ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

文字の大きさ
53 / 81

作戦と敬語

しおりを挟む
 翌日のお昼休み、先生に部活を続けることを報告しに行った。
夏休み明けまで、と期限を切ってもらったにも拘らず、夏休みに入る前に結論を変えたことは恥ずかしかったけど、先生はにこやかに聞いてくれた。

 そして放課後、皆で部室のコタツを囲んでいた。
チハルが切り出す。

「ユカリさんも復帰しましたし、今日から本格的にリコルリエ再始動します!」
「その節は大変ご迷惑をお掛け致しました」
「腰低っ」

 コタツに額を付けて謝るとマリにツッコまれた。

「もう少しで縛り上げて引きずり出すとこだったぞ」

 ニヤついているサナエさんが言うと、シオリがツッコむ。

「短気」
「うっせ」
「気にしないで下さい! 復帰してくれたので問題ありません!」

 チハルの言葉にシオリが強く頷いた。チハルは続ける。

「それで今後ですが、シオリの分析を基に、戦略を練っていきたいと思っています」
「分析って、シオリちゃんが言ってた『ガルテナはファンが多い方が有利』ってやつ?」

 マリが問いかける。
お昼休みに中庭でシオリが伝えてくれた予選敗退の分析、皆にも報告してあるというのは本当だったらしい。別に疑っていた訳じゃないけど。

「そう。つまり、ファンを増やしていこうということです」
「具体的には?」
「九月から来年の六月まで毎月一日に動画を投稿するようにしましょう。ガルテナの予選登録は必ず一日開始なので、そちらにもいい影響が期待できます」
「曲は?」
「毎月新曲は無理だと思うので、既存の曲を使わせてもらおうと思います」

 曲のこととなれば静かに聞いている訳にはいかない。
チハルに視線を向け提案する。

「用意できるから私の曲使って貰えないかな」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、今まで作った曲が十三曲あるからそれを使って欲しい」
「分かりました! 是非お願いします!」
「了解。ちょっと手直しして用意できたらすぐ渡す」

 ネットに投稿している曲を使って貰おう。ユーザー情報にリコルメンバーであることを書いておけばいい。
公平な評価が欲しいならまたユーザーを作ればいいだけのこと。
そうだ、チハルこそ笑顔で了承してくれたけど、皆はどうだろう。

「っていうか毎月新曲を覚えなきゃいけない皆の方がキツイと思う。いいかな?」
「当然!」

 マリが食い気味に即答してくれた。私が映る目には闘志の炎も映っていた。
それにシオリも強く頷いてくれた。
頬杖をつきながらニヤついていたサナエさんも私を見ていた。

「マシになったな」
「ども」

 軽く頭を下げた。同じクリエイター同士、今までの私に足りなかった物を見抜かれていた気がする。
チハルが話を進める

「では曲に関しては決定ですね。次は一発物ですが文化祭です。文化祭でステージを借りて実戦経験を積みたいと思います」
「いいと思う! 楽しみだねー!」
「人前でやるのか……緊張するな……」
「それに慣れるためですよ」
「ガクブルしてる奴がなにを偉そうに」

 ビビった私に言うシオリをサナエさんが笑った。
そうだそうだ。予選動画撮影の時も結果発表の時も、私はシオリ程震えていなかったぞ!
とは言わなかった。どんぐりの背比べになるから。

「なにか他にある人はいますか?」
「SNSやろう。ユカリとシオリに可愛い服着せてアップすればフォロワー爆上げ間違いなしだ」
「いいかも!!」

 邪悪なニヤつきになったサナエさんの提案にマリが乗った。マリは完全に悪乗り。

「「嫌です」」

 シオリとハモってしまった。二人でジロリとサナエさんを睨むと、とても嬉しそうな顔をされた。
しまった、忘れてたけどこの人変態だった。

「私も反対です。SNSよく分かりませんけど無用なトラブルが怖いっす」
「ちっ、お堅い連中だな」

 サナエさんの舌打ちと同時に、多数決で否決が決まった。

「まとめますね。一つ目は毎月の動画投稿、二つ目は文化祭。他に何か案のある人はいますか?」

 皆は沈黙で案が無いことを伝えると、チハルが言った。

「ではこの二つをやっていくことにします。なにか思いついたら遠慮なく言って下さい」
「あのよぉ、敬語止めよーぜ」

 サナエさんが唐突に提案した。
さっきまでのニヤつきは消え、真面目な提案のように思えた。
チハルがサナエさんに視線を向ける。

「突然ですね」
「もう私等の間で遠慮も気遣いもいらんだろ」

 今度は私が返す。

「サナエさん、遠慮や気遣いしてました?」
「私はしねーよ。お前らだよ」

 問いかけるとアハハっと笑われた。頼むから少しはしてくれ。
サナエさんは続ける。

「よし、いっちょ多数決でもしてみるか。敬語反対派は挙手!」

 サナエさんはピシッと挙げたが、他は誰も挙げなかった。
すると、サナエさんはキレた。

「あーそうですか!! お前ら一生敬語でいるんですねぇ!!」
「変なキレ方しないで下さいよ……」
「サナエさん初敬語だね」
「ここまで品性を感じない敬語もあるんですね」

 シオリは敬語で遠慮の無いツッコミを入れた。

「あの、私としては先輩方がよければ、という感じなんですが……」
「私もー」

 チハルが控えめに言うとマリも同意した。

「お、勝ちの目が出てきたな。じゃあニ、三年限定で多数決だ。下級生のタメ口が許せない奴は挙手!」

 ニ、三年と言っても三年はサナエさんだけで、実質二年のマリと私に対する意思確認だった。
私は別に気にしない。むしろチハルとシオリであればタメ口は嬉しいかもしれない。
そう思って手を挙げなかった。マリも挙げない。
それを見てサナエさんはまたニヤついた。

「よし! 勝勢だ! じゃあ次は一、ニ年限定だ! 上級生がいいと言うならタメ口でいいという奴は挙手!」

 全員挙げた。なぜか三年のサナエさんまで。サナエさんはガハハと笑った。

「決まりだな! 今日から敬語は禁止だ!」
「禁止になるんですか?」
「そうだ。チハルは今ので罰。あとでコブラツイスト」
「えぇ……罰ありなの……」

 チハルは問いかけたら罰を受けることになり唖然としていた。
しかし、今までずっとサナエさんには敬語だったのでいきなり言われても違和感がある。

「なんか慣れない……」
「一週間もすれば慣れるって! はっはっは! 当然シオリもタメ口だからな!」

 シオリは誰にでも敬語だった。なぜか同学年のチハルにまで。

「部の決定と方針であれば従うよ」
「お、即適用か」

 シオリは満足そうなサナエさんを無視して皆に言った。

「でも皆、気を付けてね。そこの先生にまでタメ口な粗暴な人みたいにならないように」
「「はーい」」

 マリは笑顔で、チハルは目を丸くして答えた。シオリが最上級生のようだ。
ちなみにサナエさんは先生に対してもタメ口だ。私もそれはどうかと思っていた。

「言ってくれんじゃねーの、チビッ子」

 サナエさんはニヤニヤしながら右手をシオリの頭に伸ばし、それをシオリの両手が防ぐ。
いつもの右手対左手が始まり、久しぶりに参加した軽音部会議は幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...