城哲郎《こじょうてつろう》は、何かとモテる。

成績は学年一位、スポーツ万能、長身でおまけに顔までイケメンと言う非の打ち所が見当たらないハイスペックさ。

休み時間には大体小城の机の周りに女子が集まってるし、おまけに同性の友達まで多いのは、明るく誰にでも優しいし、親しみやすいフレンドリーな雰囲気があるからだ。

俺も、隣だしすぐに仲良くなった。

そして、前の席にヤス。

ヤスは席替えとかしてもなんだかんだ席が近い時が多い気がする。

同じクラスの歴も長いし、なんだかんだいつも世話になっている。

「いつも世話を焼かされるな。」

うん…本当にいつもお世話になっております。

それから朝の授業が終わって昼休憩。

購買でパンを買う為に教室を出る。

ついこないだまでなら彼女が毎日弁当を作ってくれていたのだが、当然今はそれが無い。

喧嘩したその日からだが、その生活も段々また普通に戻ってきている。

これが続くと、いつかまたその普通に慣れ   る時が来るのだろうか?

そんな風に、普通はいつだって形を変えていく。

それに慣れていく事で今の自分も変化していくんだ。

これから自分はどうなるのだろう?

どう変わっていくのだろう?

毎日来ていてちょっと面倒だったメールも、いざ来なくなってみるとなんとなくスマホが気になったりする。

食べ慣れた彼女の弁当の味も、こうしてまた購買のパンにすり替えられていく。

購買に着いてからどれにしようか迷っていると、新商品のドーナツが発売している事に気付いた。

そう言えばあいつ好きだったっけ。

普段なら買っていってやるのだろうけど、今はその必要がない。

元あった場所に戻して、無意識の内にいくつか適当にパンを買う。

それから教室に戻る為に廊下を歩いていると、その窓から中庭で友達と談笑しながら弁当を食べる美波の姿が見えた。

ついこないだまで、確かに自分が居た場所。

それが俺の知らない、見知らぬ誰かの場所に変わっていく。

こうして沢山の変化を見て、それが普通に変わっていく事で。

それがあった事でさえ信じられなくなってしまう。

別れた事に対する実感のなさが、付き合っていた事に対する実感の無さに変わっていく。

ついこないだまでの事の筈なのに。

それがまるで全く別の誰かの記憶とすり替えられたかのようにさえ思えてくる。

俺は本当にそこに居たのだろうか?

共に時間を過ごしていたのだろうか?

夢でも見ていたんじゃないのだろうかとすら思う。


教室に戻ると、ヤスは椅子を後ろに向けて俺と向かい合う。

これが最近のいつも通りの昼食体制。

「なんだよ?お前、昼飯にドーナツなんか食うのか?」

「ぐっ…こ、これはデザートだよ。」

「ふーん。

メインがないのにデザート…ね。」

「うっ…。」

結局無意識にパンと間違えて買ってしまっていたドーナツを睨み付ける。

確かに普段なら昼飯は焼きそばパン、カレーパン(甘口に限る)、ホットドッグみたいな惣菜パンが主だ。

でも今日無意識に買ったのはそれとは全く違うデザートの類の物。

しかも全種類(五種類)を一つずつ。

季節限定桜色の苺チョコレートがかかったオールドファッションに、たっぷりのホイップクリームが中に入ったエンゼルクリーム。

変わった形が特徴のもちもちリングドーナツに、チョコレートが付いたフレンチクルーラー。

あとは砂糖がまぶしてあるチョコレートのドーナツと言う感じの五種類だ。

「別にお前の好みをどうこう言うつもりはねぇけどよ。」

「お、おう。」

一つを手に取り、しばし眺める。

確かに一人でこの量のドーナツはなぁ…。

ドーナツで有名な坊チェーン店に行ったとしても1人でこんなに頼まないし、昼飯を食べに行くならドーナツ以外の物を頼む。

この場にあいつが居たら二人で半分こしたりしてたんだろうけど…。

「なぁ、ヤス。」

「あ?」

「毎日俺にメールくれよ。」

「絶対嫌だ。」

即答されてしまった。

「じゃあ俺の為に弁当作ってくれよ。」

「おい…いい加減気持ち悪いんだが。」

ヤスの家は父子家庭だから弁当は毎朝自分で作っているらしい。

と言っても冷凍食品が主で、凝ったものと言えば卵焼きくらいか。

「自分ののついでに…。」

「本気で言ってんなら一発殴らせろ。」

「ごめんなさい。」

「そもそも俺にそんな事されて本気で嬉しいのかよ…?」

ため息一つ、頭を抱えながらそんな事を聞いてくる。

「いや…全然…。」

「いや…そこは即答すんのかよ…。」

「いやまぁ…。」

うん、自分で言っておいてなんだが考えてみたら相当気持ち悪かった。

「ったく…で?急になんだよ。」

「いや、なんかさ。

前まではそれが普通だったからなんか違和感があると言うか…。

このドーナツだって買っておいてなんだけど自分一人で食べるのはなぁ…って感じだし。」

「そんなの当たり前だ。

急に環境が変わって、すぐに適応出来るほど人間は万能じゃねぇよ。

無意識にドーナツを買った事も、それを見てそう感じてる事もだからじゃねぇの?」

「だよなぁ…。」

「ま、それは多分お前の元カノにも言える事なんだろうがな。」

「そう…なのかな?」

きっと、毎日俺の為に作ってた弁当を作らなくて良くなったから本当に作らなくなったのか。

それか、作ってても友達にあげているのかもしれない。

どちらにしろ、彼女も俺と同じようにその環境の変化に違和感を感じているのだろうか?

「すぐに慣れろとも忘れろとも言わねぇがな。」

「おう、ありがとな。」

「ただ、今日のは本気でキモかった。」

「それは本当にごめんなさい。」

そして、その日の放課後。

荷物をまとめて教室を出ると、廊下の少し離れた先でクラスメートらしき男子と一緒に帰っていく美波の姿が見えた。

一瞬もやもやして、少しの間立ち尽くす。

付き合ってた時、彼女があんな風に自分以外の男子と楽しそうに下校してる姿なんて勿論見た事が無かった。

これがもし付き合ってた時だったら、多分文句とまではいかないにしろやんわり詮索はしていた筈だろう。

でも今はそんな事が出来るような立場じゃないって事も当然思い知らされている訳で。

そんな事を考えていると、あんなに近くに居た筈の彼女がものすごく遠くに行ってしまったような気がした。

しばらくそのまま呆然と立ち尽くす。

「ど、どいてください!」

と、そこで突然背後から悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくる。

うん、割とベタな展開…だな。

で、大体その声を聞いた時にはもう既に遅いって言うね…。 

そんな事を思っている間もなく、その声の主と盛大にぶつかる。

その拍子に、相手が持っていたプリントが勢い良く床に散らばった。

そして同時に相手の眼鏡もその場に落ちる。

「あ、め、眼鏡が…。」

「あ、ごめん…。」

慌てて眼鏡を探すその人の姿を見て本来ならすぐに眼鏡を見付けて手渡してあげる場面だが、それが出来ずに俺は一瞬固まる。

髪色とか細かい部分は当然違うながら、髪型や雰囲気が何となく美波の姿に重なって見えたからだ。

「あ、あった、、」

いやいや…そんな訳ないだろ…。

ついさっきあいつの後ろ姿を見送ったばかりじゃないか。

そうして頭でなんとか雑念を振り払っている間に、その人は眼鏡を見つけてすぐにかける。

そこでやっと、俺はその人に強く見覚えがある事に気付いた。

「高橋さんじゃん。」

その人は隣の席の高橋さんだったのだ。

「さ、さ、佐藤くん。

ご、ご、ごめんなさい、その…慌ててたから…。」

言いながら今度は慌てて落としたプリントを拾う高橋さん。

「いやいやこっちこそよく見てなくてごめん。

あ、手伝うよ。」

しゃがみ込み、一緒に拾う。

「高橋さんさ、急いでるんなら俺が持っていっとこうか?」

「え…いやいや…!そんな!」

拾いながら尋ねると高橋さんは盛大に狼狽する。

「良いって、これどうすんの?」

「あ、えっと…職員室に居る橋本先生の所に…。」

「オッケー!」

「え…あ!」

それだけ返して、さっさと職員室の方に走る。

この場から出来るだけ早く離れたかった。

このまますぐに帰ってもしあいつと鉢合わせになったら流石に気まずいし、何か時間を稼ぐ理由が欲しかったから。

「あれ?なんだ。

高橋じゃなくてお前が来たのか。」

プリントを持って職員室に行くと、橋本がそう言って気さくに出迎えてくれた。

「あぁ、はい。

なんか急いでたみたいだったんで。」

「そうか!お前も案外良いとこあるな!」

事情を説明すると、そう言って笑いながら返してくる。

「ははは…。」

それが皮肉に聞こえるのは、多分気のせいじゃない筈だ。

「あ、そうだ。

なぁ、佐藤。

丁度良かった、お前に一つ頼みがあるんだが。」

「え?」

何だろう…。

この人が言う事だし、激しく嫌な予感しかしない。

「高橋と友達になってやってくれないか?」

「はへ…?」

そう思って警戒していたのに、言われた言葉があまりにも意外な物過ぎて思わず間抜けな返事になってしまう。

「お前は何を考えていたんだ…?」

そんな反応見て橋本は露骨に顔を顰めた。

「いやいや別に何も考えてないっすよ。

てっきりまた雑用を押し付けられると思った、なんて事は…。」

「ふむ、それも良いかもしれんな。」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!」

「まぁ良い。

お前、高橋と席が隣だろ?

