27 / 42
第二部
予行演習
しおりを挟む
「やり方が気に入らねぇ。カイルを襲ってまで「シャード」の名を挙げようとする、その小賢しさに虫唾が走る」
とことん忌々しそうに言うリーラルの調子を見て、俺はある一つの提案を思い付く。それは、復讐の肥やしになると踏んだ利己的な感情の発露であり、今回の依頼の当事者として明確な義憤を抱くリーラルだからこそ、協力を仰いで然るべきだと考えた。
「なぁ、リーラル。俺は俺を襲った奴に仕返しをしたいと思ってる。手伝ってくれないか?」
リーラルは思慮に耽り、迂闊に口を開く事を嫌った。二つ返事で俺の言葉を飲み込む浅薄な人間に頼んだ覚えはないし、その慎重さはきっと、影に潜んで暗殺を虎視眈々と狙う上で欠かせないはずだ。
「仕返し……確かに気持ちは分かる。だけど、いや、ワタシ達の面目を丸潰しにした奴らには相応のしっぺ返しが必要か」
これから起こそうとする行動の正当性について一人吟味し、提案の可否を付けようと苦心している。
「……」
あと一押ししてやれば、リーラルは俺の口車に乗ると判る。生まれたての雛鳥と何ら変わらない俺が、一人で事を起こして上手くいく訳がない。不首尾に終わった依頼を振り返れば判る通り、この世界で無事に目的を達成する難しさは痛いほど味わった。
「リーラル、俺は許せないよ。月照の一員として、一人の人間として、シャードに思い知らせてやりたい」
出来る限り、その目に意思を灯らせた。伝われと言わんばかりに座視を続け、リーラルを絆す為の手段とする。傍目に見れば芝居がかった説得の一環に映るだろうが、衆目とは無縁の廊下で気にする必要はない。
「……わかった、わかったよ」
会ったばかりの人間を拐かす機知に富んだ方法は持ち合わせていない。だからこそ、言葉は真に迫り、余程の冷血漢ではない限り、人を動かす力が生じる。身体の中に渦巻く理性と本能がせめぎ合い、複雑怪奇な感情がリーラルの目蓋の痙攣から見て取れた。
「ありがとう!」
腰を直角に曲げて感謝の意を象る。
「あぁ……」
飲み込み損ねた咀嚼物を口の中に感じながら、判然としない腹の虫を掻きむしるリーラルの肩に両手を置き、俺は益々のお礼を捧げた。
コダカ・スツール。名も知らぬ国の中で最も多くの人口を有し、発展した町だと言う。月照は言わずもがな、冒険団のほとんどがこの町に拠点を置き、活動の足掛かりにしている事から、商工会のパーティーにボディーガードとして数多、召喚されたのは必然であった。
「あそこがシャードの根城」
その風采は周囲に建つ民家と遜色はなく、掲げる看板がなければ素通りして当たり前の質素な規模である。月照を基準に考えていた為、なかなかに面食らった。出資者を求めてパーティーで大立ち回りを演じる理由も図らずも理解した。
「ちゃんとフードを被っとけよ」
蟻の巣のように無数の小道が枝分かれする大通りに面するシャードの根城は、機運を伺うのに格好であり、それほど神経質になる事はなさそうだったが、リーラルの指示に従って韜晦を授かる。
とことん忌々しそうに言うリーラルの調子を見て、俺はある一つの提案を思い付く。それは、復讐の肥やしになると踏んだ利己的な感情の発露であり、今回の依頼の当事者として明確な義憤を抱くリーラルだからこそ、協力を仰いで然るべきだと考えた。
「なぁ、リーラル。俺は俺を襲った奴に仕返しをしたいと思ってる。手伝ってくれないか?」
リーラルは思慮に耽り、迂闊に口を開く事を嫌った。二つ返事で俺の言葉を飲み込む浅薄な人間に頼んだ覚えはないし、その慎重さはきっと、影に潜んで暗殺を虎視眈々と狙う上で欠かせないはずだ。
「仕返し……確かに気持ちは分かる。だけど、いや、ワタシ達の面目を丸潰しにした奴らには相応のしっぺ返しが必要か」
これから起こそうとする行動の正当性について一人吟味し、提案の可否を付けようと苦心している。
「……」
あと一押ししてやれば、リーラルは俺の口車に乗ると判る。生まれたての雛鳥と何ら変わらない俺が、一人で事を起こして上手くいく訳がない。不首尾に終わった依頼を振り返れば判る通り、この世界で無事に目的を達成する難しさは痛いほど味わった。
「リーラル、俺は許せないよ。月照の一員として、一人の人間として、シャードに思い知らせてやりたい」
出来る限り、その目に意思を灯らせた。伝われと言わんばかりに座視を続け、リーラルを絆す為の手段とする。傍目に見れば芝居がかった説得の一環に映るだろうが、衆目とは無縁の廊下で気にする必要はない。
「……わかった、わかったよ」
会ったばかりの人間を拐かす機知に富んだ方法は持ち合わせていない。だからこそ、言葉は真に迫り、余程の冷血漢ではない限り、人を動かす力が生じる。身体の中に渦巻く理性と本能がせめぎ合い、複雑怪奇な感情がリーラルの目蓋の痙攣から見て取れた。
「ありがとう!」
腰を直角に曲げて感謝の意を象る。
「あぁ……」
飲み込み損ねた咀嚼物を口の中に感じながら、判然としない腹の虫を掻きむしるリーラルの肩に両手を置き、俺は益々のお礼を捧げた。
コダカ・スツール。名も知らぬ国の中で最も多くの人口を有し、発展した町だと言う。月照は言わずもがな、冒険団のほとんどがこの町に拠点を置き、活動の足掛かりにしている事から、商工会のパーティーにボディーガードとして数多、召喚されたのは必然であった。
「あそこがシャードの根城」
その風采は周囲に建つ民家と遜色はなく、掲げる看板がなければ素通りして当たり前の質素な規模である。月照を基準に考えていた為、なかなかに面食らった。出資者を求めてパーティーで大立ち回りを演じる理由も図らずも理解した。
「ちゃんとフードを被っとけよ」
蟻の巣のように無数の小道が枝分かれする大通りに面するシャードの根城は、機運を伺うのに格好であり、それほど神経質になる事はなさそうだったが、リーラルの指示に従って韜晦を授かる。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる