16 / 19
事の顛末
しおりを挟む
「さっきまでの余裕はどうした?!」
攻勢を肌で感じる林田は空振りを続ける中でも、ひたすら減らず口を叩き続け、ドーベルマンの劣勢を解く。
「何が町の治安を守る番犬だ。洒落臭い。お前などそこいらの野犬と変わらない。都合の良い噛み付ける相手を探すだけのな」
風穴が空いてもおかしくない強烈な林田の前蹴りが腹部を捉え、樽のようにドーベルマンは後転を繰り返す。
「はぁはぁ」
大の字で夜空を仰ぎ、忙しなく息を繰り返して全身に血を回す。興奮気味な林田とは裏腹に、ドーベルマンは至って冷静に目の前の痛みと向き合っていた。
「まだ小手調べだよなぁ?」
林田は徐に歩を進めながら、鼻に掛けた自信を発露する。
「よっと」
ドーベルマンはバネのように身体を伸び縮みさせて地面から再び起き上がった。砂埃をはたいて落とす軽やかな所作に合わせて、縄跳びを飛ぶようにその場でジャンプを繰り返す。まるでこれから有り余る気力の全てを出し尽くすかのような予備動作は、林田の失笑を誘った。
「本気じゃなかったと?」
腹の底から呆れた調子を口から溢す林田に、不安ないし恐れは一切伺えない。しかしその気風は、ドーベルマンが風を巻くより早く林田の懐に飛び込んだ事から、瓦解する。明らかな焦りを後退の為に足を動かす様子から見て取れ、お返しと言わんばかりにドーベルマンから鳩尾への殴打をもらった。車に轢かれたのと変わらない勢いで吹っ飛ぶ林田の身体は傀儡めいた軽さを露呈する。常人であれば忽ち気を失って、二度と立ち上がれないはずだ。
「ゲホッ!」
息苦しさに咳き込む林田は、息つく間もない追い討ちへの準備が整っておらず、やむなく足蹴にされて地面を転がる。
「……はぁ、ぁはあ」
痙攣する腹部は上手く呼吸が出来てない為に起きる、第二の脳が見せた苦渋に違いない。
「後学になるものの、やはり身をもって味わってこそ教訓になるな。油断は大敵だと」
ドーベルマンは林田の無防備な胸ぐらを掴むと、上体を無理やり起こす。首が据わる前の赤子のようにくるりと頭が回り、力なく垂れた。
「……」
もはや虫の息にすら思える沈黙具合に流石のドーベルマンも様子を伺い気味だ。
「息は、しているよな?」
つぶさに胸の動きに注視すれば、仄かな息遣いを見目に捉えた。安否の確認に没我したドーベルマンの背中は、不埒な思惑を抱いた河合の格好な餌食となり、忍び足で近付いたのち、死角を突く急襲に出る。ただ、後頭部への強烈な一撃を見舞うつもりで振り上げた拳は、瞬く間にドーベルマンが目の前から姿を消した所為で空を切り、襲おうと息んだ河合は林田を巻き込んで地面へ雪崩れた。
「悪いね。悪意には敏感なんだ」
河合の目論見に対して見事な対処を見せたドーベルマンは、両手を合わせて謝意を送り、ポケットから携帯電話を取り出す。
「救急車と警察は呼んでおいたから」
幾重にも重なるサイレンは、引っ掻いて赤く染まる町の臍だ。大小の異なる屋根を伝って走るドーベルマンは、次の標的を探して闇に溶ける。
攻勢を肌で感じる林田は空振りを続ける中でも、ひたすら減らず口を叩き続け、ドーベルマンの劣勢を解く。
「何が町の治安を守る番犬だ。洒落臭い。お前などそこいらの野犬と変わらない。都合の良い噛み付ける相手を探すだけのな」
風穴が空いてもおかしくない強烈な林田の前蹴りが腹部を捉え、樽のようにドーベルマンは後転を繰り返す。
「はぁはぁ」
大の字で夜空を仰ぎ、忙しなく息を繰り返して全身に血を回す。興奮気味な林田とは裏腹に、ドーベルマンは至って冷静に目の前の痛みと向き合っていた。
「まだ小手調べだよなぁ?」
林田は徐に歩を進めながら、鼻に掛けた自信を発露する。
「よっと」
ドーベルマンはバネのように身体を伸び縮みさせて地面から再び起き上がった。砂埃をはたいて落とす軽やかな所作に合わせて、縄跳びを飛ぶようにその場でジャンプを繰り返す。まるでこれから有り余る気力の全てを出し尽くすかのような予備動作は、林田の失笑を誘った。
「本気じゃなかったと?」
腹の底から呆れた調子を口から溢す林田に、不安ないし恐れは一切伺えない。しかしその気風は、ドーベルマンが風を巻くより早く林田の懐に飛び込んだ事から、瓦解する。明らかな焦りを後退の為に足を動かす様子から見て取れ、お返しと言わんばかりにドーベルマンから鳩尾への殴打をもらった。車に轢かれたのと変わらない勢いで吹っ飛ぶ林田の身体は傀儡めいた軽さを露呈する。常人であれば忽ち気を失って、二度と立ち上がれないはずだ。
「ゲホッ!」
息苦しさに咳き込む林田は、息つく間もない追い討ちへの準備が整っておらず、やむなく足蹴にされて地面を転がる。
「……はぁ、ぁはあ」
痙攣する腹部は上手く呼吸が出来てない為に起きる、第二の脳が見せた苦渋に違いない。
「後学になるものの、やはり身をもって味わってこそ教訓になるな。油断は大敵だと」
ドーベルマンは林田の無防備な胸ぐらを掴むと、上体を無理やり起こす。首が据わる前の赤子のようにくるりと頭が回り、力なく垂れた。
「……」
もはや虫の息にすら思える沈黙具合に流石のドーベルマンも様子を伺い気味だ。
「息は、しているよな?」
つぶさに胸の動きに注視すれば、仄かな息遣いを見目に捉えた。安否の確認に没我したドーベルマンの背中は、不埒な思惑を抱いた河合の格好な餌食となり、忍び足で近付いたのち、死角を突く急襲に出る。ただ、後頭部への強烈な一撃を見舞うつもりで振り上げた拳は、瞬く間にドーベルマンが目の前から姿を消した所為で空を切り、襲おうと息んだ河合は林田を巻き込んで地面へ雪崩れた。
「悪いね。悪意には敏感なんだ」
河合の目論見に対して見事な対処を見せたドーベルマンは、両手を合わせて謝意を送り、ポケットから携帯電話を取り出す。
「救急車と警察は呼んでおいたから」
幾重にも重なるサイレンは、引っ掻いて赤く染まる町の臍だ。大小の異なる屋根を伝って走るドーベルマンは、次の標的を探して闇に溶ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる