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DTM部への依頼
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――現在に戻ってDTM部部室。
経緯を聞いてつい少し俯いてしまった。
「なるほど、軽音部に曲を作って欲しいと」
「いいじゃん!! すっごくいいと思う! 作ってあげなよ!」
「いや~……自分で作ればいいじゃん、軽音部なんだし」
マリはとても興奮して嬉しそうだが、私はノリ気では無かった。
「いや、なんか曲作ろうとすると適当にソロ弾いて気持ちよくなって終わっちゃうんですよ! それでも頑張って作ったこともあるんですけど、友達に聞いてもらったらボロボロに言われちゃいました!」
立花はタハハと笑い飛ばした。
曲を作ることにそこまでの興味がないことが伺えた。
そして軽く頭を下げて続けた。
「だからお願いします!」
「う~ん……軽音部ってどんな活動するの?」
勢いに押されて、話くらいは聞こうと思った。
すると立花は背筋を伸ばし、軽いガッツポーズを決めて満面の笑顔で言い放った。
「よくぞ聞いてくれました! 軽音部はガルテナ本選出場を目標にします!」
「えぇ!! あのガルテナに!? ……ガルテナってなに?」
知らんのかい。マリのテンプレなボケにテンプレなツッコミをしてしまう所だった。
「バンドの大会。結構有名だと思う」
立花の高らかな宣言にも驚いたが、マリが知らないことにも少し驚いた。結構な認知度のある大会だと思っていた。
「説明しましょう! ガルテナとは! ガールズバンド・ウテナの略! 日本一のアマチュアガールズバンドを決める大会なのです!」
「おぉ~!」
マリは歓声を挙げながら拍手した。大きな大会であることは伝わったようだ。
「どもども」
拍手を受け頭を掻きながら照れるフリをする立花。ノリがいい二人だ。
「はい先生! 本選というのは?」
「ガルテナには予選があります! ネット投票で上位十六組が本選に出場できます! 本選では広い会場で演奏できるんですよ! ちなみに高校生の部は去年予選に八十七組が出場しました!」
手を挙げて質問したマリに立花が淀みなく答える
なんとなく話は分かったので、DTM部へのお願いを確認する。
「つまり、ガルテナに出るための曲を作って欲しいってこと?」
「そうです!」
「絶対ヤダ」
「なんでですか!?」
拒否に驚かれた。なぜ受けると思っていたのか。
拒否した理由は二つ。一つ目は簡単。
「責任重すぎ」
「え?」
「なんか文化祭とかで適当にやるなら考えても良かったけど、大会でしょ? 責任重すぎ」
一年の二人にとってはとても大事な大会なのかもしれない。
曲はとても重要だろう。そこに自分が責任を持つなんて絶対に嫌だ。話を聞いてよかった。
もう一つの理由は話がこじれそうな気がしたので言わないことにした。
「もしダメでも曲のせいにしたりなんてしませんよ!」
「君がしなくても私は気にするの。タダで作曲してくれる人いると思うから、そういう人を探す手伝いくらいならしてもいいよ」
我ながらなかなかいい提案だ。
作曲してくれる人が見つかるかはともかく、無慈悲先輩のレッテルを貼られることはないだろう。
「ねぇねぇ、とりあえずユカの曲聞いてもらうのはどう?」
「えぇ~、なに突然……」
笑顔のマリをジロリと見る。意外な所からの意外な提案は不満な物だった。
「『私の曲なんかじゃ大会なんて無理』って思ってるでしょ」
「……」
正解。それが二つ目の理由。しまった。この沈黙は正解だと言ってるようなものだ。
マリの目は一瞬鋭くなったが、すぐいつもの笑顔に戻っていた。
コタツの温度が上がった気がする。
「大会に関わらなければ考えてもいいんでしょ?」
「考えるだけね」