だから知ってるとは思うが…。

あいつは真面目でしっかりしてるし成績も良い。

ただ人付き合いだけはどうも苦手みたいでな…。」

「まぁ、確かに。」

実際橋本の言う通り、隣だし意図せずとも高橋さんの様子は毎日目に入ってくる。

授業はいつも真面目に受けてるし、休憩に入れば予習復習も忘れない。

昼休憩は毎日一人で自分の席に座って弁当を食べてるし、食べ終わった後は大体図書室で借りた本を読んでいる。

「二年になったし、もうすぐ合宿もあるだろ?

今のままだとそう言う行事で孤立しないか心配でな。」

普段そんな感じで、どこか近付き難い雰囲気を出しているからなのか、ほとんどの人が高橋さんに自分から話しかけようとはしない。

すると言っても必要最低限なやり取りくらいだ。

だから行事で班行動って時には必然的に人数が足りない所に入れてもらうようになるだろう。

その場に上手く馴染めるかどうか。

ただでさえ人付き合いが苦手なのに、そんな寄せ集めのグループの中で上手くやっていけるのだろうか?

「担任の俺がこう言う事を頼むのも変な話だがな。」

そう言って頭を掻く橋本。

「まぁ、出来るだけ話しかけるようにしてみます。」

「おう、頼むよ。」


そして、その後の帰り道。

もう何度目かも分からないため息を吐く。

あの時俺は、ついカッとなって彼女に酷い事を言ってしまった。

もしもあの時間違いを素直に認めて必死に謝っていたら。

何かしら状況は変わっていたのだろうか?

いや、どちらにしろこんなはっきりしない気持ちで謝ったって同じ事だろうと今は痛感している。

そんな事を考えながら一人で歩く帰り道は、なんだかいつも以上につまらないような気がした。

「なんかつまんないなぁ…。」

だからか誰に向けてでもなくぼやく。

最近、こんな風にひとりごとが増えた気がする。

きっとそれはただ単にひとりごとなのではなく、いつも隣に居た彼女に向けた物なのかもしれない。

別れる前は毎日当たり前のように話してたし、話題なんか無い時もあった。

だから毎日来てたメールがめんどくさくなったのだと言えば言い訳になるのだが。

でも別れた後になって、話したい事が増えていくのは何故だろう?

こんな事を言ったら彼女なら笑うだろうなとか、共感してくれるだろうなとか考えてしまう。

今日のドーナツだってそうだ。

そんな事を考えながら隣を見ても、当然ながら誰かが居る筈もないのに。

ついこないだまで二人で帰っていた帰り道が、ひとりごとの帰り道に変わっていく。

「あれ?佐藤。」

と、ここでいきなり背後から名前を呼ばれ、振り返ると小城が立っていた。

「小城。」

「一人?良かったら一緒に帰らない?」

気さくに笑いながらそう言ってくる。

「あ…あぁ、別に良いけど。」

そう返し、並んで歩き出す。

「珍しいな、小城が一人で帰ってるとか。」

一緒に並んで歩き始めると、まず一番気になった疑問が口を衝く。

実際クラスで小城が一人で居る所なんて見た事が無い。

男女問わず常に友達やら好意を寄せられている女子に囲まれてる、と言うのが俺の中での勝手なイメージだし、見てる限りではそうだと思っていた。

「そうか?俺だってそんないつも人に囲まれてないって。

それに俺だってたまには一人になりたくなる時くらいあるんだぜ?」

「まぁ、確かに。」

それも意外ではあるものの、そう言う気持ちは確かに分かる気がした。

実際美波からの毎日のメールも面倒になってた訳だし、誰しもずっとじゃないにしろ時には周りと切り離した時間が必要なのかもしれない。

とは言えそれにしても…。

「小城モテるし女子とかと帰んないの?」

そう言う話しを本人からは一切聞かないし、更に突っ込んだ事を聞いてみる。

「ははは、ないない。」

それを小城は笑いながら否定した。

ちょっと嫌味に聞こえてくるのは気のせいじゃない筈だ。

「何?俺ってそんな風に見られてたの?」

言いながら顔を顰めてくる。

「だってお前よく女子に囲まれてるし、告られた事だって何度もあるんだろ?」

「まぁ、無い訳じゃないけどさー。

全部断ってるんだよね。」

「へぇー…そう…。」

この人余裕だなぁ…。

「って言うか俺好きな人いるしさ。」

「……え?…えぇぇぇ!?」

世の不平等さを嘆いていると、予想外過ぎる事実を突き付けられて思わず変な声が出る。

「いやいや…。

驚き過ぎだから。」

「いや、だってお前、え?

それならなんで付き合ったりとかしないの?」

それだけモテているのだから、その好きな人にだってきっと好かれている筈だろう。

いや、もしまだ好かれていないにせよ、これから好かれる事だって充分ある筈だ。

思わず意味が分からなくなって問いかける。

「うーん…実はフラれたんだよね。」

「え…?は!?え!?」

驚きのあまりさっき以上にデカい声が出る。

「いや…だから…驚き過ぎだって…。」

あまりのオーバーリアクションに呆れられてしまった。

「えっと…実はさ、中学の時に告白したんだけどフラれたんだよ。

その人好きな人いるらしくてさ、あっさり。

そりゃもうあっさり。

塩ラーメンくらいあっさりだよ。」

「し、信じれん。」

だってそうだろう。

スポーツ万能、成績優秀、気配りも出来ておまけにこの気さくなキャラが出す親しみやすさ。

それらを全部持ってると言うのに、それを一切鼻にかけない謙虚さ。

そんなハイスペックさをもってしてもフラれるなんて。

世の中間違ってるだろ…。

そこまで考えて、自分があまりにちっぽけな存在なような気がしてちょっと嫌だった。

「いや…信じれんって言われてもなー。」

「だってお前勉強も運動も出来るし…見た目も良いじゃん。

だからモテるんだろ?」

「いや別に俺はモテたくて勉強も運動もやってる訳じゃないし…。

それに中学までは俺も全然だったんだぜ?」

「え、マジで?」

それは意外だ。

実際俺は高校以前の小城を知らない訳で、最初からそうなのかと思っていたし、そう言われても全く想像が付かない。

「マジマジ、中学でフラれてからさ、なんとかその人に好かれようと思って色々やってみたんだよ。

そしたら、今に至るって言うね。」

「知らなかった。

お前も結構努力してんのな。」

素直な感想が口を衝く。

「当たり前だろ?

俺どんな天才だよ。」

「ははは、だよなー。」

「でもさ、どれだけ努力しても本当に欲しいもんが掴めなきゃ意味ないよなー。」

どこか寂しそうな表情で夕焼け空を眺める小城。

「でもお前…それだけ告白されて、誰かと付き合ってみようとか思わなかったのか?」

「うーん、一度だけ。」

「え?」


「中学の時にね。

個人的に好きなタイプだったし、一緒に居て楽そうだったからさ。

でも、結局長続きはしなかったよ。」

「え、なんで?」

「多分自分にとって都合の良い人だから、じゃないかな?」

「ますます分からない…。」

「なんて言うのかな…。

ただ、都合が良いから一緒に居て楽なだけって言うか…。

恋ってさ、多分そう言う理由でするもんじゃないんだよ。

気が付いたら心が勝手にしてるもん…って言うか。

だから、どんなに都合が良い相手でも本気で好きにはなれなかった。

相手からしたら結構分かるもんなんだろうね。

この人は自分を本気で好きじゃないって。

それを相手に気付かれてキレられちゃってさ。

それで喧嘩になって別れた。」

その話を聞いて、自分の事を言われてるような気がした。

実際俺もそんな中途半端な気持ちで美波を傷付けてしまったのだから。

「それからはさ、そう言う風に理由で恋愛をするのはやめたんだよね。

そうしてる内に気付いたんだ。

俺にはやっぱりあいつしかいないんだなぁって。」

「そっか。」

本当の意味で好きな人、と言うのは今の俺にはよく分からない。

でもそうじゃないのに付き合うと言う事が、どれだけ相手を傷付ける事なのかは身をもって知った。

「で、そう言う佐藤はどうなんだよ?」

「え…いや、まぁ…その…実は最近フラれまして…。」

「え、マジで、仲間じゃん!」

「いや、仲間って…。」

嬉しそうに背中を叩いてくる小城。

「いやいや…。

俺と小城のとじゃ背負ってる物の重さが違うだろ…。」

「えー、難しく考え過ぎだって!」

「え、そうかな?」

「だってさ、他人の気持ちなんて想像でしか分からないものだろ?

なのに他人の気持ちと自分の気持ちを比較したってしょうがないじゃん?」

「まぁ、そうだけど…。」

「こう言うのはさ、言ったもん勝ちなんだって、だから仲間!」

「お、おう…そうだなー。」

同い年の筈なのに。

重ねてきた経験の差からなのか、小城の方が自分よりもよっぽど大人に見えた。

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