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第一回軽音部会議
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DTM部、もとい軽音部部室に戻り、コタツに四人が揃うと立花がニコニコしながら宣言した。
「無事に部が設立できたので、さっそく第一回軽音部会議を始めます!」
「わー!」
マリは歓声を挙げながら、西川は無表情のまま拍手した。
「まず、ガルテナに向けた曲なんですけど、成瀬さん、一曲作るのにどれくらい時間かかります?」
「本気で打ち込みしなくていいなら……一ヶ月は欲しいかな」
「ガルテナは予選登録が六月一日からなんですよ」
今日は四月九日、つまり……
「あと二ヵ月弱で形になる演奏にするの? 無理じゃない?」
西川は初心者だし、そもそもバンド編成も決まっていない。なにも想像できない。
というか決めるならバンド編成の方が先ではないだろうか。気持ちが先走っているように思えた。
「全力を尽くせばきっと大丈夫ですよ!」
ピカピカと輝きそうな笑顔に何も言えなくなってしまった。立花は続ける。
「ちなみに昨日聞かせてくれた曲ってダメですか?」
「アレはダメ」
あの曲はオリジナルのボカロ曲としてネットに投稿しているからダメ。
「今作ってる曲は? 昨日『もう少しで出来る』って言ってたやつ」
マリから意外な提案が来た。言葉に詰まってしまう。
「その今作ってる曲ダメですか?」
「……ダメって訳じゃないけど、聞いてもいないのに決めるのおかしくない?」
「じゃあ聞かせて下さい! お願いします!」
「……分かった」
しまった、心の準備が。
昨日もそうだったけど、マリ以外に直接聞かせたこと無いから凄く恥ずかしいんだよなぁ……
でも話の流れ的に断るのはおかしい。それに、こんなに元気よくお願いされると断りづらい。
気が重いけど、コタツから立ち上がりパソコンデスクに向かう。
三人もコタツから出てパソコンデスクを囲んでいた。
パソコンを操作し、再生ボタンを押す直前で緊張が走った。
昨日とは違う。これは明確な品定め。「この曲ではダメ」とバッサリ切り捨てられることも覚悟する。
バレないように深呼吸をして、完成間近の曲のインストを再生ボタンを押した。
今度の曲は16ビートのピアノロック。
明るいコード進行でアップテンポなので大会向けかもしれない。いやよく分からないけど。
などと考えつつ、切り捨てられる心の準備をしていると曲が終わった。
「凄くいいじゃないですか!」
立花はとても気にってくれたようだ。西川も何度か頷いてくれた。
曲を聞いている時の反応からもういい印象を受けてもらえていると思ってはいたけど、安心した。よかったー。
今度は安心の気持ちの方が強い。昨日はたまたま喜んでもらえただけかもしれない、という不安があった。
「でっしょー!!」
またマリが凄く嬉しそう。私よりも嬉しそうだ。
「だからなんでマリが自慢気なの」
「ユカは私が育てたといっても」
「過言だって。で、この曲でいいの?」
マリのボケがありがたい。冷静になれたのでコタツに戻りながら話を進める。
「はい! 使わせて下さい!」
マジか。
立花は即答だった。聞き方が悪かったのか。こんなに簡単に決めてもいいのか。切り捨てられるよりはいいか。
なんて色々考えてよく分からなくなったので、それとなく多数決に持っていくことにした。
「西川もいいの?」
西川に視線を向けると頷かれた。
「マジか君達。もっと真剣に考えた方がいいと思うよ。勝ちたいなら曲って絶対重要だよ」
流れで聞いてはもらったけど、曲は凄く重要な要素だ。
こんなに簡単に決めていいものではない。
「真剣ですよ! 昨日の曲よりもビビっと来ました!」
まさに運命! と言いたげな立花の目を見ると考えを変えることは難しそうに思えたので、折れることにした。
どの道期限が厳しいし、丁度いいのかもしれない。それに判断したのは私じゃないし。
でも一応釘は刺しておこう。
「……まぁ部長が言うならいいけど、もっと慎重になった方がいいと思うけどなぁ」
「ユカの曲ホントいいから! 自信持って!」
「へいへい」
マリのお褒めのお言葉はお友達補正なのであまり参考にならない。返事も雑になってしまう。
全員コタツに戻ったところで立花が少し話を変えた。
「今の曲もう完成してませんか? 歌詞がまだないとか?」
「いや歌詞はもう出来てる。ただ細かい直ししてると着地点が分からなくなるんだよね」
