ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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冬テナ予選結果

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 初詣と昼食を済ませ、結果発表を見るため皆で私の部屋に集まっていた。
マリはよく来るので二人分の座布団はいつも部屋にあるけど、今日は五人分の座布団を用意しておいた。
さすがに五人だと部屋はギュウギュウになる。

「やっぱりちょっと狭かったかな」
「全然大丈夫だよ。元旦からお邪魔させて貰ってごめんね」
「ううん」

 シオリがすぐにフォローしてくれたので、首を横に振って返した。
マリが会話に入ってくる。

「そういえば皆の家行ったこと無いね」
「今度遊びに来て」
「いいの? 行く行く!」
「うん、歓迎する。身長160cm以下の人は」

 シオリはニコリとして誘ったが、身長161cmのサナエだけ鮮やかに省いた。
サナエは邪悪な笑みをシオリに向けた。

「私だけピンポイントでハブるんじゃねーよ。しかし……」

 言葉の途中で真顔になりチハルに視線を向ける。皆もチハルを見る。
 チハルはおみくじを引いた後、屋台でお昼を食べている時も暗かった。
今も皆の視線に気づかず上の空で沈黙している。
 そんなチハルにサナエが活を入れる。というか半分キレている。

「辛気くせーなオイ! しっかりしろ!」
「誰かさんが大凶引いたからー」

 マリが悪戯っぽい笑みをサナエに向けて言った。
サナエが吊り上がっていた目をそのままマリに向ける。

「あ!? 私のせいだってのか? あんなもん運だろ!」

 マリに乗ってみる。

「ノリノリで『ビリは罰ゲーム』って言ってたよね」
「どうするー?」
「コンタクトねじ込もう」

 シオリの提案はなかなか過激だった。

「ソレまだ根に持ってんのかよ……」

 サナエは半年以上前にシオリの眼鏡をいじったことを掘り起こされて怒りの勢いが落ちた。
マリは右の人差し指を顎に当てて思案する。

「食べ物系がいいなぁ」
「さっき出店で結構食べてたじゃん」

 覚えているだけで、焼きそば、お好み焼き、タコ焼き、じゃがバター、ベビーカステラを食べていた。
まだ他にも食べていた気がする。
大食いした本人は胸を張って自慢気だ。

「成長期だから」
「全然成長してないけどな」

 サナエが暗に身長をいじる。マリの身長はほぼ平均なのだけど、マリは不満げに頬を膨らませた。

「むぅ、これからですー」

 そんな会話を聞いていたシオリが、机の上に置いてある時計を見て言った。

「そろそろ時間だね」

 一秒の狂いもない電波時計は十五時少し前を示していた。
 確認は部長のチハルがすることになっているので、情緒のおかしいチハルの様子を伺う。

「うん。チハル?」
「大凶ヤバイヨ……」

 まだおかしかった。マリが苦笑する。

「まだそれ言ってんの? バンドの平均はいい方だったじゃん」
「そうそう、一人で凄い足を引っ張った人なんて気にしないで」
「お前新年になってキレがマシてんじゃないの」

 サナエはシオリの苛烈ないじりに目を丸くしていた。
 チハルが無理そうなら、と提案してみる。

「私が確認する?」
「……いや、大丈夫、私がする」

 少しの沈黙の後、少しいつもの顔色に戻して立ち上がった。

「うん、じゃあ頼んだ」

 部屋のパソコンを起動する。
チハルが椅子に座り、その周りを皆で立って囲んだ。
起動している間、やっぱり情緒のおかしいチハルが頭を抱えた。

「あぁ怖い! なんで皆そんなに落ち着いてるの!?」
「いや結構ビビってるよ」
「私も。ほら見て。足に来てる」

 私のビビり発言に乗ったシオリは、いつかのように足が震えていた。
それを見たサナエはニヤリとした。

「ヘタレめ」
「うるさい」

 シオリがサナエにジロリと返す。

 電波時計が十五時を過ぎた。一気に緊張感が増してくる。

 大丈夫、リコルのレベルは前回より跳ね上がってる。
予選動画も見た限り、他のグループにも負けてない。今度こそ大丈夫。絶対大丈夫。

 そう自分に言い聞かせたけど、自信があるけど、結果がどうなるかは分からない。鼓動が速くなっていく。
ついさっきまで余裕だった皆も静かになって、緊張の糸が張り詰めていった。

