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被服部のドラマー
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被服部部室に着き、立花が扉をノックしている。が、誰も出てこない。
廊下も部室内もしんとしている。
「あれ、誰もいないのかな……」
もう一度ノックした。すると扉が勢いよく開けられた。
「うるせー!」
「わっ! びっくりした!」
静かな廊下に響き渡る大声。
私は少し離れた位置にいたのでまだマシだけど、ノックしていた立花は相当驚いただろう。のけぞっていた。
「なに? なんか用?」
中から出てきた被服部員と思われる少女が立花をジロジロ見ながら言う。眉尻は吊り上がっていた。
身長は少し高く、ベリーショートの髪が切れ長な目を際立たせていた。可愛いというよりも美人系。
上履きから三年生だと分かった。
「こんにちは! 被服部の人ですか?」
「ここに野球部いる訳無いよな」
「私、軽音部の立花っていいます! 被服部さんにお話しがあって来ました! 上がらせてもらってもいいですか!?」
嫌味兼ボケを意に介さず元気よく要件を伝える活力魔人。強い。
「嫌だ! 帰れ!」
被服部員は半ギレで魔人に劣らぬ強さだった。もう撤退したい。
「うわっ!」
突然被服部員が私を見て驚いた。少し離れていたので気にしていなかったのだろう。
「……お前……可愛いな……」
「ども、ハハハ……」
心底意外なことを言われたので苦笑しながら適当に返した。
顔なんてマリにしか褒められたことがない。マリも完全にからかいが入っている。
というか客観的に立花の方が可愛いと思う。まぁ趣味は人それぞれだし、この人は変わった趣味なのだろう。
「用があるんだっけ? 上がってきなよ」
「応対変わった!」
キメ顔に変わった被服部員に、立花は鋭くツッコミを入れた。
「悪かったよ、ちょっとイライラしててさ。今回復したからもう大丈夫」
軽く謝罪して私達を被服部の部室に入るよう顎で促した。
被服部部室に入る。部室内は誰もおらず、座る面が丸い背もたれの無い椅子が並べられていた。
被服部員が窓際の椅子にどっかりと座り足を組んだ。
向かい合うように椅子があったので「そこに座れ」ということなのだろう。
二人とも座るとニヤリとして自己紹介をしてくれた。
「私は佐伯佐奈栄、被服部のエースだ。そっちは?」
被服部にエースという概念があるのだろうか、と思いつつ、自己紹介済ませる。
その後、立花が経緯を説明した。
軽音部を立ち上げバンドを結成したこと、ガルテナへの出場を目標にしていること、軽音部があった時代の幽霊部員ドラマーを探して被服部に来たこと。
説明は立花に任せて私は黙っていた。佐伯さんは苦手なタイプだし。
「あー、幽霊部員ドラマーな。それ私だ」
「ホントですか!?」
「あぁ、ガキの頃からドラムやってて、ストレス発散にたまに叩かせて貰ってたんだよ。今もたまに軽音部のドラム引っ張り出して叩いてるよ」
偶然というかラッキーというか、探していた人物はすぐに見つかった。
立花は前のめりになってお願いした。
「私達のバンドでドラムやってもらえませんか?」
「なるほど、私のところに来るとはなかなか目が高いな」
「え?」
佐伯さんは立ち上がり、胸を張った。その胸に右手を、腰には左手を当てたご丁寧なポーズ付きのドヤ顔で言った。
「私はロックポップジャズボサノバなんでも叩ける上、顔もスタイルも良くて歌も上手い! ドラフトなら全球団一位指名間違いなしの逸材だぞ!」
マジかこの人。顔とスタイルがいいのはまぁ認めるけど、それにしても自信に満ち溢れすぎでは。
「はぁ」
立花は目を丸くしていた。この人なに言ってんのか分かんない。と言わんばかりで少し笑いそうになる。
そんな立花を意に介さず佐伯さんはニヤリとした。
「ガルテナは面白そうだから考えてやってもいいけど、条件が二つある」
「なんですか?」
「ユカリを自由に着せ替え出来る権利をくれ」
指をさされての謎の要求に一瞬固まってしまった。
しかも名前呼び。距離の詰め方が半端じゃない。やはり苦手なタイプだ。
「成瀬さん!」
軽音部の為に犠牲になってくれ! という目で立花が見てくる。
「嫌です」
冷静に返した。嫌に決まっている。
「よし交渉成立!」
「え」
「ちょっと待って下さい! おかしくないですか? 今成瀬さん拒否しましたよ!」
私の代わりに立花がツッコんでくれた。聞こえていなかったのだろうか。
「拒否されるのもよかった……」
聞こえていたようだ。満足したように恍惚の表情を浮かべていた。
「「えぇ……」」
二人でドン引きした。趣味がおかしい上に変態なのかもしれない。
「いや冗談冗談。じゃあ条件二つ目な」
「はい……」
立花は少しげんなりした様子だ。分かるよ。佐伯さんはなにかおかしい。去年のDTM部部長もこんな感じだった。
少し疲れている私達をニヤニヤ見ながら佐伯さんは言った。
「お前らが私に見合うか、見せてくれ」
二つ目の条件も意外な物だった。
というか意味が分からない。どうすればいいのだろうか。
立花も当然分からなかったようで佐伯さんに細かい説明を求めた。
「どういうことです?」
「お前らの演奏聞かせてくれよ。それがいい感じだったらお前らのバンドに入ってやる」
凄い上から目線、凄い自信だ。自分が上すぎて釣り合うか疑わしいと言っている。自信の無い私とはまるで真逆。
「はぁ……あ、でも立ち上げたばかりだし、ベースは初心者なんですよ」
「じゃあ一ヶ月待つ」
「一ヶ月ですか……」
立花は考えている。一ヶ月って、楽器の初心者には相当厳しいような気がするけど。
と考えていると、佐伯さんがニヤニヤしながら挑発してきた。
「ガルテナに出場すんだろ? これくらい出来ねーの?」
見え見えの挑発。マズイ。立花はチョロい所がある。
「分かりました! やりましょう!」
やっぱりチョロかった。少し頭を抱えたくなった。
まぁでも別にいいか。マリがドラムやってもいいって言ってたし、佐伯さんが軽音部をお気に召さなくても問題は無さそう。
「よし、じゃあとりあえず仮入部するわ」
「え」
ニヤつく佐伯さんの唐突な宣言に、驚きで声を上げてしまった。一ヶ月待つんじゃないのか。
でも立花は目を輝かせていた。
「ホントですか!?」
「あぁ、クリア出来たらご褒美に衣装作ってやるよ」
「えっ!? 衣装!?」
「あぁ、私は被服部のエースだぞ。むしろそっちが本業だろ」
「やったー!!」
立花は万歳して喜んだ。そんなに嬉しいものだろうか。別に私服でも制服でもいいと思うけど。
「喜んでるけど、クリア出来たらだからな」
「分かってますよ! 私達は本気でガルテナ目指してますから余裕ですよ!」
「おっ! 言うなぁ! そういうの好きだ! 頑張れよ!」
「はい!」
二人とも満面の笑顔で楽しそうだった。
胸がチクリとする。
私はそこまで本気ではないし、曲に自信も無い。それに楽器初心者もいるから本選出場は難しいと思っている。
マリは私の曲を聞いてもらうことを目的としている。
目的が違う。
これは致命的な問題になりえないだろうか。合併の判断は軽率だったかもしれない。
廊下も部室内もしんとしている。
「あれ、誰もいないのかな……」
もう一度ノックした。すると扉が勢いよく開けられた。
「うるせー!」
「わっ! びっくりした!」
静かな廊下に響き渡る大声。
私は少し離れた位置にいたのでまだマシだけど、ノックしていた立花は相当驚いただろう。のけぞっていた。
「なに? なんか用?」
中から出てきた被服部員と思われる少女が立花をジロジロ見ながら言う。眉尻は吊り上がっていた。
身長は少し高く、ベリーショートの髪が切れ長な目を際立たせていた。可愛いというよりも美人系。
上履きから三年生だと分かった。
「こんにちは! 被服部の人ですか?」
「ここに野球部いる訳無いよな」
「私、軽音部の立花っていいます! 被服部さんにお話しがあって来ました! 上がらせてもらってもいいですか!?」
嫌味兼ボケを意に介さず元気よく要件を伝える活力魔人。強い。
「嫌だ! 帰れ!」
被服部員は半ギレで魔人に劣らぬ強さだった。もう撤退したい。
「うわっ!」
突然被服部員が私を見て驚いた。少し離れていたので気にしていなかったのだろう。
「……お前……可愛いな……」
「ども、ハハハ……」
心底意外なことを言われたので苦笑しながら適当に返した。
顔なんてマリにしか褒められたことがない。マリも完全にからかいが入っている。
というか客観的に立花の方が可愛いと思う。まぁ趣味は人それぞれだし、この人は変わった趣味なのだろう。
「用があるんだっけ? 上がってきなよ」
「応対変わった!」
キメ顔に変わった被服部員に、立花は鋭くツッコミを入れた。
「悪かったよ、ちょっとイライラしててさ。今回復したからもう大丈夫」
軽く謝罪して私達を被服部の部室に入るよう顎で促した。
被服部部室に入る。部室内は誰もおらず、座る面が丸い背もたれの無い椅子が並べられていた。
被服部員が窓際の椅子にどっかりと座り足を組んだ。
向かい合うように椅子があったので「そこに座れ」ということなのだろう。
二人とも座るとニヤリとして自己紹介をしてくれた。
「私は佐伯佐奈栄、被服部のエースだ。そっちは?」
被服部にエースという概念があるのだろうか、と思いつつ、自己紹介済ませる。
その後、立花が経緯を説明した。
軽音部を立ち上げバンドを結成したこと、ガルテナへの出場を目標にしていること、軽音部があった時代の幽霊部員ドラマーを探して被服部に来たこと。
説明は立花に任せて私は黙っていた。佐伯さんは苦手なタイプだし。
「あー、幽霊部員ドラマーな。それ私だ」
「ホントですか!?」
「あぁ、ガキの頃からドラムやってて、ストレス発散にたまに叩かせて貰ってたんだよ。今もたまに軽音部のドラム引っ張り出して叩いてるよ」
偶然というかラッキーというか、探していた人物はすぐに見つかった。
立花は前のめりになってお願いした。
「私達のバンドでドラムやってもらえませんか?」
「なるほど、私のところに来るとはなかなか目が高いな」
「え?」
佐伯さんは立ち上がり、胸を張った。その胸に右手を、腰には左手を当てたご丁寧なポーズ付きのドヤ顔で言った。
「私はロックポップジャズボサノバなんでも叩ける上、顔もスタイルも良くて歌も上手い! ドラフトなら全球団一位指名間違いなしの逸材だぞ!」
マジかこの人。顔とスタイルがいいのはまぁ認めるけど、それにしても自信に満ち溢れすぎでは。
「はぁ」
立花は目を丸くしていた。この人なに言ってんのか分かんない。と言わんばかりで少し笑いそうになる。
そんな立花を意に介さず佐伯さんはニヤリとした。
「ガルテナは面白そうだから考えてやってもいいけど、条件が二つある」
「なんですか?」
「ユカリを自由に着せ替え出来る権利をくれ」
指をさされての謎の要求に一瞬固まってしまった。
しかも名前呼び。距離の詰め方が半端じゃない。やはり苦手なタイプだ。
「成瀬さん!」
軽音部の為に犠牲になってくれ! という目で立花が見てくる。
「嫌です」
冷静に返した。嫌に決まっている。
「よし交渉成立!」
「え」
「ちょっと待って下さい! おかしくないですか? 今成瀬さん拒否しましたよ!」
私の代わりに立花がツッコんでくれた。聞こえていなかったのだろうか。
「拒否されるのもよかった……」
聞こえていたようだ。満足したように恍惚の表情を浮かべていた。
「「えぇ……」」
二人でドン引きした。趣味がおかしい上に変態なのかもしれない。
「いや冗談冗談。じゃあ条件二つ目な」
「はい……」
立花は少しげんなりした様子だ。分かるよ。佐伯さんはなにかおかしい。去年のDTM部部長もこんな感じだった。
少し疲れている私達をニヤニヤ見ながら佐伯さんは言った。
「お前らが私に見合うか、見せてくれ」
二つ目の条件も意外な物だった。
というか意味が分からない。どうすればいいのだろうか。
立花も当然分からなかったようで佐伯さんに細かい説明を求めた。
「どういうことです?」
「お前らの演奏聞かせてくれよ。それがいい感じだったらお前らのバンドに入ってやる」
凄い上から目線、凄い自信だ。自分が上すぎて釣り合うか疑わしいと言っている。自信の無い私とはまるで真逆。
「はぁ……あ、でも立ち上げたばかりだし、ベースは初心者なんですよ」
「じゃあ一ヶ月待つ」
「一ヶ月ですか……」
立花は考えている。一ヶ月って、楽器の初心者には相当厳しいような気がするけど。
と考えていると、佐伯さんがニヤニヤしながら挑発してきた。
「ガルテナに出場すんだろ? これくらい出来ねーの?」
見え見えの挑発。マズイ。立花はチョロい所がある。
「分かりました! やりましょう!」
やっぱりチョロかった。少し頭を抱えたくなった。
まぁでも別にいいか。マリがドラムやってもいいって言ってたし、佐伯さんが軽音部をお気に召さなくても問題は無さそう。
「よし、じゃあとりあえず仮入部するわ」
「え」
ニヤつく佐伯さんの唐突な宣言に、驚きで声を上げてしまった。一ヶ月待つんじゃないのか。
でも立花は目を輝かせていた。
「ホントですか!?」
「あぁ、クリア出来たらご褒美に衣装作ってやるよ」
「えっ!? 衣装!?」
「あぁ、私は被服部のエースだぞ。むしろそっちが本業だろ」
「やったー!!」
立花は万歳して喜んだ。そんなに嬉しいものだろうか。別に私服でも制服でもいいと思うけど。
「喜んでるけど、クリア出来たらだからな」
「分かってますよ! 私達は本気でガルテナ目指してますから余裕ですよ!」
「おっ! 言うなぁ! そういうの好きだ! 頑張れよ!」
「はい!」
二人とも満面の笑顔で楽しそうだった。
胸がチクリとする。
私はそこまで本気ではないし、曲に自信も無い。それに楽器初心者もいるから本選出場は難しいと思っている。
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