鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬

文字の大きさ
26 / 42
第二部

踏み台

しおりを挟む
「パーティーの茶番には不必要な殺気だ」

 彼は正体を看破された悪役のように顔を歪ませ、見誤った力量に対して襟を正す。これ以上の攻防に発展させたなら、お互いにタダでは済まない。このまま、大立ち回りを演じる価値は果たしてあるのか。

「……頼むよ。おれはそこに行く理由があるんだ」

 傷付けようと刃物を振るった側の意見としては最悪だ。手前勝手な理由を掲げた上、懇願する始末にを得ない彼の態度について、頭ごなしに悪罵を重ねて、どれだけ恥ずべき事をしているか、詳らかにしてやりたい。

「それを俺に頼むなよ。中の奴に言え」

 俺はそこから意識をなくした。次に目を覚ました時には、自分の部屋に出戻っていた。頭に残る鈍痛から察するに、背後から不意の一撃を貰ったようだ。俺をここまで運び、甲冑まで脱がす労りに感謝する。それにしても、最初から最後までやり通した依頼が一つもない。達成し難いものなのか。それとも俺にツキがないのか。

「……」

 考えても答えは見つからない。マイヤーに訊いてもきっと、苦心しながらこう答えるはずだ。「毎回、こんなことがある訳じゃないから」と。

 頭の痛み以外に違和感のある箇所は見つからない。「仕事」という単語を使って俺を説得しようと試みた手管から鑑みるに、彼は個人的な恨みを募らせてあの場に挑んだ訳ではないと分かる。

 俺は、大広間に誰かいるだろうと踏んで、部屋の外へ出た。あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。携帯電話の有り難みと、曜日という概念によって定義されたサイクルは、文明社会の営みに欠かせぬ比類ないものだと再認識させられる。

「おっ、カイル。目を覚ましたみたいだな」

 後方から声を掛けられて殊更に驚く同じ轍は二度と踏まない。俺は努めて冷静に振る舞う。

「なんだ。リーラルじゃないか」

「良かったよ。元気そうで」

 依頼を台無しにし、不甲斐ない結果に終わった事への皮肉を言われても仕方ないと思っていたが、リーラルは安堵の笑みを見せて身体の調子を慮ってくれた。

「運んでくれたのは君かい?」

「外で倒れていたからビックリしたよ」

 終始、リーラルの手を焼いてしまった情けなさから、頭がより重く感じる。

「すまない」

「謝ることじゃない。シャードの奴らに不意を突かれたんだろう?」

 リーラルが言う、「シャード」とは俺が相手にした冒険団の名前だろうか。

「本当にどうしようもない奴らだ」

 舌打ちで誹るリーラルの姿に全くもって同意する。同業者を襲う尊大な行いは、依頼主と謀り月照の首を狙った野盗と何が違う。

「シャードの奴ら、暗殺を自作自演だと講説すると、鍛冶屋のヨルネに全ての原因を押し付け、事態を片付けやがった。全員、そんな事は承知した上で、誰が上手くその場を仕切るのかを競い合っていたのに、禁じ手に出たんだよ」

「ヨルネ」とは状況から察するに、初老の男を指しているはずだ。そして、俺が真っ先に口に出した一つの可能性を乗っ取られたという事実に、怒りが湧いた。

「それって、俺のやった事とどう違うんだ!」

「外連味が足りなかったな」

 後から颯爽とパーティーに登場し、のべつ幕なしに捲し立てれば、その場の空気をぶち壊すのに充分な不条理さを身に纏える。つまり、最初からパーティーに出席した俺が幾ら文句を飛ばしたところで、世迷言のように扱われて黙殺されても仕方ないという事。唯一出来た事といえば、暗殺者の皮を被った傾奇者をブチ殺して無理矢理、言う事を聞かせるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...