彼岸よ、ララバイ!

駄犬

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スギ花粉徹底弾圧隊③

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「人工林の約四割がスギで占められており、日本各地で散見できます。比較的成長が早く、真っ直ぐと伸びる特徴は加工する上で役立ち、人々の暮らしに切っても切り離せない。スギはこの国の変遷と密接に関わり、戦争に際してそれは顕著に現れ、終戦後もまた復興ないし経済発展の土台となった。ただし、海外から木材が安く手に入るようになってから、伐採されることはなくなり、多くのスギが……」

 雑音が多く混じった肉声データは、白いパネルに印刷された禿げた頭が特徴な専門家と思しきものであり、一本調子な話し口調は著しく聞き取りづらい。耳を傾けるのも億劫に思った矢先、乾いた破裂音と共に、専門家の額に穴が空く。すると青柳慶太は、カメラの画角に入り込み、専門家の隣に胸を張って立った。

「どうです? これを聞けば分かりますよね。スギはもはや役目を終えており、これから先、役立つことはありません。ならば、少しずつでいいから、数を減らしていくべきなのです。人類にとって不必要な枷は、能動的に排斥すべきなのです!」

 “スギ花粉徹底弾圧隊”の主宰者として先人を切った青柳慶太は、偽善的な話し合いから一歩進んだ、建設的な行いを求めたのである。

「いいですか? 一分一秒だって無駄には出来ません。後進にその勇姿を披露し、人間に害をなす花粉を徹底的に弾圧する。それが僕の夢であり、貴方達と共に足跡を残していきたいと思っています」

 スギの切断から始まった過激な思想は、言葉によって再定義がなされ、青柳慶太は右手を胸に当てて、その意志の強さを態度にも表した。

「スギ花粉徹底弾圧隊の名のもとに皆さん、チェンソーを手に」

 最後にはカメラへ微笑みかけ、手練手管を尽くして世俗を動かそうとする苦心が収められた。天気予報に花粉の情報がいつ頃加えられただろうか。ハッキリとはしないものの、鼻をすする人間が全国的に増えたことにより、誰しも平等に甘んじるべき天気と同様に扱われ、それが当たり前であるかのように受け入れていた。しかし、それは些か間違った

 流行り病のように個人の予防に頼る政府の対応は、あまりに勝手気ままな物腰といえ、厳粛に策を講じて選挙の際も公約として組み込んでもいい。語り部であるワタシも花粉には幼少の頃から苦しめられてきており、学業に於いてそれは決して無視できない問題だったのだ。集中力は散漫的に、机に向かう姿勢は悪くなる一方で、唾棄する相手を逸したばかりに不満は周囲の人間へ垂らし流していた。これら全て、「スギ」から散布される花粉がもたらす弊害といえ、「少子高齢化」「環境汚染問題」「食糧自給」「エネルギー問題」「自衛隊・防衛問題」などと、同等の国内に於ける主要な改善すべき問題として取り掛かるべき事柄の一つに加えよう。

 “スギ花粉徹底弾圧隊”の掲げる信条を社会的通念にし、スギを一つ残らず伐採していこうではないか! 皆の諸君、チェンソーを片手に持て! 我々、個人個人の行動によって解決へ導ける国内の問題を今世紀にて、片付けよう!
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