彼岸よ、ララバイ!

駄犬

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未必の故意②

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 中央分離帯を挟んで片側二車線のこの国道は、朝になると長距離トラックが列を為し、信号に捕まった営業車の運転手が貧乏ゆすりをして爪を噛む姿が散見できる。午後十五時現在、車は快適に流れていた。

「どうだい。こんな見晴らしのいい場所で立て続けに工事現場に突っ込むと思うかい?」

 友人の言う通り、右手と左手には防風林が植えられていて、運転手は前だけ向いていればいい長い直線だ。しかし、よそ見をする理由ならば、幾らでもある。

「携帯でも見ていたんじゃ?」

 俺の答えを聞き逃したかのように友人はそっぽを向いて、ゆくりなく海の方を指差す。

「知ってる? そこで昔、プールが開かれてたんだ」

 海が見えるプール。こぼれ話として母親から聞いた覚えがある。閑古鳥が鳴くほどに利用者は少なく、やむなく閉園したらしい。その跡地が今も残っている。四角く切り取られた無機質な水色の入れ物と流離な海の様子との対比で、酷く寂れて見える。

「昔の話だろう?」

「そう。だから周囲一帯の整備計画が初めて話題になったとき、一市民としてワクワクしたよ」

 この町がどう移り変わっていくのかをつぶさに注視している友人には感服する。俺はなんらかの跡地を見るたび、どんな建物が立っていたか失念し、終ぞ思い出せずに立ち去ってきた。

「ここに何が出来るんだ?」

「カフェやレストラン、皆んなが寛げる広場も出来るらしいよ」

 目下の天気予報に右往左往するより、少し先の未来に思いを馳せる友人の横顔は清々しい。だがしかし、話を今一度、戻させてもらう。

「それで、事故の話なんだが」

「ある土建屋が、その整備計画に関わっているんだ」

 釈然としない。まだその話を続けるのか?

「嘆息するのが早いよ」

 友人の仔細顔を俺は受け入れることにし、辟易ぎみに促す。

「で、整備計画が?」

 すると友人の清々しき横顔に影が差す。

「夜中にこの国道の一部を修復工事が行われていて、そこへ車が突っ込んだ。その修復工事を請け負っている土建屋は、整備計画にも関わっているんだよ」

「だから?」

「整備計画の説明会の度に、近隣住民は高潮などの防災対策が不十分だとして反対している」

 俺は、友人の言いたいことを理解した。しかしそれはあまりにも、

「周りくどいし、合理的じゃない」

 座り込みや野次を飛ばす方がまだ、訴える方法として建設的である。

「ある一人の住民が手を上げて言った。そこに施設が建ったら、景観が損なわれる」

 友人が丸めた手は拳と呼んで差し支えない硬さを帯び、今にも振り上げんとする意気込みが感じられる。

「父親が現場監督だったんだ。道路工事の」

 俺たちの背後に、プールの跡地を眼下に据える八階建てのマンションが腕を組むようにして、建っていた。
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