鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬

文字の大きさ
25 / 42
第二部

陰謀論

しおりを挟む
「大体、本当に毒が入っていたかも疑問だけど……」

 こんこんと湧いた疑問を口から吹きこぼしてしまい、図らずも集めた視線の束に俺はたじろいだ。

「嘘をついた、と。言いたいのかね? きみ」

 毒殺に暗殺を重ねられた初老の男が、蓄えた口髭を撫で付けつつ、値踏みするような眼差しを俺に向けてくる。当たり前だ。面目丸潰れの指摘をそのまま受け入れてしまえば、ちゃぶ台をひっくり返すようなもの。俺がふいに言った言葉は、パーティーの趣旨に反する異物に違いない。

「いや、その」

 何を言うべきか窮してしまい、まごまごと手をこまねいていると、すかさずリーラルが俺の前に立った。

「今、悪い方にばかり思考が働いているから、バランスを取る為に進言したんですよ」

 水を差した俺の体裁は居た堪れない。なるべく人の目に触れる機会を少なくしようと、リーラルの影に隠れて息を殺す。そうしていれば、依頼主に肩を叩かれ、耳元で囁かれた。

「キミは外にいなさい」

 ボディーガードを自ら手放す依頼主の本末転倒ぷりは、パーティーの性質上、何ら問題ではない。これ以上の混乱を招く異分子にはご退場願うのが正道なのだ。

 絵に描いたような手持ち無沙汰と、ろうそく灯も存在しない町中の暗闇によって、意識だけがぽつねんとそこにある。時折、雲間から顔を出す月が足元の所在を明らかにして、立っている事を辛うじて自覚できた。これは落ち込むべ事なのか。月照のトップを殺そうと考えている俺の立場からすれば、月照の評判がどれだけ落ちようが、関係のない話だ。しかし、妙に胸が痛い。

 間もなく、遠くの方から此方に向かってくる足音を聞く。真っ直ぐ伸びた背筋の芯が足の踵まで貫徹し、地面を捉えた踵から爪先まで、流麗に蹴り出す動作の一環となり、悠然なる足の運びが姿が見えずとも伝わってくる。

「……」

 住民がこの暗闇の中、自身を照らす灯りすら持たずに出歩くとは到底思えない。俺は警戒の意を込めて剣の柄に手を掛けた。

「あれ? どうして外に出ているんですか。貴方、ボディーガードを頼まれた冒険団の人ですよね?」

 軽装ながら、綺麗に巻き付けた頭の黒い布と、独特な装飾が施された肩に下げるベルトは、剣を背負う為の補助であり、冒険団に属する者として相応しい出立ちをしていた。

「その、外での警護を頼まれていて」

「え? そんなこと……」

 俺の返答に彼はひとえに訝しみ、思案のケが見えると共に、すぐさま言い直る。

「まぁ、いいや。そこ退いてくれるかな」

「警護」と口に出した以上、俺はそれらしい振る舞いをしなければならない。「通せ」と、言われて簡単に通してしまう、馬鹿な警護はどの世界に於いてもいないだろう。

「おれはここに仕事で来てるんだよ」

 パーティーは既に佳境を迎えていて、仕事と称してこの場に現れるタイミングは逸している。

「何の仕事ですか」

「……」

 忌々しそうに俺を睨み付ける彼の敵意は、止められる事を想定していなかった為に起きた、不都合な現実を前にした人間の足掻きだろう。

「おまえは何なんだ」

「それはこっちの、」

 あらゆる生物がコミュニケーションを取るが、言語を取得した人間のコミュニケーションは高次元に進化し、人間を人間たらしめる要因の一つとして数えていいだろう。だからこそ、返答の隙を狙われた。

 月明かりを照り返す短剣の怪光が目の前に現れ、虫のような反射で上体を捻って躱した。乾坤一擲の一撃だったのだろう。まん丸と開いた目が二つ、俺を捉えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...