ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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初詣

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 元旦、家族と朝食を食べた後、十時半少し前に身支度を整えて玄関を出た。
はぁ、っと息を吐くと真っ白になる。寒いけど、とても晴れやかな気分だった。お正月特有の高揚感に充てられている。
さっきまでだらだらと見ていたテレビの影響を受けているかも。振袖を着た芸能人が新年を祝っていたり、お母さんが録画していたダイヤモンド富士の初日の出を見たりして完全にお正月モードだ。

 今日は皆と近所の神社で初詣をした後、屋台でお昼を食べて、そのあと家で冬テナ予選結果を一緒に見る予定になっていた。
待ち合わせの神社は家から徒歩ニ十分くらい。マリと一緒に行くので、まずはマリの家に向かった。




 マリの家に着いたのでメッセージを送る。

『着いたよ』
『了解!』

 すぐに来た返信の後すぐマリの家の玄関が開いた。ニコニコしたマリが出てくる。

「明けましておめでとー!!」

 見慣れた笑顔だけど、さっきまで見たダイヤモンド富士よりご利益がありそう。つい頬が緩んでしまう笑顔だった。

「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「こちらこそよろしくー! あ、ユカさぁ、何あの年賀状」
「え、なに?」
「あの牛の絵怖いよ」
「うっそ、可愛くない?」
「どういうセンスしてんの」

 マリはハハハと笑った。おかしい、かなり可愛いイラストを選んだはずなのに。
そんな風にいつもの雑談をしながら神社に向かった。




 神社はなかなか大きくて屋台も参拝者も多い。鳥居の前が広場のようになっていて、そこで皆と待ち合わせていた。
集合時間より少し前に着いたけど、私達が着くともう皆が待っていた。

「明けましておめでとー!!」

 マリが元気に挨拶をすると、皆で挨拶をし合った。明けましておめでとう。今年もよろしく、と。
その中で、チハルの表情は暗かった。なんとなく察しは付いていたけど聞いてみる。

「で、チハルが暗いのって」
「予選の結果発表にビビってんだよ」

 サナエが「仕方ねーな」という風に苦笑しながら言った。
だと思った。夏予選の結果発表の時もこんな感じだったし。
チハルが青ざめた顔でしわがれた声を出す。

「いや全然ビビってないから……」

 マリが心配そうにチハルの顔を覗き込む。

「新年から暗いよー。笑う門だよー?」
「私ビビらせたら大したもんすよ……」
「聞こえてねーな。お前らはどうなんだよ。ピーピー泣いてたろ」

 サナエが意地悪く笑いながら私達に視線を向ける。

「いや私は泣いてないからね」

 とりあえず大事な点を主張しておく。私は泣いていない。皆の前では。

「私は今回自信ある」

 シオリが無表情のままポツリと言った。

「お、言うじゃねーか」
「再生数も結構いいし」

 シオリの言う通り、再生数は前回の倍、上位五位くらいには入れるようになっていた。皆も知っている。
毎月投稿作戦が功を奏したのかもしれない。

「ユカの曲もめっちゃいいもんね!」

 マリが抱き着いてくる。やめて、と言おうと思ったらサナエに先にツッコまれた。

「お前ら新年早々イチャコラするなぁ」
「してない。離れて」

 マリは離れながらニコニコして言った。

「そろそろお参り行こうか」
「だな! 出店ってテンション上がるよな!」
「いや『お参り』って言ったでしょ」

 お参りよりも屋台に目を輝かせたサナエにツッコんでおいた。
 シオリはまだ青ざめ放心状態のチハルの袖をクイクイと引っ張った。

「チハル、行くよ」
「私ビビらせたら――」
「それはもういいから」

 食い気味にセリフを遮り、皆で参道に向かった。




 参道は多くの人が歩いていて、着物の人もチラホラといた。
参道の真ん中を歩かない。テレビで知ったマナーだけど、なんとなく皆守っているように見えた。
そういうマナーが正しい物なのかは分からないけど、聞いた以上なんとなく意識してしまう。

 手水舎で手を清める。ひしゃくですくった水はとても冷たくで体がブルりと震えた。

 ご神前に進み、五円玉のお賽銭を下手で静かに入れ、二礼二拍手一礼をする。
手を合わせ、お祈りするときは皆無言だった。

 ご神前から離れると、マリが言った。

「皆なにお祈りしたの?」
「予選突破」
「私も」
「私も……」

 私が言うと、シオリとチハルがすぐに同意した。サナエにジロリと睨まれる。

「おいコラ、目標は優勝じゃねーのかよ」
「まずは目の前のハードル超えないと」

 シオリは強く頷いて同意してくれたけど、チハルは上の空だった。大丈夫か部長……
まぁいいや、マリにも聞いてみる。

「マリはなにお祈りしたの?」
「今年も皆と楽しくバンド出来るように!」

 満面の笑顔で即答だった。ホントにいい奴だな。

「いいところ取ってくんじゃねーよ」

 サナエが嬉しそうに笑いながら言うと、テンションのおかしいチハルが絞り出した。

「そうだよ……それ部長の私が祈ったことにしよう……」
「えぇー!? お祈り泥棒!?」

 マリは目を丸くしてツッコんだ。




 そんなことを喋りながら歩いているとすぐそばにあったおみくじが目に入る。
お正月のおみくじには引きたくなる魔力がある。

「ちょっとおみくじ引くね」
「お! 皆で引こうぜ! ビリは罰ゲームな!」

 サナエが乗ってきたけど妙な提案付きだった。
冷ややかな視線をサナエに向け言う。

「おみくじにビリとか無いから」
「あるに決まってんだろ! 運が一番悪い奴がビリな! そんじゃ私から」

 サナエは百円を木箱に入れ、楽しそうにガサゴソと紙のおみくじを選ぶ。

「これだ!」

 そう言って一枚取り出し、続けて言った。

「ほら、お前らも引けよ」

 なにやら妙なことになったが、とりあえず全員引いた。

「よーし、全員引いたな。じゃあ先手必勝だ! まずは私から」

 先手必勝も何もないと思うけど、サナエはおみくじを開けた。

「げ! 大凶!」
「うそっ!」

 サナエが右手で持つおみくじをマリが覗き込んだ。

「うわ! ホントだ! すごーい! 初めて見たかも!」
「ビリ確定だね」

 シオリはサナエをニヤリと見下した。こういう意地悪な笑顔はなかなか珍しい。
サナエがなにか言い返そうとしたけど、チハルがサナエに半泣きで掴みかかって遮った。

「ちょっと何してんの!?」
「うわ! なんだよ!」
「縁起悪すぎでしょ! 予選敗退したらどうすんの!?」
「仕方ねーだろ! おみくじなんて運なんだから!」

 サナエはチハルの珍しい勢いに押されていた。
流石にこのキレられ方は気の毒なのでチハルを羽交い絞めにしてサナエから引き剥がす。

「どうどう、落ち着いて部長。皆がよければいいじゃん」
「そうそう! 今度は私が開けるね!」

 マリがおみくじに指を掛けるとチハルが必死の形相で制止した。

「ちょっと待って! 慎重に開けて!」
「いやもう結果変わらないから」

 シオリが的確なツッコミを入れる。マリは気にせずおみくじを開けていた。

「大吉!! やったぁ!!」

 おみくじを高く掲げながら何度か跳ねて喜ぶマリ。
チハルが私の羽交い絞めを振りほどきマリに抱き着いて喜んだ。

「ナイスナイス! よかった~!! これでバンドとしてはイーブンだから!!」

 誰に言っているのかよく分からないけどとりあえずとても嬉しそう。
その隙にくじを開けた。

「あ、中吉だった」
「私も」

 シオリも一緒に開けていた。二人で見せ合ってニコリとした。
また情緒のおかしいチハルが絡んでくる。

「ちょっと! 慎重に開けてって!」
「今からそんな情緒でどうすんの」

 チハルに視線を向ける。予選結果発表までまだ時間がある。このテンションでもつのだろうか。
するとマリが言った。

「中吉は大吉の次だから今私達平均点ちょい上くらいになったよ!」
「よし! じゃあチハルも開けろ! 大凶来い!!」

 サナエがなかなか酷いことを言う。チハルの目が吊り上がった。

「ちょっと! なんてこっと言うの!!」
「お前も大凶ならビリ二人だろ!」

 ちょっと噛んだチハルをサナエはヘラヘラとからかっていた。
 チハルはブルブルと震える指先でゆっくりおみくじを開けていく。
青ざめ今にも汗が流れ落ちてきそうだ。あと開くだけになったところで天を仰いだ。

「おお神よ……」
「そこまで?」

 さすがに入れ込み過ぎではなかろうか。
単純にくじを引きたかっただけなのに、なにやら大事になってしまった。
サナエは待つのに飽きてきている様子で冷ややかに言った。

「はよ開けろ」

 チハルは深く息を吸い、ばっとおみくじを開いた。

「……大吉」
「おぉ!! おめでとー!」
「うわ! ありっ、ありがとー!!」

 マリが抱き着いて祝福するとチハルが抱きしめ返して喜んだ。
大吉組の二人は少し騒ぎ過ぎでは。
ともあれ、大凶一人、中吉二人、大吉二人と、バンドの平均としてはまぁまぁの結果になったことは少し嬉しかった。
 またシオリがサナエをニヤリと見下した。

「ビリは罰ゲームなんだよね?」
「さ、そろそろ飯にするか! なに食おっかなー」

 サナエはあからさまに話を逸らして屋台の方に歩き出した。
それでもシオリはニヤニヤしていて上機嫌だった。なかなか珍しい。おみくじで完勝したのがそんなに嬉しいのだろうか。

「待ってー! おみくじ結ばなきゃ」
「お、そうだな」

 制止したマリに反転して戻って来たサナエ。
結ぶ場所には既に沢山のおみくじが結ばれていた。その中に皆でおみくじを結んだ。

 それから屋台でお昼を食べ、結果発表に備えて私の家に向かった。
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