「曲を使う側の感想も大事なんじゃない? 『どうしても使わせて欲しい』って思ってくれるかもよ」
「成瀬さんの曲聞いてみたいです!」
マリとのやり取りに立花が入って来た。
ハッキリ言って嫌だ。人に直接聞かせたのはマリだけだし、凄く恥ずかしい。
「う~ん……」
「お願いします! DTMでどういう曲できるか知らないんです!」
「君ようココ来たな」
知らんのかい。今まで溌剌とした優秀な一年という印象が強かったので、ずっこけてしまうところだった。まぁ知ったかされるよりはいいよね。
「DTMで作る曲聞いてみたいです!」
立花が言った後、今まで無表情で発言せず話を聞いていた西川が頷く。眼鏡の奥の目は輝いているようにも見えた。
「ねぇ聞いてもらうくらいならいいでしょ?」
マリに言われると弱い。
というか先輩達がいた時はこんな風に言うことはなかったのに、突然どうしたんだろう。少し考えたが分からなかった。
そして考えている間に浴びた期待の眼差し三人分に耐えられなかった。
「……もー、しょうがないなぁ」
「やった!」
マリは小さくガッツポーズをした。
「その代わりインストね」
ささやかな抵抗、という訳ではない。
自分やボカロが歌った音源もあるが、それこそ恥ずかしくて絶対に聞かせられない。
のそのそとコタツから立ち上がり、パソコンデスクに向かう。
「インストってなんですか?」
西川の久しぶりの発言。分からないことがあればちゃんと喋るんだな。感心感心。
などと勝手に先輩面していたら立花が先に答えた。
「歌の無い曲ってこと。歌入りの曲もあるんですか?」
「まぁ。でも聞かせません」
「なんでですか?」
「諸事情です。ほら再生するよ」
やはりツッコまれた。理由すら恥ずかしいので話を進めた。
三人ともコタツから出てパソコンデスクを囲んだので、パソコンを操作し、自分が作った曲を再生する。
少し見栄を張りたかったので一番自信のある曲を選んだ。
アップテンポなバンドサウンドのロック。完成した時は自分でご満悦だった。
「わ、めっちゃ凄いですね。楽器で演奏してるみたい。DTMで作る曲ってもっとピコピコしてる物だと思ってました」
その印象は分かる気がする。昔のゲーム機のBGMような音やEDMを想像していたのだろう。
「先輩が凄くいいDAWや音源を揃えてたからね」
「ダウってなんです?」
「DTMをするための作曲ソフトみたいなもん」
「へぇー」
簡単な質問をされたが、そのあとは静かに聞き入っていた。
そして再生した曲が終わる。
視界の端に映る立花からはワクワクしている様子が伝わって来ていた。
自分の曲に対していい印象を受けてもらえたことは感想を聞かなくても分かった。
「どうだった?」
「凄く凄かったです! プロみたいじゃないですか!」
にこやかに尋ねたマリに立花は元気よく答えた。
西川は何度か頷き同意した。蛍光灯に反射したのか、眼鏡がキラリと光った気がした。
するとマリが物凄く嬉しそうに言った。
「でっしょー!!」
「なんでマリが自慢気なの」
「ユカは私が育てたと言っても」
「過言だよ。それにもっと凄い人いっぱいいるから」
「いやー! ファン一号として鼻が高いなぁ!」
「聞いてる?」
マリにツッコミを入れていると少し冷静になれた。
褒めてもらえるのは凄く嬉しい。けど恥ずかしさが勝ってしまっている。
頬が熱くなっていた。赤くなっていたら嫌だな、なんて考えていると、立花はどんどん詰め寄って来た。
「ホントにいい曲でした! お願いします! 軽音部に曲を作って下さい!」
「……」
「成瀬さんの曲、バンドで演奏してみたいです!」
こんな風に言われたことはないので凄く嬉しい。でも軽音部に曲を作るつもりがないことは変わらない。
困った。なにか断るいい口実はないものか。
「とりあえず、コタツに戻ろ」
椅子から立ち上がりとりあえず話を逸らした。
コタツの元の席に戻りながらマリはご機嫌だった。
「ユカの曲、マジ全部いいからね!」
「マジですか!」
「ちょっと」
余計なことを言うな、とキレ気味の視線を送る。ニッコリと受け流された。
マリには投稿した曲のMP3を渡してある。ネット上の再生数水増しみたいなことをされるのが嫌だったから。
本人から私のお願い通り「ネットでは聞いてない」という言質を取っている。悲しいことに再生数は全く伸びていないので、それは事実だと思う。
そして全員コタツに座ったタイミングで思い出した。
「……あ、ウチ廃部危機だったわ」
「あ」
「え」
「……」
西川は無表情だったけど立花は呆気にとられていた。マリも忘れていたようだ。
少し沈黙が流れたあと、立花に尋ねられる。
「どういうことですか?」
「部員が四人以上いないと廃部になるんだって。で、DTM部は今二人だから今月末までに二人入らないと廃部になるの」
「えぇ……」
さっき先生に言われた通りに伝えると、立花は困っていた。
勝機。これで今DTM部はお願いを受けられる状態ではないことにすれば引き下がってくれるかもしれない。
そんな算段を付けているとマリが言った。
「ちなみに軽音部は今何人なの?」
「二人です」
「立花ちゃんと西川ちゃんってこと?」
「そうです」
「それって部活申請通らないと思うよ?」
「四人集まるまで頑張って勧誘しますよ!」
この活力全開女子は根性もある。うんうん、頑張って欲しいなぁ。
などとまた勝手に先輩面して思った。
もう私にはあまり関係の無い話なのでしばらく二人の会話を聞いているつもりだった。
「まぁまぁ待ち給えよ若者。いい案がある」
「なんですか?」
ニヤリとしたマリは両手をコタツにバンと叩きつけて言った。
「DTM部と軽音部、合併しちゃおう!!」
「はぁ!?」
満面の笑みでの提案は予想外で、思わず声が出てしまった。
「DTM部と軽音部で合併だー! ガチャーン! やったね!」
マリは大きく手を広げたあと、一本締めのように大きく「パン!」 と手を鳴らした。
「いやなんにもやってないよ!」
「合併すればもう私ら勧誘しなくて済むよ?」
「やること違うのはダメでしょ!」
「そうですよ! 私も軽音部としてやっていきたいです!」
強く反論すると立花も反対のようだった。嬉しい。これなら多数決的で拒否できる。
「え、やること違う? ユカが立花ちゃんと西川ちゃんの為に曲作るんでしょ? これってもうチームじゃん」
なるほど。確かに。
少なくとも友達に幽霊部員や掛け持ちを頼んで部員数を稼ぐより、よっぽど筋が通っている。
立花も少し考えているようだ。うん、そんなに間違ったことは言ってないよね。
いや、違うな。納得しかけてしまった。そもそも私は二人の為に曲を作るつもりはないんだ。
それなのに勝手にチームにされては困る。そう言おうと思った瞬間、マリに先手を取られた。
「それに軽音部、めっちゃ興味出てきたんだよね」
「「えっ!?」」
立花とリアクションが被ってしまった。ただ立花は喜びの、私は失意の驚き。
マリはいつも通りの素敵な笑顔であっけらかんと宣言した。
「バンドやるんでしょ? DTM全然分からないしそっちやりたい」
「本当ですか!! 大歓迎ですよ!」
「楽器全然出来ないけどいい?」
「もちろん! 今ならボーカルも空いてますよ!」
「え!? いいの!?」
本当に嬉しそうな立花とマリの会話は弾んでいたが、ここで正気に戻った。
「ちょ、ま、きさっ、貴様ぁ裏切るのか!? さっき飲んだ茶ぁ返せ!!」
まさかの裏切りに固まってしまっていた。隣に座るマリに掴みかかる。
動揺して少し噛んでしまったのがカッコ悪い。
「ぐぇぇぇ! 無理無理もう消化済み!」
「仲いいですね!」
「今まさに崩壊してる!」
立花から謎の仲良し判定を頂いたが、苦しむマリと半泣きで掴みかかってる私を見て何を言っているんだ君は!
