15 / 139
飽くことなく
しおりを挟む
コートを着ていると、歳を食ったように肩が上がらなくなる。私はそれが大嫌いで、もっぱらダウンコートを着て冬をしのいでいる。町が私服に溢れる週末を闊歩していると、ショーウィンドウに映った影に足を止められた。まじまじ見れば、腹の山なりに落ち葉が引っかかっているのに気付いた。すかさず手で払うものの間抜けさは拭えない。コートをすらりと着こなす通りの紳士を横目に、私は無性に居た堪れない気持ちになり、踵を返す。
家に帰って早々、着ていたダウンコートを部屋の隅奥に追いやった。こんなものを着ているから、着太りしているように見えるのだ。その晩、久しく乗っていなかった体重計に乗った。ダウンコートにした行いが言い訳がましい醜い数字である。きっと、今の私がコートを着たとしても、ショーウィンドウに映る影は忌まわしく、滑稽に映るはずだ。それから仕事を終えた後は、ランニングを毎日こなすようになった。それはそれは甲斐甲斐しい日常だ。心身が休まるのは、風呂に入っている時間か、寝ている以外ないほどに腹の肉を落とすために暇を削った。
「体調でも悪いの? 休んだ方がいいんじゃないか」
心外だとは思わない。私の努力が病的に映るのは当然の結果であり、いよいよ体重計に再び乗る時が近づいてる証拠だ。その頃には、身体を動かして体重を減らすのは限界だと悟り、食っては吐き、水を滝のように飲む生活に様変わりしていた。今まで着ていた服が誰の物でもなくなって、家では裸で過ごすようになる。朝方、とくに目をくれることのなかった洗面所の姿見に立ち止まるよう説得された。暗がりであれば模型と見紛う骨張った全身に黄疸気味の肌が張り付いている。指標であった通りの紳士とは似ても似つかない仕上がりだ。涙ぐましい努力の結晶を自答によって否定する愚かな真似は避けねばならない。体重計を引っ張りだす。半月前に計った醜悪極まる数字との引き合いに勝利することで、私は私の正しさを証明してみせる。
乗れば軋んでいた体重計が音も立てず数字を重ねていく。以前と今の体重差で子どもを作ることも可能な数字の減退加減に私は拍手を送った。そして、貧相と言って差し障りない身体のどこを落とせば体重が減るかを思案し始めていた。
家に帰って早々、着ていたダウンコートを部屋の隅奥に追いやった。こんなものを着ているから、着太りしているように見えるのだ。その晩、久しく乗っていなかった体重計に乗った。ダウンコートにした行いが言い訳がましい醜い数字である。きっと、今の私がコートを着たとしても、ショーウィンドウに映る影は忌まわしく、滑稽に映るはずだ。それから仕事を終えた後は、ランニングを毎日こなすようになった。それはそれは甲斐甲斐しい日常だ。心身が休まるのは、風呂に入っている時間か、寝ている以外ないほどに腹の肉を落とすために暇を削った。
「体調でも悪いの? 休んだ方がいいんじゃないか」
心外だとは思わない。私の努力が病的に映るのは当然の結果であり、いよいよ体重計に再び乗る時が近づいてる証拠だ。その頃には、身体を動かして体重を減らすのは限界だと悟り、食っては吐き、水を滝のように飲む生活に様変わりしていた。今まで着ていた服が誰の物でもなくなって、家では裸で過ごすようになる。朝方、とくに目をくれることのなかった洗面所の姿見に立ち止まるよう説得された。暗がりであれば模型と見紛う骨張った全身に黄疸気味の肌が張り付いている。指標であった通りの紳士とは似ても似つかない仕上がりだ。涙ぐましい努力の結晶を自答によって否定する愚かな真似は避けねばならない。体重計を引っ張りだす。半月前に計った醜悪極まる数字との引き合いに勝利することで、私は私の正しさを証明してみせる。
乗れば軋んでいた体重計が音も立てず数字を重ねていく。以前と今の体重差で子どもを作ることも可能な数字の減退加減に私は拍手を送った。そして、貧相と言って差し障りない身体のどこを落とせば体重が減るかを思案し始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる