19 / 42
閑話休題
とある男の手記
しおりを挟む
「数十年前に結ばれたスカベラとの和平協定に含まれる、エブリン村の放棄は国に暗い影を落とし、義憤に駆られた人々の声が至るところで上がった。道を歩いていれば自然に耳に入ってくるほどの緊張感があり、いつ反旗を翻す鉄槌が下されるか、時間の問題だったようだ。しかし、終ぞその時はやってこなかった」
「スカべラに脅かされる恐怖が日常から消え去った事への安心感は、その為大勢の国民にとってかけがえのない平和だったのだ。ただ近年、エブリン村付近で行方不明者が散見され始めた。国営の冒険団である、「シュバルツ」はエブリン村の調査を任され、その第一陣に俺が選ばれた。手紙とは、伝える相手がいて初めて手紙という用途を付与できる。その点でいうと、この書き残しは手紙には当たらないだろう。言うなれば、記録である。そして、今置かれている状況を整理し、納得するだけの材料が欲しいのだ」
「今回の調査に託けた威力偵察は、和平協定を度外視した戦闘が見込まれる。命を賭して目の前の使命をこなしてきた俺でも、スカベラの被害に遭った凄惨な死体の数々を見聞に授かった身としては腰が引けた」
「女王以外に生殖機能を持っていないにも関わらず、男女の差異を知覚し、弄び、陰部を執拗に破壊するなどの行為が死体から見受けられ、人間に対する強い好奇心があったようだ。悪虐非道と言っていい行為に我々人間は、敢然に抵抗したが、血が流れるばかりで闘争は平行線を辿る。そんな折に、スカベラの女王が人間を餌に幾つもの命を産み落とした。その子どもは知性を備え、もとより存在した悪虐性に対して自覚的になった。対話は存在せずとも、人間とのコミュニケーションを図るようになり、エブリン村の住民と引き換えに、習性に基づく前時代的なスカベラを抑え込む事に成功した」
「前述の通り、一時の平和の為に費やした犠牲の上に成り立つ土台は、脆く崩れ始め、俺達は再び、スカベラと向き合わなければならない事態になった。よしんば接敵を余儀なくされ、剣を抜く事態に陥れば、自ら命を絶つ事も念頭に置いておこう。生きたまま弄ばれるなど、想像しただけで恐ろしい。もはや遺書めいてきたので、ここまでとする。モェナ・カール」
「スカべラに脅かされる恐怖が日常から消え去った事への安心感は、その為大勢の国民にとってかけがえのない平和だったのだ。ただ近年、エブリン村付近で行方不明者が散見され始めた。国営の冒険団である、「シュバルツ」はエブリン村の調査を任され、その第一陣に俺が選ばれた。手紙とは、伝える相手がいて初めて手紙という用途を付与できる。その点でいうと、この書き残しは手紙には当たらないだろう。言うなれば、記録である。そして、今置かれている状況を整理し、納得するだけの材料が欲しいのだ」
「今回の調査に託けた威力偵察は、和平協定を度外視した戦闘が見込まれる。命を賭して目の前の使命をこなしてきた俺でも、スカベラの被害に遭った凄惨な死体の数々を見聞に授かった身としては腰が引けた」
「女王以外に生殖機能を持っていないにも関わらず、男女の差異を知覚し、弄び、陰部を執拗に破壊するなどの行為が死体から見受けられ、人間に対する強い好奇心があったようだ。悪虐非道と言っていい行為に我々人間は、敢然に抵抗したが、血が流れるばかりで闘争は平行線を辿る。そんな折に、スカベラの女王が人間を餌に幾つもの命を産み落とした。その子どもは知性を備え、もとより存在した悪虐性に対して自覚的になった。対話は存在せずとも、人間とのコミュニケーションを図るようになり、エブリン村の住民と引き換えに、習性に基づく前時代的なスカベラを抑え込む事に成功した」
「前述の通り、一時の平和の為に費やした犠牲の上に成り立つ土台は、脆く崩れ始め、俺達は再び、スカベラと向き合わなければならない事態になった。よしんば接敵を余儀なくされ、剣を抜く事態に陥れば、自ら命を絶つ事も念頭に置いておこう。生きたまま弄ばれるなど、想像しただけで恐ろしい。もはや遺書めいてきたので、ここまでとする。モェナ・カール」
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる