鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬

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第二部

事件の機運

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 音頭を取ったリード・マーシーの掛け声を合図に、慎みやかに行われていた会話は公共性を持ち、パーティーらしい雑多な活気が生まれる。

 それぞれの依頼主が雇ったボディーガードを両脇に立たせているという事もあり、人の密集具合に酔ってしまいそうだ。事前にリーラルが言っていたように、見栄の為に配置されたマネキンだからこその、欠落した緊張感を餌に肥大する太平楽な気持ちが生あくびを誘引する。

 そんな緩慢な雰囲気を切り裂いたのが、大理石の床に飛び散るグラスの破片であった。

「毒が入っている!」

 よもやの一言に眉をひそめていれば、小太りの中年男のボディーガードとして立っていた二人組の一人が突然駆け出す。行き先はグラスを割った端正な口髭をする初老の男だ。腰に備える剣の柄に手を掛けた所作から、それは更なる追撃であると一目で理解する。ソイツは眼前に初老の男を捉えた矢先、両脇に立っていた守護者にあえなく制圧され、床へ取り押さえられた。

「コイツ……!」

 凶行に及んだボディーガードの雇い主である小太りの中年男へ、必然的に視線が集まった。

「いやいや、俺は知らないぞ! コイツが勝手に」

 中年男の言い分は真っ当だ。これほど易々と首謀者を言い当てられる環境で、人を襲わせるなど阿呆のする事だ。ならば、他の何者かの指示に従って起こした、ボヤ騒ぎとなるのだが、疑問は残る。腕に覚えのある冒険団が跋扈する中、暗殺めいた事を指示する意図はなんだ。失敗に終わって当然の結果が、床にへばりついている。酷く落ち着いた様子のソイツからは、暴れて形成を翻すなどの鬱勃としたものを一切感じず、捕まって然るべきだと言わんばかりに諦観を顔に垂らしている。

 取り押さえているのは何処ぞの私設冒険団である。突飛なる暗殺を見事に止めたわりに、無感動な顔をしていて、身体の力みが見られない。まるで初めから、凶行が起こる事を知っていたかのような素振りであった。

「……まさか」

 俺は良からぬ想像をした。もし仮にこれが示しを合わせた確信犯による事態ならば、己が冒険団の地位を向上させる為の舞台として機能させた、自作自演になる。つまり、私設冒険団が苦肉の策として講じた出資者を募るアピールなのだ。雇う側も雇われる側も、双方に都合が良い茶番劇をこのパーティーで演じようとしている。

「リーラル、君が言っている意味がわかったよ」

「だろう?」

 和やかな空気は一変し、皆はヒソヒソと声を潜めながら現状の行き先を思案している。普通なら、散開を告げる言葉が伝えられてもおかしくないはずだが、一向にその気配は訪れず、騒ぎが落ち着くのを虎視眈々と待っているような状況だ。

「少しいいですか」

「ボーズ」に所属する二人組の一人が、舞台に上がるかのように赤いマントをひいる。それは、衆目を集める為の所作であり、これから話し出すという所信表明だった。

「飲み物に入っていた毒と、この不届き者は全く別の角度から行われた、複数人による暗殺未遂なのではないですか」

 取り押さえられた身体をそのまま受け入れて、誠実に床を舐める暗殺者は、「ボーズ」の疑問にも軽々しく答える。

「あぁ、毒については知らない」

 暗殺者の風上にも置けない従順な姿勢を度外視する聴衆は、展開した事態の注進に対して色めき立った。

「皆さん、気を付けてください。まだこの中にいますよ。不届き者が」

 もはやボディーガードという体裁はかなぐり捨てる、探偵めいた思考の発露により、事件の中心人物へと「ボーズ」を押し上げた。すると、右腕の袖に緑色のバンダナを巻いて差異を示す私設の冒険団らしき男が、「ボーズ」に意見を投げた。

「だとしても、その犯行は大分限られてくる。毒についてはもっと……」

 してやったりと「ボーズ」は口端に笑み作り、敢然と言うのである。

「配膳係を集めろ」
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