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第二部
一人目
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腹から生える六本の足を使い、丸みを帯びたボールらしき物を転がして手遊びに没我していたスカベラの、頭部から伸びる触覚が忙しなく振れ出す。環境の変化をつぶさに察知しようとするアンテナらしい働きからして、いつどのようなタイミングで俺達を捉えるか。時間の問題であった。
「はやまるなよ」
剣を抜き、斬りかかる機会を探っていた俺達を、カイトウは諌めた。一人一人が身勝手に動けば、この「スカベラ」という昆虫の想定外な反応によって、輪を乱されてあっという間に塵芥へ様変わりする恐れもある。後手に回る事を恐れずに、スカベラの一挙手一投足を注視した。
枝切り鋏のような形状をした大顎は、切断や粉砕を主とする機能を備えており、獲物の出現を察知したかのように徐に蠢いた。
「キー! キー!」
スカベラは威嚇的な金切り音を発し始め、縄張りに侵入した異物に対しての警戒を喚起する。
「カイトウ。突っ立ってるだけじゃ、初めにやられるのはオレ達の方だぞ」
トーマスの言う通り、一人の犠牲が出てから行動を起こすのは手遅れに違いない。しかし、先頭を切って走り出す蛮勇とは、余程の世捨て人か、無知なる虚ろがもたらす自壊覚悟の特攻だろう。まるで薄氷の上に立っているかのように足が動かせず、抜き身の剣は泥濘に浸かった。
「……」
逡巡はスカベラの触覚を手引きし、昆虫本来の地面に這う姿勢をもたらした。
「来たぞ!」
俊敏性はそのままに、気まぐれな昆虫の動きは空間を攪拌する。それでも、背中を見せて逃げ出すような臆病者はこの場に存在せず、剣の柄を握る手の強張りを目の端に捉えた。真っ先に依頼の参加を告げ、胸を張ったはずの俺は、スカベラに向かって走り出すトーマスの背中をむざむざと見送った。
「続け!」
トーマスの鯔背を合図にカイトウがそう呼び掛ける。本懐である「復讐」を遂げる為には、目の前の怪物を打ち倒す他ない。半ば失敗に終わると分かっていながら、命を賭した特攻を仕掛ける無鉄砲さに、風を切ったそばから涙が流れそうである。俺達は謂わば、スカベラにとって、選り取り見取りの的だ。誰が一番初めに餌食となるか。俺は集団に紛れて、願うように前進を続けた。そんな折に、左後方から壁に頭をぶつけたかのような、間の抜けた声が上がり、首を回す。
するとそこには、どこからともなく現れた、もう一匹のスカベラに背後から抱きつかれる名もなき団員が、虚を突かれた顔そのままに連れ去られる姿を目撃した。人間という種は未だ、自然界に於ける生存競争の真っ只中にあり、冒険団とはそれに立ち向かう為に結成された、団結と発展の象徴なのだと理解する。故に、今置かれている状況はその対処に当たる勇姿となるのだが、はっきり言って最悪だ。
二匹目のスカベラの登場により、俺達は見事な挟撃を受けるに至った。思慮の足りない、なりふり構わぬ前進をスカベラに咎められ、脳に酸素が回った気分だ。一人目の犠牲者が出て漸く、浮き足立って行動を起こす短絡的な思考は白紙に戻る。マイヤー、リーラルと俺は、団員を抱えて走り去るスカベラの動向を足を止めて目で追った。
「まだ他にもいるかもしれない!」
「はやまるなよ」
剣を抜き、斬りかかる機会を探っていた俺達を、カイトウは諌めた。一人一人が身勝手に動けば、この「スカベラ」という昆虫の想定外な反応によって、輪を乱されてあっという間に塵芥へ様変わりする恐れもある。後手に回る事を恐れずに、スカベラの一挙手一投足を注視した。
枝切り鋏のような形状をした大顎は、切断や粉砕を主とする機能を備えており、獲物の出現を察知したかのように徐に蠢いた。
「キー! キー!」
スカベラは威嚇的な金切り音を発し始め、縄張りに侵入した異物に対しての警戒を喚起する。
「カイトウ。突っ立ってるだけじゃ、初めにやられるのはオレ達の方だぞ」
トーマスの言う通り、一人の犠牲が出てから行動を起こすのは手遅れに違いない。しかし、先頭を切って走り出す蛮勇とは、余程の世捨て人か、無知なる虚ろがもたらす自壊覚悟の特攻だろう。まるで薄氷の上に立っているかのように足が動かせず、抜き身の剣は泥濘に浸かった。
「……」
逡巡はスカベラの触覚を手引きし、昆虫本来の地面に這う姿勢をもたらした。
「来たぞ!」
俊敏性はそのままに、気まぐれな昆虫の動きは空間を攪拌する。それでも、背中を見せて逃げ出すような臆病者はこの場に存在せず、剣の柄を握る手の強張りを目の端に捉えた。真っ先に依頼の参加を告げ、胸を張ったはずの俺は、スカベラに向かって走り出すトーマスの背中をむざむざと見送った。
「続け!」
トーマスの鯔背を合図にカイトウがそう呼び掛ける。本懐である「復讐」を遂げる為には、目の前の怪物を打ち倒す他ない。半ば失敗に終わると分かっていながら、命を賭した特攻を仕掛ける無鉄砲さに、風を切ったそばから涙が流れそうである。俺達は謂わば、スカベラにとって、選り取り見取りの的だ。誰が一番初めに餌食となるか。俺は集団に紛れて、願うように前進を続けた。そんな折に、左後方から壁に頭をぶつけたかのような、間の抜けた声が上がり、首を回す。
するとそこには、どこからともなく現れた、もう一匹のスカベラに背後から抱きつかれる名もなき団員が、虚を突かれた顔そのままに連れ去られる姿を目撃した。人間という種は未だ、自然界に於ける生存競争の真っ只中にあり、冒険団とはそれに立ち向かう為に結成された、団結と発展の象徴なのだと理解する。故に、今置かれている状況はその対処に当たる勇姿となるのだが、はっきり言って最悪だ。
二匹目のスカベラの登場により、俺達は見事な挟撃を受けるに至った。思慮の足りない、なりふり構わぬ前進をスカベラに咎められ、脳に酸素が回った気分だ。一人目の犠牲者が出て漸く、浮き足立って行動を起こす短絡的な思考は白紙に戻る。マイヤー、リーラルと俺は、団員を抱えて走り去るスカベラの動向を足を止めて目で追った。
「まだ他にもいるかもしれない!」
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