パンやEQなんて他人が聞いても違いが分からないかもしれないけど、修正したくなる。
そして修正を繰り返していると結局修正前に行き着いて、また修正したくなる。
これを繰り返しているとメロディも変えたくなってくる。という優柔不断なことをしていた。
「つまりほぼ完成ってことですね」
「うん。あとはオケの微調整だけするつもりだった」
今回はもう大きく変えないつもりでいた。絶対多分きっと変えない。
仮に変えたとしてもバンドで演奏するならあまり関係無い。
「なら音源と歌詞貰えますか?」
唐突だった。
「えっ、なんで歌詞も?」
「すぐにでも練習始めたいので」
なるほど。歌詞はパソコンに入ってる。
音源もインスト、カラオケ、ボカロが歌ったもの、私が歌ったものがある。
私は歌うのも好きで家でコソコソ録音しては悦に浸っていた。
ネットに投稿しようか考えたこともあったけど「身バレが怖い」「恥ずかしい」が半々でずっとお蔵入りしている。
歌も入っていた方がやりやすいかもしれない。でも凄く恥ずかしい。
心の準備が必要なので今日のところは適当に嘘を言って誤魔化そう。
「歌詞は家だから明日でいい? それに先にバンド編成決めたら?」
「あ、そうですね。分かりました」
よし、ひとまず危機を乗り越えた。明日渡すからあまり意味はないけど。
マリは眉尻を下げて「仕方ないなぁ」という目をしていた。全部バレているのかもしれない。
「じゃあバンドの編成を決めましょう! 皆さん楽器の経験ってあります?」
「ありません!」
元気に手を挙げて即答したマリ。マリは昨日楽器の経験が無いことを言っていたから西川に聞いたのでは。
マリの正面の西川は首を横に振っている。
立花はそれを見たあと私に視線を向けた。
「成瀬さんは?」
「え、ピアノやってるけど……」
六歳から始めたので暦は十年くらい。暦だけ無駄に長い。練習はしているつもりだけど腕前は中の下くらいだろう。
「じゃあ私のギターと、成瀬さんのキーボードは決定ですね!」
「ちょっと待って、私はバンドに参加しないよ」
「「えっ!?」」
マリと立花がハモった。
「私は作曲するだけ」
「えぇ~! 折角だからやろうよ!」
「そうですよ! さっきの曲ピアノも入ってたじゃないですか! それに作曲兼キーボードとかバンド内最強になれますよ!」
目を丸くして詰め寄ってくるマリとそれに乗る立花。だけど出る訳ない。
ステージ上で演奏するなんて、恥ずかしさで顔から火とか出そうだ。
「そんな最強目指してないから」
「ぶー!!」
「はいはいこの話はお終い。もう三人いるしスリーピースじゃん。あとベースとドラムってところ?」
マリのブーイングを受けながらも、この話はさっさと終わらせたかったので話を変える。
「ですね! でも、実はドラムには当てがあるんです!」
フッフッフ、と不敵に笑う立花にマリが視線を向ける。
「そうなの?」
「はい、チラシ見てくれた友達から聞いたんですけど、この高校は二年前まで軽音部があって、その時の幽霊部員がドラマーで今被服部の三年らしいです」
よかった、割とまともな情報だった。
立花は「吹奏楽部からかどわかしてきます!」とか言いかねないような雰囲気を持っている。そう言ったら最悪武力で止めなければいけないところだった。
それにしても軽音部があったことは初耳。でも今ほかの部活に入っているということは……
「掛け持ちしてもらうってこと?」
「はい! 今日このあと交渉に行きます!」
やはり凄い活力。もう活力の魔人だ、これは。魔人は続ける。
「という訳で、後はベースとボーカルなんですけど――」
「ベースやりたいです」
食い気味に言ったのは今まで無言だった西川。
「ホント!?」
「はい。いいですか?」
「うん、いいよー」
西川がマリに視線を向けて確認するとマリはあっさり了承した。
マリも立花も西川がベースを担当したいと言ったことが嬉しそうだけど、私にはボーカルをやりたくないからベースを選んだように見えた。
「じゃあ中村さんボーカルいいですか?」
「えっへへー、いいのー? 私で。照れちゃうなぁ」
マリは組んだ手をモジモジとさせているが、満更でもないのが見え見えで鬱陶しい。
というか、バンドの顔であるボーカルをそんな適当に決めてもいいのだろうか。
「あ、やっぱり部内でオーディションしましょう」
「あれー?」
鬱陶しい態度に不安を感じたようで、オーディションを提案されると、マリは不服気だった。
