37 / 42
第二部
、出現す
しおりを挟む
俺の不安定な情緒から、軽はずみに口を開けば飛び火しかねないと思われたのだろう。一様に閉口し、知らぬ存ぜぬを一貫する。病院の待合室に比肩する重苦しい雰囲気が辺りに立ち込め、打開の方法を第三者に求めた。手前勝手なその考えに応じて、点幕からカイトウとウスラが揃って出てくる。
「待たせたな」
三日間という日数を掛けてここに至った事を考えれば、殊更に苛立って「長い」と悪態をつくのは馬鹿げている。天幕の中で行われた会話の結果を雛鳥のように口を開けて待つのみであった。
「私達はここから南方に向い、エブリン村の調査を行う」
移動の際の重荷として働いていた甲冑は、調査という名目を掲げながら、スカベラとの戦闘を念頭に置いたドレスコードであり、漸く日の目を浴びる時がきた。
「ふー」
緊張の色とはどうしてこうも青々しく、初々しさと紙一重なのだろうか。浮つく心は出し抜けに吹き込む風にこむら返り、腹部に力が入る。今にも震え出しそうな膝頭を足踏みを繰り返す事で取りなした。
「行くぞ」
カイトウの宣言をきっかけに再び騎乗し、「エブリン村」での調査に向かう。荒涼たる灰色の大地にも、緑は数える程度に点在し、それはそのうち俺達を誘導するかのように増えていき、味気なかった灰色の地面はすっかり色付いた。風景と捉えるのに無理がない、打ち捨てられた石造りの民家がポツリポツリと目に入り始め、俺は「エブリン村」の一端に触れる。町外れに相応しい踏み均されて作られた人道の脇に生えた雑草や、水を打ったような静けさを通して、長い間手付かずにある町の在り方を目と肌で感じた。
「不気味だなぁ」
昼間の活動時間をどれだけ有意義に使えるかが、人の営みに関わり、雑多な生活音が一つも聞こえてこないというのは、人間界から隔絶された土地の侘しさとして真に迫る。七人もの人間が集団を形成して歩く音はとりわけ大きく、異物感があった。
この肌寒さは雰囲気に醸成されて感じ取った怖気なのか。それとも温度の変化を鋭敏に感じ取った冷覚によるものなのか。それらを区別する明確な判断基準は存在せず、寓意に言葉を用いて思い悩むより、ただ「寒い」とだけ定義すればいい。そうすれば、
「たしかに。少し、肌寒いかも」
マイヤーの同調によって俺の感覚は定められた。町の奥へと続く荒れた人道の名残りを追っていれば、均整を失った石によって泣き崩れる民家の直ぐ隣に、自立する影法師を見つけた。まじまじと凝視を続けているうちに、影は色を差し、輪郭だけに留まらず形を分けて認識できた。それは、草の根を掻き分けていれば簡単に見つかるような、カメムシと似た外形をしており、黒々とした外骨格に節足動物ならではの節と細長い六本足を有する。そして、尻を支柱に世にも珍しい昆虫の立ち姿から察する、二メートルはあろうかという体長にひたすら度肝を抜かれた。まるで、人間が着ぐるみに身を包んでいるかのような奇妙さは、迂闊に近付く事を本能が忌避した。
「スカベラだ……」
「待たせたな」
三日間という日数を掛けてここに至った事を考えれば、殊更に苛立って「長い」と悪態をつくのは馬鹿げている。天幕の中で行われた会話の結果を雛鳥のように口を開けて待つのみであった。
「私達はここから南方に向い、エブリン村の調査を行う」
移動の際の重荷として働いていた甲冑は、調査という名目を掲げながら、スカベラとの戦闘を念頭に置いたドレスコードであり、漸く日の目を浴びる時がきた。
「ふー」
緊張の色とはどうしてこうも青々しく、初々しさと紙一重なのだろうか。浮つく心は出し抜けに吹き込む風にこむら返り、腹部に力が入る。今にも震え出しそうな膝頭を足踏みを繰り返す事で取りなした。
「行くぞ」
カイトウの宣言をきっかけに再び騎乗し、「エブリン村」での調査に向かう。荒涼たる灰色の大地にも、緑は数える程度に点在し、それはそのうち俺達を誘導するかのように増えていき、味気なかった灰色の地面はすっかり色付いた。風景と捉えるのに無理がない、打ち捨てられた石造りの民家がポツリポツリと目に入り始め、俺は「エブリン村」の一端に触れる。町外れに相応しい踏み均されて作られた人道の脇に生えた雑草や、水を打ったような静けさを通して、長い間手付かずにある町の在り方を目と肌で感じた。
「不気味だなぁ」
昼間の活動時間をどれだけ有意義に使えるかが、人の営みに関わり、雑多な生活音が一つも聞こえてこないというのは、人間界から隔絶された土地の侘しさとして真に迫る。七人もの人間が集団を形成して歩く音はとりわけ大きく、異物感があった。
この肌寒さは雰囲気に醸成されて感じ取った怖気なのか。それとも温度の変化を鋭敏に感じ取った冷覚によるものなのか。それらを区別する明確な判断基準は存在せず、寓意に言葉を用いて思い悩むより、ただ「寒い」とだけ定義すればいい。そうすれば、
「たしかに。少し、肌寒いかも」
マイヤーの同調によって俺の感覚は定められた。町の奥へと続く荒れた人道の名残りを追っていれば、均整を失った石によって泣き崩れる民家の直ぐ隣に、自立する影法師を見つけた。まじまじと凝視を続けているうちに、影は色を差し、輪郭だけに留まらず形を分けて認識できた。それは、草の根を掻き分けていれば簡単に見つかるような、カメムシと似た外形をしており、黒々とした外骨格に節足動物ならではの節と細長い六本足を有する。そして、尻を支柱に世にも珍しい昆虫の立ち姿から察する、二メートルはあろうかという体長にひたすら度肝を抜かれた。まるで、人間が着ぐるみに身を包んでいるかのような奇妙さは、迂闊に近付く事を本能が忌避した。
「スカベラだ……」
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる