親愛なる記者の備忘録

駄犬

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夕食

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 空々しい苦笑を語尾に添えて同僚の進言を熟読玩味したように演じた。夜風を気取った町の街灯が眠気眼に明滅を繰り返しながら道を作り、帰路を辿る町民の足元を照らす。ほっかむりを被ったような暗闇に思考はよく巡り、日中には出来なかった思索が捗る。

 六名の被害者を出した陥没事故の原因を暴く為に、地盤の状況や道路の工事に関わった土木会社への調査など、手当たり次第に人が動いて躍起になっている事だろう。被害者の体験談は、事故に付属した調味料に過ぎず、私のようにまず初めに取材を申し込もうとするのは物珍しいだろう。あまつさえ、被害者の証言から事故の原因を究明を図るとなれば、額面上はもはや一介のオカルト好きである。

 特筆して語るべき所が一つもないアパートの外観は、町の一角を埋めるのに過不足なく、生活する上でも不自由に思う事もない。帰宅してからやる事は、部屋着に着替えながらテレビの電源を点けてニュース番組を薄ぼんやりと聞く所から始まる。これは日々の日課として組み込まれており、無意識下にこなす墨守と化していた。

「どうですか? 尾妻さん」

「陥没が起きる主な原因は、道路に布設された構造物の経年劣化ですね。土砂が流れ出る事で道路内に空洞が発生する」

 前もって準備された講釈へ、興味深そうに耳を貸す番組出演者の姿が白々しく感じ、知らぬ間に悪態をついていた。肌の上を這う虫を吹き払うように、チャンネルを次から次へと変えていく。夜の深い時間ともあって、娯楽番組は既に終わり、どこの局も今日一日に起きた事件事故のおさらいを始めていた。視聴率を考えると、陥没事故は取り上げて然るべきだし、専門家などを招いて意見を交わす様子は至極真っ当であった。しかし、それらの光景は私が求めてやまない好奇心から逸脱する。

「はぁ……」

 テレビを雑音に、昨晩に買っておいたコンビニ弁当を冷蔵庫から取り出す。調理器具の有無に関わらず、電子レンジは必需品だ。現代人の生活を支える白物家電の一つに数えられ、昨晩に買っておいたコンビニ弁当を温め直し、夕食とする質素な食生活にも大いな貢献を果たしている。

 まんじりと電子レンジが稼働する音を聞きながら、煩雑な思考とは袂を分かち、天井から落ちてくる埃をとりとめもなく目で追った。正味一分程度の短い時間ながら、私はこの瞬間を愛している。大して内容を理解せずに何処からか借りてきたような文章を拵えて、せかせかと雑多に手を動かす毎日の悪癖じみた行動から距離を置く。処方薬に頼るより、遥かに健康的で心休まるひと時であった。

「チーン」

 弁当に熱を上げた電子レンジが、数刻後に消費期限を迎える弁当の値踏みを終えた。私は電子レンジの口を開けて、溶けかけた容器の縁を掴んだ。

「つっ!」

 踊るように指を操って、居間のテーブルまで運ぶ。割り箸とは切っても切り離せない仲だが、使い終わった後にゴミ袋から足を出す慮外な姿に何度、頭を悩ませてきたか。忌々しく思うものの、塩分たっぷりのコンビニの弁当にお世話になる日々が続く限り、割り箸との縁はこれからも末永く続く事だろう。

「いただきます」
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