と思いつつもマリを揺さぶり続ける。
「あの、私も合併お願いしたくなりました」
立花の真剣な声に揺さぶるのを止めた。
「中村さんも軽音部に興味持ってくれるならDTM部的にも悪くないはずです。お願いします」
私の目を見ての真剣なお願いだ。ふざけている場合ではない。マリを放して立花に向き合う。
でも、なんて言えばいいのか分からない。曲を作るつもりがないことに変わりはない。
ただマリの提案で少し心が揺れてしまった。
唐突な裏切りに動揺して掴みかかってしまったが、マリにはやりたい部活をやって欲しい。
合併してしまえば私は機材と部室を守れて立花は部を成立させられる。
確かにお互いに利益がある。でも、なにか引っかかる……
「……ちょっと考えさせて」
こう言うのが今の精一杯だった。
経緯を聞いてつい少し俯いてしまった。
「なるほど、軽音部に曲を作って欲しいと」
「いいじゃん!! すっごくいいと思う! 作ってあげなよ!」
「いや~……自分で作ればいいじゃん、軽音部なんだし」
マリはとても興奮して嬉しそうだが、私はノリ気では無かった。
「いや、なんか曲作ろうとすると適当にソロ弾いて気持ちよくなって終わっちゃうんですよ! それでも頑張って作ったこともあるんですけど、友達に聞いてもらったらボロボロに言われちゃいました!」
立花はタハハと笑い飛ばした。
曲を作ることにそこまでの興味がないことが伺えた。
そして軽く頭を下げて続けた。
「だからお願いします!」
「う~ん……軽音部ってどんな活動するの?」
勢いに押されて、話くらいは聞こうと思った。
すると立花は背筋を伸ばし、軽いガッツポーズを決めて満面の笑顔で言い放った。
「よくぞ聞いてくれました! 軽音部はガルテナ本選出場を目標にします!」
「えぇ!! あのガルテナに!? ……ガルテナってなに?」
知らんのかい。マリのテンプレなボケにテンプレなツッコミをしてしまう所だった。
「バンドの大会。結構有名だと思う」
立花の高らかな宣言にも驚いたが、マリが知らないことにも少し驚いた。結構な認知度のある大会だと思っていた。
「説明しましょう! ガルテナとは! ガールズバンド・ウテナの略! 日本一のアマチュアガールズバンドを決める大会なのです!」
「おぉ~!」
マリは歓声を挙げながら拍手した。大きな大会であることは伝わったようだ。
「どもども」
拍手を受け頭を掻きながら照れるフリをする立花。ノリがいい二人だ。
「はい先生! 本選というのは?」
「ガルテナには予選があります! ネット投票で上位十六組が本選に出場できます! 本選では広い会場で演奏できるんですよ! ちなみに高校生の部は去年予選に八十七組が出場しました!」
手を挙げて質問したマリに立花が淀みなく答える
なんとなく話は分かったので、DTM部へのお願いを確認する。
「つまり、ガルテナに出るための曲を作って欲しいってこと?」
「そうです!」
「絶対ヤダ」
「なんでですか!?」
拒否に驚かれた。なぜ受けると思っていたのか。
拒否した理由は二つ。一つ目は簡単。
「責任重すぎ」
「え?」
「なんか文化祭とかで適当にやるなら考えても良かったけど、大会でしょ? 責任重すぎ」
一年の二人にとってはとても大事な大会なのかもしれない。
曲はとても重要だろう。そこに自分が責任を持つなんて絶対に嫌だ。話を聞いてよかった。
もう一つの理由は話がこじれそうな気がしたので言わないことにした。
「もしダメでも曲のせいにしたりなんてしませんよ!」
「君がしなくても私は気にするの。タダで作曲してくれる人いると思うから、そういう人を探す手伝いくらいならしてもいいよ」
我ながらなかなかいい提案だ。
作曲してくれる人が見つかるかはともかく、無慈悲先輩のレッテルを貼られることはないだろう。
「ねぇねぇ、とりあえずユカの曲聞いてもらうのはどう?」
「えぇ~、なに突然……」
笑顔のマリをジロリと見る。意外な所からの意外な提案は不満な物だった。
「『私の曲なんかじゃ大会なんて無理』って思ってるでしょ」
「……」
正解。それが二つ目の理由。しまった。この沈黙は正解だと言ってるようなものだ。
マリの目は一瞬鋭くなったが、すぐいつもの笑顔に戻っていた。
コタツの温度が上がった気がする。
「大会に関わらなければ考えてもいいんでしょ?」
「考えるだけね」
「曲を使う側の感想も大事なんじゃない? 『どうしても使わせて欲しい』って思ってくれるかもよ」
「成瀬さんの曲聞いてみたいです!」
マリとのやり取りに立花が入って来た。
ハッキリ言って嫌だ。人に直接聞かせたのはマリだけだし、凄く恥ずかしい。
「う~ん……」
「お願いします! DTMでどういう曲できるか知らないんです!」
「君ようココ来たな」
知らんのかい。今まで溌剌とした優秀な一年という印象が強かったので、ずっこけてしまうところだった。まぁ知ったかされるよりはいいよね。
「DTMで作る曲聞いてみたいです!」
立花が言った後、今まで無表情で発言せず話を聞いていた西川が頷く。眼鏡の奥の目は輝いているようにも見えた。
「ねぇ聞いてもらうくらいならいいでしょ?」
マリに言われると弱い。
というか先輩達がいた時はこんな風に言うことはなかったのに、突然どうしたんだろう。少し考えたが分からなかった。
そして考えている間に浴びた期待の眼差し三人分に耐えられなかった。
「……もー、しょうがないなぁ」
「やった!」
マリは小さくガッツポーズをした。
「その代わりインストね」
ささやかな抵抗、という訳ではない。
自分やボカロが歌った音源もあるが、それこそ恥ずかしくて絶対に聞かせられない。
のそのそとコタツから立ち上がり、パソコンデスクに向かう。
「インストってなんですか?」
西川の久しぶりの発言。分からないことがあればちゃんと喋るんだな。感心感心。
などと勝手に先輩面していたら立花が先に答えた。
「歌の無い曲ってこと。歌入りの曲もあるんですか?」
「まぁ。でも聞かせません」
「なんでですか?」
「諸事情です。ほら再生するよ」
やはりツッコまれた。理由すら恥ずかしいので話を進めた。
三人ともコタツから出てパソコンデスクを囲んだので、パソコンを操作し、自分が作った曲を再生する。
少し見栄を張りたかったので一番自信のある曲を選んだ。
アップテンポなバンドサウンドのロック。完成した時は自分でご満悦だった。
「わ、めっちゃ凄いですね。楽器で演奏してるみたい。DTMで作る曲ってもっとピコピコしてる物だと思ってました」
その印象は分かる気がする。昔のゲーム機のBGMような音やEDMを想像していたのだろう。
「先輩が凄くいいDAWや音源を揃えてたからね」
「ダウってなんです?」
「DTMをするための作曲ソフトみたいなもん」
「へぇー」
簡単な質問をされたが、そのあとは静かに聞き入っていた。
そして再生した曲が終わる。
視界の端に映る立花からはワクワクしている様子が伝わって来ていた。
自分の曲に対していい印象を受けてもらえたことは感想を聞かなくても分かった。
「どうだった?」
「凄く凄かったです! プロみたいじゃないですか!」
にこやかに尋ねたマリに立花は元気よく答えた。
西川は何度か頷き同意した。蛍光灯に反射したのか、眼鏡がキラリと光った気がした。
するとマリが物凄く嬉しそうに言った。
「でっしょー!!」
「なんでマリが自慢気なの」
「ユカは私が育てたと言っても」
「過言だよ。それにもっと凄い人いっぱいいるから」
「いやー! ファン一号として鼻が高いなぁ!」
「聞いてる?」
マリにツッコミを入れていると少し冷静になれた。
褒めてもらえるのは凄く嬉しい。けど恥ずかしさが勝ってしまっている。
頬が熱くなっていた。赤くなっていたら嫌だな、なんて考えていると、立花はどんどん詰め寄って来た。
「ホントにいい曲でした! お願いします! 軽音部に曲を作って下さい!」
「……」
「成瀬さんの曲、バンドで演奏してみたいです!」
こんな風に言われたことはないので凄く嬉しい。でも軽音部に曲を作るつもりがないことは変わらない。
困った。なにか断るいい口実はないものか。
「とりあえず、コタツに戻ろ」
椅子から立ち上がりとりあえず話を逸らした。
コタツの元の席に戻りながらマリはご機嫌だった。
「ユカの曲、マジ全部いいからね!」
「マジですか!」
「ちょっと」
余計なことを言うな、とキレ気味の視線を送る。ニッコリと受け流された。
マリには投稿した曲のMP3を渡してある。ネット上の再生数水増しみたいなことをされるのが嫌だったから。
