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第一部
不制御
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顔を間近に接近させながら、俺は差し出がましくも褒め称えた。おそらく、それが気に食わなかったのだろう。トーマスの眉間に怒気を見た。そして、後ろに下がると同時に俺の模擬刀を強く叩いて構えを崩そうとしてくる。模擬刀がぶつかり合う度に、音が天井まで跳ね上がり、壁へと飛び散る。
「おいおい、どうしたよ。今日は随分とやる気があるじゃないか」
鍔迫り合いが起きるたびに、俺達は互いに煽り合った。しかしそれも、本懐を逸するだけの不毛なる行為に過ぎず、もう一歩深く踏み込む必要がある事を悟る。俺は鍔迫り合いを自ら終わらせて、間合いを取ったそばから、姿勢を低く保ちながら男の懐へ飛び込んだ。反射的に手が出たのだろう。上段の構えから頭に向かって模擬刀を振り下ろされる。ただ一点を狙った縦の線を避けるのは容易く、半身になってあやなし、ガラ空きになった首元を模擬刀で殴打した。
「ヴぇ」
口が濁音通りに歪んだ。そして、膝から崩れ落ちて嘔吐に励む、情けない体勢をとった。
「首を狙うなんて、危ないじゃないか」
アオザイのような一張羅に身を包んだ男もといウスラが、俺の前に立って今にも説教を起こしそうな面構えをする。
「手が滑ったんですよ」
「……」
ここから先は水掛け論になる。だからといって、俺は一歩も引くつもりはなかった。ウスラの厚ぼったい目蓋の重みに黒目が埋まり、今にも怒声を飛ばしそうな形相が表れる。
「はいはい。手合わせは終わりだよね? ウスラさん」
マイヤーが割って入り、威嚇めいたウスラの胸の膨らみを撫で付けながら引き離す。仏頂面ではあったものの、マイヤーの切迫した様子はウスラを我に帰らせたようだ。先程までの殺気立った雰囲気は剥落し、未だ首を抑えてうずくまるトーマスの姿に目を落とした。
「連れて行ってやれ」
見物人にそう促して、事態の収集を図る。俺は手に馴染んだ木刀を手放すことが出来ずにいて、胸に鎮座する高揚感は萎える事を知らない。鼻に抜ける空気は勃然と色をなし、脈拍の速さに合わせて肩が上下する。
「カイル?」
わかっている。経験がない躁状態を連想してしまうほどの妙な感情の乱高下は、とても正常とは言い難い状態である。俺は部屋へ戻る事しか、身体の行き先を決められなかった。
「どこ行くんだ?!」
後ろをついて来る足音は、妙に耳の奥を刺激し、苛立ちが募っていく。部屋の手前まで来た時には、我慢の限界に達していた。
「いつまでついて来る気だ? 部屋の中まで入って来るのか?」
語気は当然ながら無骨に仕上がり、刺々しい気配を帯びる。俺はこの世界に於いて、産まれたての子鹿のようなもの。マイヤーが老婆心を抱き、見守ろうとする姿は取り立てて、間違った行為とはいえない。それを無下にする俺の方が増して可笑しい。
「ごめん」
向かっ腹をそのまま他人にぶつける恥ずかしさは、ふて寝気味にベッドへ飛び込む起因となり、「ごめん」という言葉が頭の中でひたすら木霊した。
「おいおい、どうしたよ。今日は随分とやる気があるじゃないか」
鍔迫り合いが起きるたびに、俺達は互いに煽り合った。しかしそれも、本懐を逸するだけの不毛なる行為に過ぎず、もう一歩深く踏み込む必要がある事を悟る。俺は鍔迫り合いを自ら終わらせて、間合いを取ったそばから、姿勢を低く保ちながら男の懐へ飛び込んだ。反射的に手が出たのだろう。上段の構えから頭に向かって模擬刀を振り下ろされる。ただ一点を狙った縦の線を避けるのは容易く、半身になってあやなし、ガラ空きになった首元を模擬刀で殴打した。
「ヴぇ」
口が濁音通りに歪んだ。そして、膝から崩れ落ちて嘔吐に励む、情けない体勢をとった。
「首を狙うなんて、危ないじゃないか」
アオザイのような一張羅に身を包んだ男もといウスラが、俺の前に立って今にも説教を起こしそうな面構えをする。
「手が滑ったんですよ」
「……」
ここから先は水掛け論になる。だからといって、俺は一歩も引くつもりはなかった。ウスラの厚ぼったい目蓋の重みに黒目が埋まり、今にも怒声を飛ばしそうな形相が表れる。
「はいはい。手合わせは終わりだよね? ウスラさん」
マイヤーが割って入り、威嚇めいたウスラの胸の膨らみを撫で付けながら引き離す。仏頂面ではあったものの、マイヤーの切迫した様子はウスラを我に帰らせたようだ。先程までの殺気立った雰囲気は剥落し、未だ首を抑えてうずくまるトーマスの姿に目を落とした。
「連れて行ってやれ」
見物人にそう促して、事態の収集を図る。俺は手に馴染んだ木刀を手放すことが出来ずにいて、胸に鎮座する高揚感は萎える事を知らない。鼻に抜ける空気は勃然と色をなし、脈拍の速さに合わせて肩が上下する。
「カイル?」
わかっている。経験がない躁状態を連想してしまうほどの妙な感情の乱高下は、とても正常とは言い難い状態である。俺は部屋へ戻る事しか、身体の行き先を決められなかった。
「どこ行くんだ?!」
後ろをついて来る足音は、妙に耳の奥を刺激し、苛立ちが募っていく。部屋の手前まで来た時には、我慢の限界に達していた。
「いつまでついて来る気だ? 部屋の中まで入って来るのか?」
語気は当然ながら無骨に仕上がり、刺々しい気配を帯びる。俺はこの世界に於いて、産まれたての子鹿のようなもの。マイヤーが老婆心を抱き、見守ろうとする姿は取り立てて、間違った行為とはいえない。それを無下にする俺の方が増して可笑しい。
「ごめん」
向かっ腹をそのまま他人にぶつける恥ずかしさは、ふて寝気味にベッドへ飛び込む起因となり、「ごめん」という言葉が頭の中でひたすら木霊した。
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