一応フォローしておく。たまに行くカラオケで歌が上手いことは知っていた。
「マリは歌上手いよ」
「いやー、褒めるなよ、親友」
ニコニコしながら肘でつついて来た。なかなか鬱陶しい。フォローしたのは失敗だったか。
つつくのを止めてマリは続けた。
「もし被服部員さんがダメだったら私ドラムやってみるよ。ドラムって体力使いそうだし、私に向いてそうな気がする」
「体力に自信あるんですか?」
「うん、何を隠そう小六までバレエをやっていたのだよ。体力落ちないようにたまにランニングとかしてるし」
「以外です! ただのコタツムリじゃなかったんですね!」
「そうだよー。私は能あるコタツムリなのだよ」
マリは本当になんでも出来る。私が勝てるのは音楽くらいしか思い浮かばない。
「勉強も出来るしね。無駄にハイスペックなのが腹立たしい」
賞賛すると当人は胸を張って鼻が伸びそうな勢いになった。
「ハハハ、褒めすぎだろ、親友! まぁ私を倒せるのはコタツか食後三十分くらいだね!」
「食後三十分ってなんです?」
「眠くなっちゃうの」
「あー」
マリと立花のやりとりに西川がコタツに手を置きながら言う。
「コタツもありますね」
「そうなの、ココにいると私は限りなく負け続ける……」
シオシオと聞こえそうな感じでコタツにへたれこむマリを少しいじりたくなった。
仕方ないね、やれやれ。といった感じで言ってみる。
「じゃあコタツしまおうか」
「鬼か。まだ寒いわい」
睨みつけられた。いい反応に満足した。
立花が話を進める。
「とりあえず編成は大体目処がついたので、今から被服部のドラマーさんに会いに行ってきます。早い方がいいと思うので。成瀬さん、一緒に来てもらえますか?」
「え、私も?」
行きたくない。なぜ私が。
「はい、副部長ですし、交渉は二人で行った方が有利な気がします」
この魔人は意外と計算高い。そういえばDTM部にも二人で来たな。しかも勝手に副部長にされている。
まぁ、部長を押し付けたようなものだし、付き合いますか。
「分かった。被服部ってどこか分かる?」
「はい! では行きましょう!」
立ち上がり上履きを履いて部室の扉に向かう。
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
マリと西川からの今日二度目のお見送りに立花が元気に返した。
私は立花と二人で被服部の部室に向かった。
「無事に部が設立できたので、さっそく第一回軽音部会議を始めます!」
「わー!」
マリは歓声を挙げながら、西川は無表情のまま拍手した。
「まず、ガルテナに向けた曲なんですけど、成瀬さん、一曲作るのにどれくらい時間かかります?」
「本気で打ち込みしなくていいなら……一ヶ月は欲しいかな」
「ガルテナは予選登録が六月一日からなんですよ」
今日は四月九日、つまり……
「あと二ヵ月弱で形になる演奏にするの? 無理じゃない?」
西川は初心者だし、そもそもバンド編成も決まっていない。なにも想像できない。
というか決めるならバンド編成の方が先ではないだろうか。気持ちが先走っているように思えた。
「全力を尽くせばきっと大丈夫ですよ!」
ピカピカと輝きそうな笑顔に何も言えなくなってしまった。立花は続ける。
「ちなみに昨日聞かせてくれた曲ってダメですか?」
「アレはダメ」
あの曲はオリジナルのボカロ曲としてネットに投稿しているからダメ。
「今作ってる曲は? 昨日『もう少しで出来る』って言ってたやつ」
マリから意外な提案が来た。言葉に詰まってしまう。
「その今作ってる曲ダメですか?」
「……ダメって訳じゃないけど、聞いてもいないのに決めるのおかしくない?」
「じゃあ聞かせて下さい! お願いします!」
「……分かった」
しまった、心の準備が。
昨日もそうだったけど、マリ以外に直接聞かせたこと無いから凄く恥ずかしいんだよなぁ……
でも話の流れ的に断るのはおかしい。それに、こんなに元気よくお願いされると断りづらい。
気が重いけど、コタツから立ち上がりパソコンデスクに向かう。
三人もコタツから出てパソコンデスクを囲んでいた。
パソコンを操作し、再生ボタンを押す直前で緊張が走った。
昨日とは違う。これは明確な品定め。「この曲ではダメ」とバッサリ切り捨てられることも覚悟する。
バレないように深呼吸をして、完成間近の曲のインストを再生ボタンを押した。
今度の曲は16ビートのピアノロック。
明るいコード進行でアップテンポなので大会向けかもしれない。いやよく分からないけど。
