何故に彼等はこうなったか

駄犬

文字の大きさ
11 / 23
ブレアウィッチ

かみかくし

しおりを挟む
 日本の事件史に残る殺人の数々は、創作に置き換えてみても凶悪なものばかりだ。どの頁から読んでみても、目を惹く記述がつらつらと並ぶ。僕はそれを読み物として一線を引き、嗜んでいた。趣味が悪いと自覚しているし、それを誰かに吐露することはない。少し前の僕はそう考えていた。しかし、趣味が高じて事件現場へ残り香を嗅ぎに行くという、醜悪極まりないものへ昇華する。カメラを担いで記録に残す手癖の悪さを呼び水に、事件の啓蒙を装いつつ、動画投稿を始めてしまった。

 見るに耐えない膿のように張り出した稚拙な欲求だ。公序良俗に反すると弁えておきながら、お布施を預かろうなどと厚かましい。今ならまだ間に合う。動画を消す決心をして目に入ってきたのは、動画の異様な再生数の伸びだった。僕と同じような趣味趣向を持った同志のコメントに、動画投稿の習慣化の後押しをされた。

 男の名は、高野落太郎というらしい。この曖昧さは付き合いの長さに関わらない。何故なら、隣に居た女から名前を呼ばれた途端、血相を変えて怒り出す、鼻持ちならない理由があって、自ら名乗るにしても必ず苗字しか自己紹介に含まない。下の名前を親しみを込めて呼ぶような機会はこないだろう。

 打算にばかり目を奪われた人間の声の扱い方は揃いも揃って、声を低く潜め、秘密の共有と共振を誘ってくる。高野はまさにその典型であり、僕は仕方なくそれに従った。高野の提案を聞いたとき、直ぐにとある映画が頭に浮かんだ。それは、モキュメンタリー形式での代表作に数えられる、「ブレアウィッチ」だ。

 いわゆる曰く付きと呼ばれる土地や建物を動画で紹介していた青年が、何の前触れなく動画投稿を止めてしまう。少しして、紛失物と思われるカメラに残った記録映像が同サイトに於いて投稿される。内容は、霧深い山に踏み入る一人の男が、何かの衝撃によりカメラを落とすと、そのまま拾われることなく地平線を映しているだけの怪異な映像だ。

「拾ったカメラの記録映像」

 このような題目で動画を投稿し、怪奇趣味を持った方々に見つけてもらう。風景や喋り方。限られた情報の中で、きっと目敏い見物人がカメラの持ち主と失踪した青年を結びつけるはずだ。そうなれば、刹那に燃え上がり、あらゆる媒体で取り上げられて、爆発的な再生回数を記録するだろう。だが、懸念はある。高野からこの筋書きを聴いた瞬間、僕は真っ先に自作自演を疑われると思ったのだ。それでも、

「確かにね。でもさ、ネット掲示板の黎明期にあった事件関与を匂わせる書き込みのアングラ感は再現できると俺は思ってるんだよ」

 昔馴染みと顔を合わせたかのような郷愁を醸す高野の望みは確かに魅力的だった。しかしながら、アカウントを新たに作り、拾ったカメラに残る記録映像と題して動画を載せるのはやはり、陳腐な自作自演になる。その動画サイトで既に一定数から認知されている人物に協力を仰ぎ、カメラを拾うまでの過程を動画にしてもらい、記録映像の拡散を図る。このやり方ならば、自然な過程を踏んで、忽然と姿を消した神隠しを演出できるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...