ドーベルマン

駄犬

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事の顛末

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「さっきまでの余裕はどうした?!」

 攻勢を肌で感じる林田は空振りを続ける中でも、ひたすら減らず口を叩き続け、ドーベルマンの劣勢を解く。

「何が町の治安を守る番犬だ。洒落臭い。お前などそこいらの野犬と変わらない。都合の良い噛み付ける相手を探すだけのな」

 風穴が空いてもおかしくない強烈な林田の前蹴りが腹部を捉え、樽のようにドーベルマンは後転を繰り返す。

「はぁはぁ」

 大の字で夜空を仰ぎ、忙しなく息を繰り返して全身に血を回す。興奮気味な林田とは裏腹に、ドーベルマンは至って冷静に目の前の痛みと向き合っていた。

「まだ小手調べだよなぁ?」

 林田は徐に歩を進めながら、鼻に掛けた自信を発露する。

「よっと」

 ドーベルマンはバネのように身体を伸び縮みさせて地面から再び起き上がった。砂埃をはたいて落とす軽やかな所作に合わせて、縄跳びを飛ぶようにその場でジャンプを繰り返す。まるでこれから有り余る気力の全てを出し尽くすかのような予備動作は、林田の失笑を誘った。

「本気じゃなかったと?」

 腹の底から呆れた調子を口から溢す林田に、不安ないし恐れは一切伺えない。しかしその気風は、ドーベルマンが風を巻くより早く林田の懐に飛び込んだ事から、瓦解する。明らかな焦りを後退の為に足を動かす様子から見て取れ、お返しと言わんばかりにドーベルマンから鳩尾への殴打をもらった。車に轢かれたのと変わらない勢いで吹っ飛ぶ林田の身体は傀儡めいた軽さを露呈する。常人であれば忽ち気を失って、二度と立ち上がれないはずだ。

「ゲホッ!」

 息苦しさに咳き込む林田は、息つく間もない追い討ちへの準備が整っておらず、やむなく足蹴にされて地面を転がる。

「……はぁ、ぁはあ」

 痙攣する腹部は上手く呼吸が出来てない為に起きる、第二の脳が見せた苦渋に違いない。

「後学になるものの、やはり身をもって味わってこそ教訓になるな。油断は大敵だと」

 ドーベルマンは林田の無防備な胸ぐらを掴むと、上体を無理やり起こす。首が据わる前の赤子のようにくるりと頭が回り、力なく垂れた。

「……」

 もはや虫の息にすら思える沈黙具合に流石のドーベルマンも様子を伺い気味だ。

「息は、しているよな?」

 つぶさに胸の動きに注視すれば、仄かな息遣いを見目に捉えた。安否の確認に没我したドーベルマンの背中は、不埒な思惑を抱いた河合の格好な餌食となり、忍び足で近付いたのち、死角を突く急襲に出る。ただ、後頭部への強烈な一撃を見舞うつもりで振り上げた拳は、瞬く間にドーベルマンが目の前から姿を消した所為で空を切り、襲おうと息んだ河合は林田を巻き込んで地面へ雪崩れた。

「悪いね。悪意には敏感なんだ」

 河合の目論見に対して見事な対処を見せたドーベルマンは、両手を合わせて謝意を送り、ポケットから携帯電話を取り出す。

「救急車と警察は呼んでおいたから」

 幾重にも重なるサイレンは、引っ掻いて赤く染まる町の臍だ。大小の異なる屋根を伝って走るドーベルマンは、次の標的を探して闇に溶ける。
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