などと考えつつ、切り捨てられる心の準備をしていると曲が終わった。
「凄くいいじゃないですか!」
立花はとても気にってくれたようだ。西川も何度か頷いてくれた。
曲を聞いている時の反応からもういい印象を受けてもらえていると思ってはいたけど、安心した。よかったー。
今度は安心の気持ちの方が強い。昨日はたまたま喜んでもらえただけかもしれない、という不安があった。
「でっしょー!!」
またマリが凄く嬉しそう。私よりも嬉しそうだ。
「だからなんでマリが自慢気なの」
「ユカは私が育てたといっても」
「過言だって。で、この曲でいいの?」
マリのボケがありがたい。冷静になれたのでコタツに戻りながら話を進める。
「はい! 使わせて下さい!」
マジか。
立花は即答だった。聞き方が悪かったのか。こんなに簡単に決めてもいいのか。切り捨てられるよりはいいか。
なんて色々考えてよく分からなくなったので、それとなく多数決に持っていくことにした。
「西川もいいの?」
西川に視線を向けると頷かれた。
「マジか君達。もっと真剣に考えた方がいいと思うよ。勝ちたいなら曲って絶対重要だよ」
流れで聞いてはもらったけど、曲は凄く重要な要素だ。
こんなに簡単に決めていいものではない。
「真剣ですよ! 昨日の曲よりもビビっと来ました!」
まさに運命! と言いたげな立花の目を見ると考えを変えることは難しそうに思えたので、折れることにした。
どの道期限が厳しいし、丁度いいのかもしれない。それに判断したのは私じゃないし。
でも一応釘は刺しておこう。
「……まぁ部長が言うならいいけど、もっと慎重になった方がいいと思うけどなぁ」
「ユカの曲ホントいいから! 自信持って!」
「へいへい」
マリのお褒めのお言葉はお友達補正なのであまり参考にならない。返事も雑になってしまう。
全員コタツに戻ったところで立花が少し話を変えた。
「今の曲もう完成してませんか? 歌詞がまだないとか?」
「いや歌詞はもう出来てる。ただ細かい直ししてると着地点が分からなくなるんだよね」
パンやEQなんて他人が聞いても違いが分からないかもしれないけど、修正したくなる。
そして修正を繰り返していると結局修正前に行き着いて、また修正したくなる。
これを繰り返しているとメロディも変えたくなってくる。という優柔不断なことをしていた。
「つまりほぼ完成ってことですね」
「うん。あとはオケの微調整だけするつもりだった」
今回はもう大きく変えないつもりでいた。絶対多分きっと変えない。
仮に変えたとしてもバンドで演奏するならあまり関係無い。
「なら音源と歌詞貰えますか?」
唐突だった。
「えっ、なんで歌詞も?」
「すぐにでも練習始めたいので」
なるほど。歌詞はパソコンに入ってる。
音源もインスト、カラオケ、ボカロが歌ったもの、私が歌ったものがある。
私は歌うのも好きで家でコソコソ録音しては悦に浸っていた。
ネットに投稿しようか考えたこともあったけど「身バレが怖い」「恥ずかしい」が半々でずっとお蔵入りしている。
歌も入っていた方がやりやすいかもしれない。でも凄く恥ずかしい。
心の準備が必要なので今日のところは適当に嘘を言って誤魔化そう。
「歌詞は家だから明日でいい? それに先にバンド編成決めたら?」
「あ、そうですね。分かりました」
よし、ひとまず危機を乗り越えた。明日渡すからあまり意味はないけど。
マリは眉尻を下げて「仕方ないなぁ」という目をしていた。全部バレているのかもしれない。
「じゃあバンドの編成を決めましょう! 皆さん楽器の経験ってあります?」
「ありません!」
元気に手を挙げて即答したマリ。マリは昨日楽器の経験が無いことを言っていたから西川に聞いたのでは。
マリの正面の西川は首を横に振っている。
立花はそれを見たあと私に視線を向けた。
「成瀬さんは?」
「え、ピアノやってるけど……」
六歳から始めたので暦は十年くらい。暦だけ無駄に長い。練習はしているつもりだけど腕前は中の下くらいだろう。
「じゃあ私のギターと、成瀬さんのキーボードは決定ですね!」
「ちょっと待って、私はバンドに参加しないよ」
「「えっ!?」」
マリと立花がハモった。
「私は作曲するだけ」
「えぇ~! 折角だからやろうよ!」
「そうですよ! さっきの曲ピアノも入ってたじゃないですか! それに作曲兼キーボードとかバンド内最強になれますよ!」
目を丸くして詰め寄ってくるマリとそれに乗る立花。だけど出る訳ない。
ステージ上で演奏するなんて、恥ずかしさで顔から火とか出そうだ。
「そんな最強目指してないから」
「ぶー!!」
「はいはいこの話はお終い。もう三人いるしスリーピースじゃん。あとベースとドラムってところ?」
マリのブーイングを受けながらも、この話はさっさと終わらせたかったので話を変える。
「ですね! でも、実はドラムには当てがあるんです!」
フッフッフ、と不敵に笑う立花にマリが視線を向ける。
「そうなの?」
「はい、チラシ見てくれた友達から聞いたんですけど、この高校は二年前まで軽音部があって、その時の幽霊部員がドラマーで今被服部の三年らしいです」
よかった、割とまともな情報だった。
立花は「吹奏楽部からかどわかしてきます!」とか言いかねないような雰囲気を持っている。そう言ったら最悪武力で止めなければいけないところだった。
それにしても軽音部があったことは初耳。でも今ほかの部活に入っているということは……
「掛け持ちしてもらうってこと?」
「はい! 今日このあと交渉に行きます!」
やはり凄い活力。もう活力の魔人だ、これは。魔人は続ける。
「という訳で、後はベースとボーカルなんですけど――」
「ベースやりたいです」
食い気味に言ったのは今まで無言だった西川。
「ホント!?」
「はい。いいですか?」
「うん、いいよー」
西川がマリに視線を向けて確認するとマリはあっさり了承した。
マリも立花も西川がベースを担当したいと言ったことが嬉しそうだけど、私にはボーカルをやりたくないからベースを選んだように見えた。
「じゃあ中村さんボーカルいいですか?」
「えっへへー、いいのー? 私で。照れちゃうなぁ」
マリは組んだ手をモジモジとさせているが、満更でもないのが見え見えで鬱陶しい。
というか、バンドの顔であるボーカルをそんな適当に決めてもいいのだろうか。
「あ、やっぱり部内でオーディションしましょう」
「あれー?」
鬱陶しい態度に不安を感じたようで、オーディションを提案されると、マリは不服気だった。
一応フォローしておく。たまに行くカラオケで歌が上手いことは知っていた。
「マリは歌上手いよ」
「いやー、褒めるなよ、親友」
ニコニコしながら肘でつついて来た。なかなか鬱陶しい。フォローしたのは失敗だったか。
つつくのを止めてマリは続けた。
「もし被服部員さんがダメだったら私ドラムやってみるよ。ドラムって体力使いそうだし、私に向いてそうな気がする」
「体力に自信あるんですか?」
「うん、何を隠そう小六までバレエをやっていたのだよ。体力落ちないようにたまにランニングとかしてるし」
「以外です! ただのコタツムリじゃなかったんですね!」
「そうだよー。私は能あるコタツムリなのだよ」
マリは本当になんでも出来る。私が勝てるのは音楽くらいしか思い浮かばない。
「勉強も出来るしね。無駄にハイスペックなのが腹立たしい」
賞賛すると当人は胸を張って鼻が伸びそうな勢いになった。
「ハハハ、褒めすぎだろ、親友! まぁ私を倒せるのはコタツか食後三十分くらいだね!」
「食後三十分ってなんです?」
「眠くなっちゃうの」
「あー」
マリと立花のやりとりに西川がコタツに手を置きながら言う。
「コタツもありますね」
「そうなの、ココにいると私は限りなく負け続ける……」
シオシオと聞こえそうな感じでコタツにへたれこむマリを少しいじりたくなった。
仕方ないね、やれやれ。といった感じで言ってみる。
「じゃあコタツしまおうか」
「鬼か。まだ寒いわい」
睨みつけられた。いい反応に満足した。
立花が話を進める。
「とりあえず編成は大体目処がついたので、今から被服部のドラマーさんに会いに行ってきます。早い方がいいと思うので。成瀬さん、一緒に来てもらえますか?」
「え、私も?」
行きたくない。なぜ私が。
「はい、副部長ですし、交渉は二人で行った方が有利な気がします」
この魔人は意外と計算高い。そういえばDTM部にも二人で来たな。しかも勝手に副部長にされている。
まぁ、部長を押し付けたようなものだし、付き合いますか。
「分かった。被服部ってどこか分かる?」
「はい! では行きましょう!」
立ち上がり上履きを履いて部室の扉に向かう。
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
マリと西川からの今日二度目のお見送りに立花が元気に返した。
私は立花と二人で被服部の部室に向かった。
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