彼岸よ、ララバイ!

駄犬

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変身⑥

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 事件の概要を一通り説明する事前に作成された映像が流れ、視聴者と出演者の間にある知識の差を埋め合わせる。これらの行為は視聴率という目に見える形で実を結ぶ為、決して蔑ろには出来ない没頭具合を生むのだ。

「どう思いますか?」

 司会者らしき男が、雁首並べて仔細顔を浮かべるコメンテーターに意見を求める。

「警察が捜査の一環として近隣住民の方達から話を聞いているでしょうから、それを待たなければまだ踏み入ったことは言えませんね。ですが……」

 コメンテーターはことさらに間を作り、補助線を引くかのように注目を集めた。それは一見すると、自身が持つ知見をひけらかす前の誘導に見え、鼻について仕方なかった。

「行方が分からない長男の加藤大地さんから話を聞ければ、事件は早急に解決に向かうでしょう」

 コメンテーターはカメラをジッと見つめ、そう言い切った。それは、画面越しに犯人へ警告しているかのような、挑発的な態度が透けて見え、マスメディアを笠に着る仔細顔がやけに目についた。

「これ食べて」

 老齢は、作り置きしていたと思われる、青い陶器のお椀によそわれた溢れんばかりの煮物をテーブルの上に置いた。一目で味の案配に予想がつくほど、濃い味付けが視覚から享受できた。じゃがいもや玉ねぎ、人参などの乱切りにされた食材は、尽く黒々とし、白飯がなければ味の分からないバカ舌だと婉曲に言われているような気がしてならない。

「ありがとうございます」

 それでも、彼は先刻の振る舞いに準じて、深々と頭を下げて、テーブルに額をぶつけた。

「なにやってるの」

 クスリと老齢が笑った。

「今、魚焼いてるから」

 老齢はそう言うと、足早にキッチンの方へ移動する。あまりに手厚い加護を受けていることに、彼は申し訳なさを覚えつつ、そこはかとない不安もまた、腹の底で抱えていて、ゆらゆらと根なし草のように感情の置き所を逸していた。

「ですからね、こんな平々凡々とした住宅街で殺人が起きるとすれば、それは私怨でしかないんですよ。警察によれば、荒らされた形跡がない言うじゃないですか」

 自分の見識に間違いがないと踏んだ人間の語気は凄まじい。ひたすら高圧的で、死んでも考えを曲げないといった、非常に高慢な鼻の長さが露呈している。司会者は、「そうですか」と相槌を打つしかなく、反対意見を述べる気構えは有していなかった。口喧嘩をテレビの画面に映せば、それはそれは醜悪な様相となり、忽ちネットニュースが大々的に揶揄するはずだ。番組を作成に不可欠な資金の提供者であるスポンサーの広告を箸休めに挟むことを、白い紙で知らされた司会者は、上記のコメンテーターが発した推測を番組の総意とし、事件の概要および一応の結論を出した。そして司会者は、眉根に寄った皺を取り払い、一転して弛緩した表情を作る。

「次は白昼に起きたひったくりと、それを止めようと動く市民の攻防をお送りします」
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