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第二部
陰謀論
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「大体、本当に毒が入っていたかも疑問だけど……」
こんこんと湧いた疑問を口から吹きこぼしてしまい、図らずも集めた視線の束に俺はたじろいだ。
「嘘をついた、と。言いたいのかね? きみ」
毒殺に暗殺を重ねられた初老の男が、蓄えた口髭を撫で付けつつ、値踏みするような眼差しを俺に向けてくる。当たり前だ。面目丸潰れの指摘をそのまま受け入れてしまえば、ちゃぶ台をひっくり返すようなもの。俺がふいに言った言葉は、パーティーの趣旨に反する異物に違いない。
「いや、その」
何を言うべきか窮してしまい、まごまごと手をこまねいていると、すかさずリーラルが俺の前に立った。
「今、悪い方にばかり思考が働いているから、バランスを取る為に進言したんですよ」
水を差した俺の体裁は居た堪れない。なるべく人の目に触れる機会を少なくしようと、リーラルの影に隠れて息を殺す。そうしていれば、依頼主に肩を叩かれ、耳元で囁かれた。
「キミは外にいなさい」
ボディーガードを自ら手放す依頼主の本末転倒ぷりは、パーティーの性質上、何ら問題ではない。これ以上の混乱を招く異分子にはご退場願うのが正道なのだ。
絵に描いたような手持ち無沙汰と、ろうそく灯も存在しない町中の暗闇によって、意識だけがぽつねんとそこにある。時折、雲間から顔を出す月が足元の所在を明らかにして、立っている事を辛うじて自覚できた。これは落ち込むべ事なのか。月照のトップを殺そうと考えている俺の立場からすれば、月照の評判がどれだけ落ちようが、関係のない話だ。しかし、妙に胸が痛い。
間もなく、遠くの方から此方に向かってくる足音を聞く。真っ直ぐ伸びた背筋の芯が足の踵まで貫徹し、地面を捉えた踵から爪先まで、流麗に蹴り出す動作の一環となり、悠然なる足の運びが姿が見えずとも伝わってくる。
「……」
住民がこの暗闇の中、自身を照らす灯りすら持たずに出歩くとは到底思えない。俺は警戒の意を込めて剣の柄に手を掛けた。
「あれ? どうして外に出ているんですか。貴方、ボディーガードを頼まれた冒険団の人ですよね?」
軽装ながら、綺麗に巻き付けた頭の黒い布と、独特な装飾が施された肩に下げるベルトは、剣を背負う為の補助であり、冒険団に属する者として相応しい出立ちをしていた。
「その、外での警護を頼まれていて」
「え? そんなこと……」
俺の返答に彼はひとえに訝しみ、思案のケが見えると共に、すぐさま言い直る。
「まぁ、いいや。そこ退いてくれるかな」
「警護」と口に出した以上、俺はそれらしい振る舞いをしなければならない。「通せ」と、言われて簡単に通してしまう、馬鹿な警護はどの世界に於いてもいないだろう。
「おれはここに仕事で来てるんだよ」
パーティーは既に佳境を迎えていて、仕事と称してこの場に現れるタイミングは逸している。
「何の仕事ですか」
「……」
忌々しそうに俺を睨み付ける彼の敵意は、止められる事を想定していなかった為に起きた、不都合な現実を前にした人間の足掻きだろう。
「おまえは何なんだ」
「それはこっちの、」
あらゆる生物がコミュニケーションを取るが、言語を取得した人間のコミュニケーションは高次元に進化し、人間を人間たらしめる要因の一つとして数えていいだろう。だからこそ、返答の隙を狙われた。
月明かりを照り返す短剣の怪光が目の前に現れ、虫のような反射で上体を捻って躱した。乾坤一擲の一撃だったのだろう。まん丸と開いた目が二つ、俺を捉えている。
こんこんと湧いた疑問を口から吹きこぼしてしまい、図らずも集めた視線の束に俺はたじろいだ。
「嘘をついた、と。言いたいのかね? きみ」
毒殺に暗殺を重ねられた初老の男が、蓄えた口髭を撫で付けつつ、値踏みするような眼差しを俺に向けてくる。当たり前だ。面目丸潰れの指摘をそのまま受け入れてしまえば、ちゃぶ台をひっくり返すようなもの。俺がふいに言った言葉は、パーティーの趣旨に反する異物に違いない。
「いや、その」
何を言うべきか窮してしまい、まごまごと手をこまねいていると、すかさずリーラルが俺の前に立った。
「今、悪い方にばかり思考が働いているから、バランスを取る為に進言したんですよ」
水を差した俺の体裁は居た堪れない。なるべく人の目に触れる機会を少なくしようと、リーラルの影に隠れて息を殺す。そうしていれば、依頼主に肩を叩かれ、耳元で囁かれた。
「キミは外にいなさい」
ボディーガードを自ら手放す依頼主の本末転倒ぷりは、パーティーの性質上、何ら問題ではない。これ以上の混乱を招く異分子にはご退場願うのが正道なのだ。
絵に描いたような手持ち無沙汰と、ろうそく灯も存在しない町中の暗闇によって、意識だけがぽつねんとそこにある。時折、雲間から顔を出す月が足元の所在を明らかにして、立っている事を辛うじて自覚できた。これは落ち込むべ事なのか。月照のトップを殺そうと考えている俺の立場からすれば、月照の評判がどれだけ落ちようが、関係のない話だ。しかし、妙に胸が痛い。
間もなく、遠くの方から此方に向かってくる足音を聞く。真っ直ぐ伸びた背筋の芯が足の踵まで貫徹し、地面を捉えた踵から爪先まで、流麗に蹴り出す動作の一環となり、悠然なる足の運びが姿が見えずとも伝わってくる。
「……」
住民がこの暗闇の中、自身を照らす灯りすら持たずに出歩くとは到底思えない。俺は警戒の意を込めて剣の柄に手を掛けた。
「あれ? どうして外に出ているんですか。貴方、ボディーガードを頼まれた冒険団の人ですよね?」
軽装ながら、綺麗に巻き付けた頭の黒い布と、独特な装飾が施された肩に下げるベルトは、剣を背負う為の補助であり、冒険団に属する者として相応しい出立ちをしていた。
「その、外での警護を頼まれていて」
「え? そんなこと……」
俺の返答に彼はひとえに訝しみ、思案のケが見えると共に、すぐさま言い直る。
「まぁ、いいや。そこ退いてくれるかな」
「警護」と口に出した以上、俺はそれらしい振る舞いをしなければならない。「通せ」と、言われて簡単に通してしまう、馬鹿な警護はどの世界に於いてもいないだろう。
「おれはここに仕事で来てるんだよ」
パーティーは既に佳境を迎えていて、仕事と称してこの場に現れるタイミングは逸している。
「何の仕事ですか」
「……」
忌々しそうに俺を睨み付ける彼の敵意は、止められる事を想定していなかった為に起きた、不都合な現実を前にした人間の足掻きだろう。
「おまえは何なんだ」
「それはこっちの、」
あらゆる生物がコミュニケーションを取るが、言語を取得した人間のコミュニケーションは高次元に進化し、人間を人間たらしめる要因の一つとして数えていいだろう。だからこそ、返答の隙を狙われた。
月明かりを照り返す短剣の怪光が目の前に現れ、虫のような反射で上体を捻って躱した。乾坤一擲の一撃だったのだろう。まん丸と開いた目が二つ、俺を捉えている。
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