鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬

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第一部

薄情者

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「あと一人は、トーマス何てどう?」

 マイヤーが思いもよらない名前を挙げた為、俺は目を白黒させてしまった。常に注意を怠らず、甲斐甲斐しく相手の心を読もうとするマイヤーが、軋轢が生じてもおかしくない二人を引き合わそうとするのは、一体どういった了見だ。

「仕事に支障を来さないか?」

 物見高い野次馬の顔を一人一人覚えている訳ではなかったが、手合わせの場にシュミの姿を見ていない気がする。ならば、俺がこの世に生を受けるより前から、トーマスとの関係はよろしくなかったのかもしれない。

「シュミさんの計らいは嬉しいですが、団員同士の関係を断絶させるような事はあってはならない」

 誹る手前の強い語気でもって、シュミのやり方をマイヤーは注意した。

「いやぁ、ぼくなりの気遣いだったんだけど……」

 その柔らかい物腰で頭を垂らされると、正当な言い分も、弱者への叱責に映った。

「そう落ち込むな、シュミ。君の役回りは往々にしてケチをつけられるし、褒められる事もないだろう。だが、君がいるからこそ、月照は成り立っている」

 人が求める言葉を巧みに理解し、扱うだけの弁舌をマイヤーは獲得しているようだった。影を貼り付けたシュミの顔が持ち上がり、敬愛を伴った眼差しでマイヤーを眺める。まるで鏡を見ているようだ。

「ありがとう。マイヤーの言う通りだ。ぼく個人の考えで人間関係を整理しようなんて、烏滸がましい話だ」

 すっかり丸め込まれたシュミは、マイヤーの提案を汲んで颯爽と身を翻す。

「俺は好ましくないと思うけど」

 遺恨の残る手合わせの後では、不満をおくびにも出さず手を取り合うような睦まじさを築くなど、神にいつくより難しそうだ。

「君にとって、初めて顔を合わせた相手だろう? なら、線を引いてしまうのは勿体無いよ」

 人間関係に殊更、拘泥してきた訳でもなければ、事流れ主義ともいえる無口さで場に属してきた俺からすると、億劫な気持ちが勝る。それでも、狭小な見識で得られる人間関係に発展はないと、言われているような気もして、徹底的に撥ね付けてしまおうとはならなかった。つまり、

「わかったよ。奴とも仲良くしてみよう」

 受け入れてしまうのが丸い。

「……」

 だからといって、会って早々に満面な笑みを浮かべながら話し掛ける、突拍子もない態度は白々しく、打算を抜きにした血の通った人間同士ならば当然の仏頂面で俺達は再開を果たす。

「あのぉ~、荷車の護衛なんですが、エゾフ村までの比較的、長くもない距離となっていて」

 杓子定規な説明でシュミは目の前の従事すべき仕事に没我して、俺達が纏う険悪な雰囲気を黙殺している。

「それほど危険な依頼でもないと思いますが、闇夜の礫には気をつけてもらい、誠実な行動こそ月照たる所以でありますので」

 シュミが大広場にて依頼の内容をあらまし、心持ちについてもつぶさに説き始めると、トーマスは嘆息を漏らした上、埃を払うかのように右手を上下に振った。

「はいはい。分かってます」
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