6 / 24
とりとめもなく
しおりを挟む
休日に花盛る町の風景は、人気に溢れ、雑多にそれぞれの目的が交差する。数多の声が群を成して蔓延ると、言葉は泥団子のように雑味を帯びて意味が剥落した。信号のまばたきに合わせて、アクセルを踏み込む自動車のいななきを横目に、私は件の喫茶店を目の前に捉えた。喫茶店を名乗るのに相応しい作りをした建物の外観は、木造を殊更に強調している。人工物に囲まれて生活をするうちに、人は自然界のモノに安らぎを感じだし、道路脇に木を植えてしまうほどに病んでしまった。
「いらっしゃいませ」
慎みやかに来店を歓迎されると、私は店内を一通り見渡した。そして、記名台に目を落とし、「小林一葉」の名前がないかを確認した。
「ふぅー」
私は約束の時間より十分早く、この場に臨んだ。取材相手に時間の進み具合を逐一、気にさせる事は、雲行きを悪くする一因となり、対話に幕を下ろす決定的な引き金になりかねない。よしんばそうなれば、頭を深々と下げて、誠心誠意を込めてこう言うだろう。
「待たせて、すみません!」
「小林一葉」は、私の想定する謝罪を一語一句、違わず口にして頭を下げた。確かに、約束の時間より五分程度、遅れてはいたが、これから取材を行おうと考えている相手の弱みを握るような真似は避けなかった。私の事は、音が返る壁程度に思ってくれるのが、話を引き出す上で都合が良い。
「いえいえ、私も今来たところですから」
私は席から立ち上がって、頭を下げた「小林一葉」の視線に合わせて腰を低くする。そして、席へ座る事を促し、息を合わせて共に着席した。
「今日はよく晴れましたね」
近所付き合いの四方山話にも劣る天気の案配を語るのは、先走った緊張を解くのに苦心した結果であった。
「えぇ」
「小林一葉」は、手元のメニュー表へ目を落とすと、半ば初対面である私との間に見目なき壁を作るように没我した。
「私も何か頼もうかな」
あり合わせの言葉で時間を共有する仲である事を暗に示し、メニュー表に書かれた飲み物を指でなぞる。
「アイスコーヒー……にしよう」
「小林一葉」の呼吸を探るように独り言を呟けば、それは見事な誘い水となり、注文の糸口を掴む。
「それじゃあ、わたしはオレンジジュースがいいかなぁ」
私は速やかに店員を呼び寄せ、趣旨のお供になる飲み物の注文を滞りなく終えた。
「あの、いえ畏まりました」
店員は怪訝な表情で私達の前から去っていった。なかなかに失礼な対応をする姿に睥睨しかけたが、今はそんな事に構っている場合ではない。
「身体は大丈夫ですか?」
取材の土台となる問題を机上に上げ、準備運動のように口を動かしてやる。これはまだ助走の段階で、私が訊きたい根っこの部分には手を掛けてすらいない。
「ぼちぼちですね。被害に遭われた人の中には入院をされている方もいると知って、わたしは運がいいと思います」
「いらっしゃいませ」
慎みやかに来店を歓迎されると、私は店内を一通り見渡した。そして、記名台に目を落とし、「小林一葉」の名前がないかを確認した。
「ふぅー」
私は約束の時間より十分早く、この場に臨んだ。取材相手に時間の進み具合を逐一、気にさせる事は、雲行きを悪くする一因となり、対話に幕を下ろす決定的な引き金になりかねない。よしんばそうなれば、頭を深々と下げて、誠心誠意を込めてこう言うだろう。
「待たせて、すみません!」
「小林一葉」は、私の想定する謝罪を一語一句、違わず口にして頭を下げた。確かに、約束の時間より五分程度、遅れてはいたが、これから取材を行おうと考えている相手の弱みを握るような真似は避けなかった。私の事は、音が返る壁程度に思ってくれるのが、話を引き出す上で都合が良い。
「いえいえ、私も今来たところですから」
私は席から立ち上がって、頭を下げた「小林一葉」の視線に合わせて腰を低くする。そして、席へ座る事を促し、息を合わせて共に着席した。
「今日はよく晴れましたね」
近所付き合いの四方山話にも劣る天気の案配を語るのは、先走った緊張を解くのに苦心した結果であった。
「えぇ」
「小林一葉」は、手元のメニュー表へ目を落とすと、半ば初対面である私との間に見目なき壁を作るように没我した。
「私も何か頼もうかな」
あり合わせの言葉で時間を共有する仲である事を暗に示し、メニュー表に書かれた飲み物を指でなぞる。
「アイスコーヒー……にしよう」
「小林一葉」の呼吸を探るように独り言を呟けば、それは見事な誘い水となり、注文の糸口を掴む。
「それじゃあ、わたしはオレンジジュースがいいかなぁ」
私は速やかに店員を呼び寄せ、趣旨のお供になる飲み物の注文を滞りなく終えた。
「あの、いえ畏まりました」
店員は怪訝な表情で私達の前から去っていった。なかなかに失礼な対応をする姿に睥睨しかけたが、今はそんな事に構っている場合ではない。
「身体は大丈夫ですか?」
取材の土台となる問題を机上に上げ、準備運動のように口を動かしてやる。これはまだ助走の段階で、私が訊きたい根っこの部分には手を掛けてすらいない。
「ぼちぼちですね。被害に遭われた人の中には入院をされている方もいると知って、わたしは運がいいと思います」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる