便秘でトイレに篭っていたら、第十四柱として異世界に召喚されました

駄犬

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第三部

着々と、疑心と

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「ん? それなんだよ」

 廊下で偶さかすれ違った同僚は、奇異な眼差しと好奇心の折衷による不埒な微笑みをぶら下げて、成人男性を肩に担ぐ謂れに耳をそば立てる。酒乱の介抱だと一言で説明できれば、二人の魔術師も拙速に答えていただろう。しかし、酒気も生気もない肉塊をそれらしい理由を拵えて、寡少に言うのは憚られ、誠実に、或いは率直に答える他なかった。

「陰部を切られた死体だね」

「死体」であることと、「陰部」に特徴付けられる暗澹なる言葉の並びに、事務処理に追われた役所仕事の鬱々としたものが醸成された。

「捕まえた?」

 容疑者の首根っこを掴む動作を片手で行う同僚の軽々しさとは打って変わって、二人の魔術師は首を前に落とし、横に振る重苦しさを湛える。

「まぁ、……頑張って」

 面倒事を避ける人間の如何にも一線を引いた同僚の弁舌から、巡り合わせの悪い役目を負った二人の魔術師に対して同情的な感情の起伏を感じさせる。道草を食ったことを後悔したかのように、早足で同僚は立ち去っていった。臭い物に蓋をするように奥まった場所に鎮座する焼却室までの廊下を、奥ゆかしい足運びで進む二人は、鎮痛を腹に抱える険しい表情を繕い、目の前まで迫った扉に対して殊更に息を吐いた。

 死体を肩に担ぎ、横で不平不満の言葉を吐かれても文句を一つも溢さない魔術師は、一歩下がって扉の開閉を待つ。苦労の言葉を厭わない相方は、皮肉めいた紳士の身のこなしで扉をやおら開き、入室を促す。塵芥などを燃やして煙に変えるだけの森閑とした焼却室は、煙突から流れ込む外気によって、そこに立つ者の肌に粟立つ粒を産み落とす。粛々と二人は死体の衣服を脱がし、裸体となった六頭身の小柄な雄を薪にくべるように炉へ投げ込んだ。かいてもいない汗を額に見せ、ポツリと口を動かす。

「もし仮にこんな死体が頻繁に散見されるようになると、街は酷いことになるぞ」

 痴情のもつれによって生じた私怨を願って止まない。それは、街の安寧に関わる者としての憂いであり、か細い糸に掴まって街並みを見下ろしているかのような綱渡りの日常が、崩れぬように願う魔術師の悲哀だ。しかし、煙突が吐き出す黒い煙は、街に暗い影を落とす雲として形成された。

「これは……」

 股間を赤く濡らした二つ目の死体は、白昼の明るさにさらされると、怖気が風になって吹き抜けた。知らず知らずのうちに、隣にいる他人へ抱く「疑心」は、波紋のように広がる。その手口の陰湿さは、内圧の高さを感じさせるが、公衆に晒すという劇場型の挑発的な振る舞いと相まって、体制に対する強い憤りのようなものも感受できる。
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