 チハルは無言で結果発表のホームページの手前まで表示させ、マウスから手を離さず、振り向かずに確認した。

「じゃあ行くよ……皆いいよね?」
「さっさと押せ」

 サナエに感情のブレは一切無かった。いつも通り。
 私とシオリとマリも続く。

「うん」
「大丈夫」
「お願い」

 マリは手を組んで祈っていた。

「……うん、覚悟決めた」

 チハルはそう小さく言うと、大きく息を吸って続けた。

「行きます! せーのっ!!」

 強めのクリックで順位が表示されているページに遷移する。
遷移した直後にサナエがチハルの右肩を掴んで身を乗り出す。

「どうだ!?」

 結果発表は夏と同様、ランキング順で上から順に表示される。今モニターに映されているのは三位まで。

 リコルリエのバンド名は三位に記載されていた。

チハルが大声を出す。

「三位!!」
「よしっ!!」「やったー!!」「よぉぉぉぉし!!」

 各々が歓声とガッツポーズを取った。
隣にいるマリと強く抱きしめ合う。

「やった……!! やったね!!」
「うん! うん!!」

 マリの声は少し裏返った。抱きしめ合っているので顔は見えないけど、多分泣いている。夏にも同じことがあったな。
あの時は仲直りの喜び、今度は予選突破の喜び。ジワジワ喜びが増してくる。込み上げるものがあったけど、グッと我慢した。
 一方でサナエとシオリも抱きしめ合っていた。

「わははは!! まぁ私達なら当然だな!!」
「うぅっ……」
「勝っても泣くのかよ笑え笑え!!」

 シオリは泣いていた。
 マリとの抱擁を解く。マリの頬には綺麗に一筋の涙の跡があった。でもニコニコしていた。
 シオリ達も抱擁を解いたので入れ替わる。サナエと両手でハイタッチした。
サナエはハイタッチした手を握りしめて離さず額を額に擦りつけてこれまでで一番の笑顔を見せてくれた。

「やったな!!」
「うん!」

 負けなんて次に勝つための布石でしかねーんだ。夏に言われた言葉。その通りになった。
 マリとシオリは抱きしめ合っていたので私もシオリに抱き着いた。

「やったね!」
「うん……よかった……」

 シオリはボロボロと泣いていた。
一人だけ初心者でプレッシャーを感じていたのかもしれない。優しく頭を撫でた。
 サナエは椅子に座ったまま固まったチハルの顔を覗き込んだ。

「おい、チハル? うわっ! お前も泣いてんのか!」
「嬉しくて嬉しくて……ホント、みんな、ありがとう……」

 消え入りそうな声で喜ぶチハルは静かに泣いていた。サナエがガハハと笑い飛ばす。

「礼が早ーよ! 通過点だろーが!」

 目標は優勝に変更していた。サナエの言うことはもっともだけど、

「だけどさぁ、今日くらいは喜んでもいいんじゃない?」
「だよね! もうなんかホント嬉しい! 今までで一番嬉しい!」

 頬に涙の軌跡を残したマリが顔をクシャクシャにした笑顔で同意した。

「まぁそうか! なら祝勝会でもするか! どっか行こうぜ!」

 サナエも納得してくれた様子で外出を提案したけど、シオリがへたり込みながら言った。

「いやちょっと待って、今動けない……」
「私も……」

 椅子に座ったままのチハルは背もたれから背中を剥がせそうになかった。

「一年はしょうがねぇなぁ! じゃあパシってやるよ! なんか適当に買ってくる! 罰ゲームはそれでいいだろ?」
「おっけー!」

 外出の代わりに買い出しに立候補したサナエにマリがオッケーサインを出す。
でも五人分の買い出しなんて大変そうな気がしたので問いかける。

「私も行こうか?」
「いいよ! 罰ゲームなんだからやらせろ!」

 なかなか律儀だった。罰ゲームの件はうやむやにする気だと思っていたのに。

「分かった。じゃあお願い」
「あぁ! じゃあ早速行ってくる!」

 サナエが元気よく言うと、なぜかチハルが反応した。

「嬉しくて嬉しくて……ホント、みんな、ありがとう……」
「さっき同じの聞いた!」

 情緒のおかしいチハルは噛み合わないセリフを言ったのでマリがツッコんだ。
皆まだ泣いているチハルに視線を向けて声を出して笑った。

 こうして、私達リコルリエは冬のガルテナ出場権を得た。
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