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最終章
叶えたいこと
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場末の召喚士は、その肩書きが持つ特別な意味をよく理解している。人類史を振り返れば必ず、時代を繋ぐ要衝として働き、木っ端の魔術師では背負いきれない重荷を肩代わりしてきた。だからこそ、瀬戸際に立たされた退廃的な機運を誰よりも強く影響を受ける。口から酒精を漂わせる魔術師を横目に、召喚士はひとえに憂う。そして、知見を深める意味で読破した一冊の本によって、倒錯的な発想を得た。半ば自暴自棄ともいえる行動ではあったものの、悪魔の名を冠するバエルを召喚するに至り、図らずも英雄的思想を持った人物という、神の采配があったとしか思えない、作為的な人選が為された。それは網のような広がりを見せ、悪魔の召喚が試みられた。召喚士の願いとは裏腹に、ベレトのように土着的な思想の頓着を見せる者もおり、必ずしも有益な恩恵を授かる訳ではない。
当然のことながら、世界が終末に傾きつつあるからといって、助力を買って出る義務はない。ただ、バエルはその役回りにこの上ない充実感を覚えていた。仲間を引き連れれば、それは歴史に名を残す際の副菜として働き、見栄えが良くなるのではないか。きわめて利己的な思考の流れによって、世界の越境を拉致さながらに行い、半ば強制的に自身の思惑に加担させるつもりでいた。勿論、屋台骨となっているのは、「バエル」という名を授かって得た、世界を手中に収める力だろう。
「大いに関係がある。とくに、召喚された者同士はね」
ニカリと快活に笑い、ウァサゴの反抗心を包み込む。
「運命、なんて言葉を体よく使うつもりはなかった。でも、一人の女性を介して、これほどの魔術の使い手が集まることは、もはや運命を語ってもいいはずだ」
足を内側に畳み込んで胡座の形を作っていたバエルは、内側からこみ上げてくる自惚れのようなものが、ありもしない足場を見出し、二本足で仁王立つ。目も眩むような光を背負ったバエルの影が、恥ずかしげもなく語られる尊大な言葉と共に地上へ切り絵のように象られた。
「それで? オレ達に何をさせたい。そこをハッキリとさせてくれなければ、この煽動は全くもって空々しい」
だがイシュは、非常に冷静だった。脈略がなく現れたバエルの講釈を聞いた上で目的を明確にし、助力するだけの価値があるか。この場にいる人間の中で唯一、中庸な感覚を有し、一方的に夢想を語るバエルに対して、現実的な話し合いをするだけのテーブルにつく準備を整える。
「名称不明の巨大な生物の殲滅と、穴に栓をし、これまで通りの生活を取り戻すこと」
バエルは端的かつ簡潔に自身の望みを述べ、これから対峙する事象について叩き台に上げた。イシュは目蓋をやや震わせ、顔をしかめると、頭を投げやりに掻いてバツの悪さをあけすけにした。
当然のことながら、世界が終末に傾きつつあるからといって、助力を買って出る義務はない。ただ、バエルはその役回りにこの上ない充実感を覚えていた。仲間を引き連れれば、それは歴史に名を残す際の副菜として働き、見栄えが良くなるのではないか。きわめて利己的な思考の流れによって、世界の越境を拉致さながらに行い、半ば強制的に自身の思惑に加担させるつもりでいた。勿論、屋台骨となっているのは、「バエル」という名を授かって得た、世界を手中に収める力だろう。
「大いに関係がある。とくに、召喚された者同士はね」
ニカリと快活に笑い、ウァサゴの反抗心を包み込む。
「運命、なんて言葉を体よく使うつもりはなかった。でも、一人の女性を介して、これほどの魔術の使い手が集まることは、もはや運命を語ってもいいはずだ」
足を内側に畳み込んで胡座の形を作っていたバエルは、内側からこみ上げてくる自惚れのようなものが、ありもしない足場を見出し、二本足で仁王立つ。目も眩むような光を背負ったバエルの影が、恥ずかしげもなく語られる尊大な言葉と共に地上へ切り絵のように象られた。
「それで? オレ達に何をさせたい。そこをハッキリとさせてくれなければ、この煽動は全くもって空々しい」
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「名称不明の巨大な生物の殲滅と、穴に栓をし、これまで通りの生活を取り戻すこと」
バエルは端的かつ簡潔に自身の望みを述べ、これから対峙する事象について叩き台に上げた。イシュは目蓋をやや震わせ、顔をしかめると、頭を投げやりに掻いてバツの悪さをあけすけにした。
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