親愛なる記者の備忘録

駄犬

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とりとめもなく

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 休日に花盛る町の風景は、人気に溢れ、雑多にそれぞれの目的が交差する。数多の声が群を成して蔓延ると、言葉は泥団子のように雑味を帯びて意味が剥落した。信号のまばたきに合わせて、アクセルを踏み込む自動車のいななきを横目に、私は件の喫茶店を目の前に捉えた。喫茶店を名乗るのに相応しい作りをした建物の外観は、木造を殊更に強調している。人工物に囲まれて生活をするうちに、人は自然界のモノに安らぎを感じだし、道路脇に木を植えてしまうほどに病んでしまった。

「いらっしゃいませ」

 慎みやかに来店を歓迎されると、私は店内を一通り見渡した。そして、記名台に目を落とし、「小林一葉」の名前がないかを確認した。

「ふぅー」

 私は約束の時間より十分早く、この場に臨んだ。取材相手に時間の進み具合を逐一、気にさせる事は、雲行きを悪くする一因となり、対話に幕を下ろす決定的な引き金になりかねない。よしんばそうなれば、頭を深々と下げて、誠心誠意を込めてこう言うだろう。

「待たせて、すみません!」

「小林一葉」は、私の想定する謝罪を一語一句、違わず口にして頭を下げた。確かに、約束の時間より五分程度、遅れてはいたが、これから取材を行おうと考えている相手の弱みを握るような真似は避けなかった。私の事は、音が返る壁程度に思ってくれるのが、話を引き出す上で都合が良い。

「いえいえ、私も今来たところですから」

 私は席から立ち上がって、頭を下げた「小林一葉」の視線に合わせて腰を低くする。そして、席へ座る事を促し、息を合わせて共に着席した。

「今日はよく晴れましたね」

 近所付き合いの四方山話にも劣る天気の案配を語るのは、先走った緊張を解くのに苦心した結果であった。

「えぇ」

「小林一葉」は、手元のメニュー表へ目を落とすと、半ば初対面である私との間に見目なき壁を作るように没我した。

「私も何か頼もうかな」

 あり合わせの言葉で時間を共有する仲である事を暗に示し、メニュー表に書かれた飲み物を指でなぞる。

「アイスコーヒー……にしよう」

「小林一葉」の呼吸を探るように独り言を呟けば、それは見事な誘い水となり、注文の糸口を掴む。

「それじゃあ、わたしはオレンジジュースがいいかなぁ」

 私は速やかに店員を呼び寄せ、趣旨のお供になる飲み物の注文を滞りなく終えた。

「あの、いえ畏まりました」

 店員は怪訝な表情で私達の前から去っていった。なかなかに失礼な対応をする姿に睥睨しかけたが、今はそんな事に構っている場合ではない。

「身体は大丈夫ですか?」

 取材の土台となる問題を机上に上げ、準備運動のように口を動かしてやる。これはまだ助走の段階で、私が訊きたい根っこの部分には手を掛けてすらいない。

「ぼちぼちですね。被害に遭われた人の中には入院をされている方もいると知って、わたしは運がいいと思います」
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