ヒルガエル

駄犬

文字の大きさ
7 / 20

人間性

しおりを挟む
 相容れない人間は存在する。それでも、あけすけに拒否するような人間付き合いが下手な訳でもない。会話をする際は、波長を少なからず合わせて言葉遣いや語気を操った。

「どうも」

 俺が好んで身に着ける洋服の形や柄を熟知している店長は、入荷に際して俺の顔を浮かべたに違いない。何故なら、他の客が選ぶとは到底思えないほど、俺の洋服への拘泥は変わっていて、町中を歩いていると奇異な眼差しをよく向けられている。

「いらっしゃい!」

 明らかに俺を見て高らかな歓迎をする店長は、横にいる彼など眼中にないようだった。

「新しい服を仕入れてさ」

 来店早々、営業をかけてくる店長の案内に従って、店内の奥に歩いていく。そして、俺が如何に嬉々として声を上げるかを待ち望んでいるかのように、満面の笑みを浮かべた。目の前に陳列される服はやはり、袖を破り捨てたかのように袖口がほつれたダメージ加工に、ペンキが飛んだような模様が見受けられ、古着でなければ受け入れられない加工が至る所に施されていた。

「あれは、興味ないかな」

 寸暇に店長の気落ちしていく様子が目配せを送らずとも伝わってくる。俺にとってこの洋服は、酷評を送るには魅力的すぎた。「興味がない」と、一蹴することでしか、距離を取る方法がなかった。常連客に混じって賭け事に挑む服としては些か目立ちすぎる。そう思い、上記の言葉を送ったのだ。

「……」

 俺が店長の気を引いている間、彼は黙々と自分のお眼鏡に合う洋服を選んでいる。柄や文字などが象徴的に配された洋服の類いを避ける傾向にあり、とかく無地の洋服を選びがちだ。それならば、わざわざ個人が経営する店を訪ねる必要はなく、全国的にチェーン展開しているブランド品を安価で手に入れられる。そう助言してしまいたくなる時もあったが、彼は赴く店を選り好みしており、その拘りをわざわざ無下にすることはないだろう。

「アレにしようかな」

 もはやディスプレイとして機能していそうな壁の上部に引っ掛けられた羊革のジャンパーを指差す。期待に反する俺の洋服選びをまるで快く思っていない店長は、いじけたようにジャンパーを下ろしてくる。

「これでいいの?」

 当てが外れたことを悔やんでも悔やみ切れないといった様子で念押ししてくる店長は、俺への見立ててに対して過剰な自信が垣間見えた。その想定通りに演じるのは少々気に食わなかったので、俺は嬉々として言った。

「それが欲しかったんですよ!」

 俺は、嫌味な人間だ。だからこそ、イカサマを種に金を稼ぐと言う、小賢しい真似ができるのだ。そして、看破されれば袋叩きに遭うであろう危険なやり方を、彼を唆して巻き込めた。きわめて打算的な考えをもとに人間関係を構築し、物事を推し進める。この方法は、学生の頃に覚え、今に至るまで有効に利用してきた。そんな自分が嫌になるかと尋ねられれば、俺は迷わず答えるだろう。「まったく」とね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...