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第三部
とある場所にて
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異世界に安寧をもたらそうとする指針に対して、常にベレトが懐疑的な立場を隠さなかった。バエルの思想を目の上のタンコブのように思っていたならば、日浦やアイへあらゆる手段を用いて何らかの働きかけをするはずだ。
「見つけないと……」
俺が先ず始めにすることは、ベレトが何処へ向かったかを考えることからだろう。居ても立っても居られず、バエルに続き部屋を後にした。唯一思い浮かんでいるのは、ベレトが根城にしていた場所だが、異世界の地理に弱い俺が迷いもせずにそこへ向かうのは土台無理であった。手掛かりはないと言って等しく、バエルの言っていた通り、後手に回ることしかできない。よしんば、俺達を陥れるような目論みをベレトが思い付き、その方法に邁進するならば、鉢合わせる瞬間は必ず訪れ、どちらかが片膝を着くことを意味する。
ただこれはあくまでも、俺達が行動を取れぬ故に推察する主観的な巡り合いに過ぎず、一言「魔が差した」と言われてしまえば、逡巡の間もなく瓦解する。命綱なしにバンジージャンプを敢行するような後ろ盾のなさは、乾坤一擲の大博打と変わらない。五体満足な日浦やアイの姿を目にしない限り、こんこんと歯痒い思いに晒され続け、毎晩うなされそうだ。
「……待つしかないのか」
首尾よく物事が進むことをまさに天に祈るしか、今の俺には手立てがなかった。
まんじりと月日を刻む時計台の鐘は、慣例に従って切れ間なく進む時間の面を叩き、人々の頭上へ金属の雨を降らす。これから先に待ち受ける暗澹たる未来など気に留めず、ひたすら任された仕事をこなし続ける。そんな鐘の横で、一人の魔術師が退屈そうに縁から足を投げ出し、この都市で最も背丈のある時計台から眼下の人の流れに視線をやおら動かしている。
「やぁ、サボり魔くん」
金色の刺繍が施された赤いローブをたなびかせながら、精力に溢れた眉の太さと、あらゆる事物を捉えて離さない眼力は、同士の魔術師の怠慢を指摘した。
「イシュよ。こんな時だからこそ、自分達が胸を張ってこの街に安心をもたらすべき何じゃないか?」
イシュと呼ばれた魔術師は、説教めいた講釈を垂れる同士の男の言葉をあからさまに嫌悪して、深い嘆息をつく。
「ほら見てみろよ」
男は懐から魔石を握ってイシュの顔の前に差し出した。
「皆、不安なんだよ。でもだからといって、この街で好き勝手にさせれば、それこそ終わりだぞ」
魔石をジッと注視すると、ローブを翻す魔術師が某の背中を押さえ付けて、語気を荒げる姿が浮かび上がった。
「オレが一人いなくても、こうやって回っていくんだ」
イシュは街の秩序を維持する歯車から外れた一つの部品として自分を扱い、恙無く時を刻む鐘の横で黄昏ていたのだ。だがそこに、害獣さながらに飛来した男の叱咤激励に遭い、畑を荒らされる夢見の悪さを味わうに至った。
「そうやって、イジけるなよぉ」
馴れ馴れしくイシュの肩に手を回し、著しく矮小な子どもの戯れだとする男の咀嚼に、イシュは身体を飛び跳ねさせて慰め気分の手を追い払う。
「見つけないと……」
俺が先ず始めにすることは、ベレトが何処へ向かったかを考えることからだろう。居ても立っても居られず、バエルに続き部屋を後にした。唯一思い浮かんでいるのは、ベレトが根城にしていた場所だが、異世界の地理に弱い俺が迷いもせずにそこへ向かうのは土台無理であった。手掛かりはないと言って等しく、バエルの言っていた通り、後手に回ることしかできない。よしんば、俺達を陥れるような目論みをベレトが思い付き、その方法に邁進するならば、鉢合わせる瞬間は必ず訪れ、どちらかが片膝を着くことを意味する。
ただこれはあくまでも、俺達が行動を取れぬ故に推察する主観的な巡り合いに過ぎず、一言「魔が差した」と言われてしまえば、逡巡の間もなく瓦解する。命綱なしにバンジージャンプを敢行するような後ろ盾のなさは、乾坤一擲の大博打と変わらない。五体満足な日浦やアイの姿を目にしない限り、こんこんと歯痒い思いに晒され続け、毎晩うなされそうだ。
「……待つしかないのか」
首尾よく物事が進むことをまさに天に祈るしか、今の俺には手立てがなかった。
まんじりと月日を刻む時計台の鐘は、慣例に従って切れ間なく進む時間の面を叩き、人々の頭上へ金属の雨を降らす。これから先に待ち受ける暗澹たる未来など気に留めず、ひたすら任された仕事をこなし続ける。そんな鐘の横で、一人の魔術師が退屈そうに縁から足を投げ出し、この都市で最も背丈のある時計台から眼下の人の流れに視線をやおら動かしている。
「やぁ、サボり魔くん」
金色の刺繍が施された赤いローブをたなびかせながら、精力に溢れた眉の太さと、あらゆる事物を捉えて離さない眼力は、同士の魔術師の怠慢を指摘した。
「イシュよ。こんな時だからこそ、自分達が胸を張ってこの街に安心をもたらすべき何じゃないか?」
イシュと呼ばれた魔術師は、説教めいた講釈を垂れる同士の男の言葉をあからさまに嫌悪して、深い嘆息をつく。
「ほら見てみろよ」
男は懐から魔石を握ってイシュの顔の前に差し出した。
「皆、不安なんだよ。でもだからといって、この街で好き勝手にさせれば、それこそ終わりだぞ」
魔石をジッと注視すると、ローブを翻す魔術師が某の背中を押さえ付けて、語気を荒げる姿が浮かび上がった。
「オレが一人いなくても、こうやって回っていくんだ」
イシュは街の秩序を維持する歯車から外れた一つの部品として自分を扱い、恙無く時を刻む鐘の横で黄昏ていたのだ。だがそこに、害獣さながらに飛来した男の叱咤激励に遭い、畑を荒らされる夢見の悪さを味わうに至った。
「そうやって、イジけるなよぉ」
馴れ馴れしくイシュの肩に手を回し、著しく矮小な子どもの戯れだとする男の咀嚼に、イシュは身体を飛び跳ねさせて慰め気分の手を追い払う。
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