自殺したガール

駄犬

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「……」

 彼女もようやく、一息つけたようで先刻のような荒れた息遣いは鳴りを潜める。

「何を頼もう」

 メニュー表はきわめて簡素であった。スパゲッティを主食に、サンドイッチやフレンチトーストが軽食として並び、数種類のデザートがトリが飾る。喫茶店を呼称する以上、コーヒーの存在は見逃せない。横に目を移すと、もう一枚、小さなメニュー表が置かれており、ズラリと文字が列挙されている。末尾にコーヒーを自称する見慣れない横文字が多く並び、もはや味の精査など付くはずがない。

「じゃあ、わたしはこれにしようかな」

 目視だけでメニューの選択を終えた彼女の傾向を参考に此方も商品を選ばせてもらおう。

「何にしたの?」

「パフェ」

 俺は見事に肩透かしを食らった。彼女に倣ってパフェなど頼んでみろ。喫茶店をわざわざ選んだ馬鹿馬鹿しさがゆくりなく顔を出すぞ。頓珍漢な名前が幅を効かせるコーヒーの中から、適当に語感の良さそうなものを選ぶ。

「ブルンジマウンテンコーヒー……?」

 まるで言い慣れていないカタカナの組み合わせを半ば、咀嚼しながら声に出すと、語尾に疑問符が付いても全く齟齬のない寄る方ない声色になった。

「通だね」

 彼女は横に大きく跳ねた側頭部の髪を右手で押さえ込みつつ、図らずも注文したコーヒーのセンスを褒め称えた。コーヒーの良し悪しについて語るだけの知識も、仮に自動販売機の選択肢の中にあっても好んで選んだ覚えはない。香りや味を嗜むコーヒーという嗜好品は万人に親しまれ、日常の中に当然のように存在する飲み物がであることは承知している。だがしかし、俺の舌はコーヒーの味をまるで理解していないし、「美味しい」と言おうとすれば、比較対象に炭酸類や甘いジュースなどが挙がり、正しい評価基準から逸脱していた。つまり、喫茶店を選んだ俺の判断は著しく誤っており、虚栄心を支える表情が如何に大事であるかを彼女の賞賛により、明らかになった。

「これはいつも頼んでてさ」

 初めて入った喫茶店の常連客に成り済ます悪手を選んでしまい、引き返せなくなってしまう。なんて馬鹿なことしたんだ。声に出して後悔を吐き出したい気分であったが、彼女の手前、不用意に本音を吐き出すような真似は避けねば……。

「比較的、飲み始めは酸っぱく感じるけど、後味は清涼感のある香りが鼻を抜けていくんですよね」

 彼女こそ俺が頼んだコーヒーを飲むべきだし、そこまで詳しくて何故にパフェを頼んだのだ。虚飾を重ねてそれらしく振る舞おうとする俺がどれだけ滑稽な目に遭っているか。彼女は知る由もないだろう。丸テーブルの上に嘆息を転がしそうになったが、既の所で飲み込み、難を逃れる。
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