本人から私のお願い通り「ネットでは聞いてない」という言質を取っている。悲しいことに再生数は全く伸びていないので、それは事実だと思う。
そして全員コタツに座ったタイミングで思い出した。
「……あ、ウチ廃部危機だったわ」
「あ」
「え」
「……」
西川は無表情だったけど立花は呆気にとられていた。マリも忘れていたようだ。
少し沈黙が流れたあと、立花に尋ねられる。
「どういうことですか?」
「部員が四人以上いないと廃部になるんだって。で、DTM部は今二人だから今月末までに二人入らないと廃部になるの」
「えぇ……」
さっき先生に言われた通りに伝えると、立花は困っていた。
勝機。これで今DTM部はお願いを受けられる状態ではないことにすれば引き下がってくれるかもしれない。
そんな算段を付けているとマリが言った。
「ちなみに軽音部は今何人なの?」
「二人です」
「立花ちゃんと西川ちゃんってこと?」
「そうです」
「それって部活申請通らないと思うよ?」
「四人集まるまで頑張って勧誘しますよ!」
この活力全開女子は根性もある。うんうん、頑張って欲しいなぁ。
などとまた勝手に先輩面して思った。
もう私にはあまり関係の無い話なのでしばらく二人の会話を聞いているつもりだった。
「まぁまぁ待ち給えよ若者。いい案がある」
「なんですか?」
ニヤリとしたマリは両手をコタツにバンと叩きつけて言った。
「DTM部と軽音部、合併しちゃおう!!」
「はぁ!?」
満面の笑みでの提案は予想外で、思わず声が出てしまった。
「DTM部と軽音部で合併だー! ガチャーン! やったね!」
マリは大きく手を広げたあと、一本締めのように大きく「パン!」 と手を鳴らした。
「いやなんにもやってないよ!」
「合併すればもう私ら勧誘しなくて済むよ?」
「やること違うのはダメでしょ!」
「そうですよ! 私も軽音部としてやっていきたいです!」
強く反論すると立花も反対のようだった。嬉しい。これなら多数決的で拒否できる。
「え、やること違う? ユカが立花ちゃんと西川ちゃんの為に曲作るんでしょ? これってもうチームじゃん」
なるほど。確かに。
少なくとも友達に幽霊部員や掛け持ちを頼んで部員数を稼ぐより、よっぽど筋が通っている。
立花も少し考えているようだ。うん、そんなに間違ったことは言ってないよね。
いや、違うな。納得しかけてしまった。そもそも私は二人の為に曲を作るつもりはないんだ。
それなのに勝手にチームにされては困る。そう言おうと思った瞬間、マリに先手を取られた。
「それに軽音部、めっちゃ興味出てきたんだよね」
「「えっ!?」」
立花とリアクションが被ってしまった。ただ立花は喜びの、私は失意の驚き。
マリはいつも通りの素敵な笑顔であっけらかんと宣言した。
「バンドやるんでしょ? DTM全然分からないしそっちやりたい」
「本当ですか!! 大歓迎ですよ!」
「楽器全然出来ないけどいい?」
「もちろん! 今ならボーカルも空いてますよ!」
「え!? いいの!?」
本当に嬉しそうな立花とマリの会話は弾んでいたが、ここで正気に戻った。
「ちょ、ま、きさっ、貴様ぁ裏切るのか!? さっき飲んだ茶ぁ返せ!!」
まさかの裏切りに固まってしまっていた。隣に座るマリに掴みかかる。
動揺して少し噛んでしまったのがカッコ悪い。
「ぐぇぇぇ! 無理無理もう消化済み!」
「仲いいですね!」
「今まさに崩壊してる!」
立花から謎の仲良し判定を頂いたが、苦しむマリと半泣きで掴みかかってる私を見て何を言っているんだ君は!
と思いつつもマリを揺さぶり続ける。
「あの、私も合併お願いしたくなりました」
立花の真剣な声に揺さぶるのを止めた。
「中村さんも軽音部に興味持ってくれるならDTM部的にも悪くないはずです。お願いします」
私の目を見ての真剣なお願いだ。ふざけている場合ではない。マリを放して立花に向き合う。
でも、なんて言えばいいのか分からない。曲を作るつもりがないことに変わりはない。
ただマリの提案で少し心が揺れてしまった。
唐突な裏切りに動揺して掴みかかってしまったが、マリにはやりたい部活をやって欲しい。
合併してしまえば私は機材と部室を守れて立花は部を成立させられる。
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