親愛なる記者の備忘録

駄犬

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三人目

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「ぼくで何人目何ですか?」

「二人目だね」

 私がそう答えた直後、「蓮井廉」は意味深長に俯いて、地面の傾斜へ甚大なる心配りを見せた。

「そうですか」

 それ以上の言及を避けたのち、「蓮井廉」への取材は唐突に幕を下ろす。

「もう家なんで」

 知らず知らずのうちに、「蓮井廉」が暮らす実家まで歩いていたようだ。絵に描いたような中流家庭を物語る二階建ての一軒家は、住宅街の一角を埋めるのに過不足ない外観をしており、後ろめたい感情とは無縁な風格があった。

「他のみんなから話を聞き終わって、何か分かる事があったら、ぼくにも教えて下さいよ」

「わかった」

 学校から家までの短い間だったが、また一つ陥没事故の概要を固める情報が手に入った事が嬉しい。ただ、小林一葉はどこか物足らない顔をして、目元に憂いが浮かぶ。

「一歩、一歩ですね」

 まるで私を慰めるかのような台詞が吐かれ、すかさず返す。

「これは大きな一歩だ。あと四人もいれば、必ず手の届く距離まで近付ける」

 私は手応えを口にしたが、よしんば信じ難い惹句を「小林一葉」が期待していたならば、確かに「蓮井蓮」の証言は物足りないかもしれない。徒労に終わったと肩を落とすのも無理からぬ話である。しかし、上記の通り、まだ被害者の数が底を尽きた訳ではない。これから次々と新たな証言が出てきて、事故は立体的に立ち上がり、求めてやまない答えが待っているはずだ。

「焦る必要はない。私達が掛けた時間が無駄になったと嘆くにはまだ早い」

 窘めるように言えば、「小林一葉」は嘆息する。これは、当事者ならではの焦燥感であり、第三者に過ぎない私にとって、決して共有できぬ感覚だろう。いくら言葉を重ねても、すべて舌先三寸に聞こえて、納得して首を縦に振る事は容易ではない。

「行きましょう」

 私は、次の目星を付けていた。「柳香織」年齢は二十五歳。性別は女。化粧品会社に勤めており、現在は休職中らしい。とあるアパートの一室を借りて生活を送っているところまで特定されていて、足を運んでみると幾人もの記者らしき人間が物陰で息を潜めているのを把捉した。

「どうですか? 状況は」

 私は軽薄な道化をわざとらしく演じて、同業者の進捗を尋ねた。想定していた通り、私を紫煙のように扱い、その場を離れていくので、場所取りに困らなかった。ひがな一日、アパートの前で張り込み、「柳香織」の登場を今か今かと腰を据えている時に、見知らぬ人間が割ってはいるのだ。興を削がれて当然である。だが、私は今何も持ち合わせていない。逃げ水を追うかのような蜃気楼めいた「柳香織」の存在を今一度、輪郭から把握し、更なる思索に移りたい。

「なかなか出てきませんね」

 部屋番号すら知らない無知な私は、まるで何日も前からここで見張っているかのような諦観を湛えながら、電柱の裏に立っていた男にそれとなく尋ねた。すると、

「友だちに食料などは頼んでいるようだから、はっきり言って、時間の無駄だね」

 愚痴を溢すように私へ吐露し、物見高いメディアの悪癖を嘆いた。どうやら、「柳香織」は外には出て来ず、友人と思しき人物がコンビニ袋をぶら下げてアパートに入っていくのを何度か目撃されているようだ。徹底したマスコミへの忌避感をくぐり抜けるには、犯罪に足を突っ込むなどして漸く、顔を合わすような苦労が求められる。
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