9 / 20
厚顔無恥
しおりを挟む
「お、初めてだね?」
どうやら、一度来た客の顔は覚えているようだ。人件費の捻出を嫌い、店長は一人で「カナイ」を切り盛りしている。客の一人一人を相手に商いをこなす為か、顔と名前の一致は条件反射のように咀嚼し、親しげに名前を呼ぶ。白髪混じりの頭に太い眉毛。目尻の下がり具合から、店長には生来の人懐っこさがあった。客との距離感が非常に近く、賭け事に於ける勝ち負けに関わらず、もはや遊びに行くような感覚で客は「カナイ」を愛している。
「どうも」
俺達を快く迎え入れる店長の態度によって、他の客から浴びせられた厳しい眼差しは鳴りを潜め、目の前の賭け事に再び没頭し始めた。店長の匙加減一つで、居心地の良さが決まる。そのような雰囲気がありありと伝わってきて、店構えに相応しい排他的な場所であると把捉した。つぶさに目が行き届く店長の注意深さは、俺の背後でなるべく目立たないようにしていた彼を簡単に看破する。
「お友達同士できたのかな?」
カナイの敷居を跨いだ瞬間、客は等しく店長の網に引っ掛かり、コソコソと悪知恵を働かせるのは土台無理な気がした。
「はは」
彼の愛想笑いは初めて見たが、これほど下手な人間はなかなか見ない。五人掛けの横に長いテーブル席が、店長自らディーラーとなって、客を相手にする場所である。照明もそこだけを照らすように配置されていて、導線がきっちりと敷かれていた。
「テキサスナインポーカーだよ」
先んじて遊びに興じていた客が、物見高い若者が怖いもの見たさで飛び込んできたと、早とちりをした衒学的な顔付きで教えてくる。
「へぇー」
俺はその老婆心を馬鹿にするような賢しら顔を露払いし、阿るような声色とすっとんきょうな表情をぶら下げた。人間というのは、愛嬌が大事である。こ生意気な性格の持ち主は、往々にして杭を打たれてしまいがちだ。だからこそ、俺は彼の前に立ち、庇護下に置いている。
「どうやるんですか?」
あたかもカジノに初めて来たかのように装うと、前のめりになって彼の壁となった。
「教えてやるよ」
先客は、親切丁寧にルールの説明を滔々と始め、俺は空笑いに軽い相槌をうちながら、耳をそばだてているように振る舞う。
「勉強になります!」
大仰に両手を打ち鳴らすと、囃し立てるのに役立つ納得感が忽ち整形され、客は大層満足そうに笑った。そして、俺の背中を叩いて言うのだ。
「目先の勝ち負けに感情的になったら負けだ。常に先々を見据えて賭けるんだ」
カジノに於ける心構えも指南し始める客の饒舌さに、俺の背中越しに彼はさりげなく舌打ちをする。差し出がましい物言いや、凡そ自分が興味のない話題をとりわけ苦手としており、嘆息に始まって舌打ちに終わると、その場を風のように離れる。他者を顧みない自分本位な行動を情報の売買を始めた当初に指摘したことがあった。愛想を振り撒けとは言わない。だが、相手に気付かれないように、さりげなく発露するぐらいなら、俺も目を瞑る。
どうやら、一度来た客の顔は覚えているようだ。人件費の捻出を嫌い、店長は一人で「カナイ」を切り盛りしている。客の一人一人を相手に商いをこなす為か、顔と名前の一致は条件反射のように咀嚼し、親しげに名前を呼ぶ。白髪混じりの頭に太い眉毛。目尻の下がり具合から、店長には生来の人懐っこさがあった。客との距離感が非常に近く、賭け事に於ける勝ち負けに関わらず、もはや遊びに行くような感覚で客は「カナイ」を愛している。
「どうも」
俺達を快く迎え入れる店長の態度によって、他の客から浴びせられた厳しい眼差しは鳴りを潜め、目の前の賭け事に再び没頭し始めた。店長の匙加減一つで、居心地の良さが決まる。そのような雰囲気がありありと伝わってきて、店構えに相応しい排他的な場所であると把捉した。つぶさに目が行き届く店長の注意深さは、俺の背後でなるべく目立たないようにしていた彼を簡単に看破する。
「お友達同士できたのかな?」
カナイの敷居を跨いだ瞬間、客は等しく店長の網に引っ掛かり、コソコソと悪知恵を働かせるのは土台無理な気がした。
「はは」
彼の愛想笑いは初めて見たが、これほど下手な人間はなかなか見ない。五人掛けの横に長いテーブル席が、店長自らディーラーとなって、客を相手にする場所である。照明もそこだけを照らすように配置されていて、導線がきっちりと敷かれていた。
「テキサスナインポーカーだよ」
先んじて遊びに興じていた客が、物見高い若者が怖いもの見たさで飛び込んできたと、早とちりをした衒学的な顔付きで教えてくる。
「へぇー」
俺はその老婆心を馬鹿にするような賢しら顔を露払いし、阿るような声色とすっとんきょうな表情をぶら下げた。人間というのは、愛嬌が大事である。こ生意気な性格の持ち主は、往々にして杭を打たれてしまいがちだ。だからこそ、俺は彼の前に立ち、庇護下に置いている。
「どうやるんですか?」
あたかもカジノに初めて来たかのように装うと、前のめりになって彼の壁となった。
「教えてやるよ」
先客は、親切丁寧にルールの説明を滔々と始め、俺は空笑いに軽い相槌をうちながら、耳をそばだてているように振る舞う。
「勉強になります!」
大仰に両手を打ち鳴らすと、囃し立てるのに役立つ納得感が忽ち整形され、客は大層満足そうに笑った。そして、俺の背中を叩いて言うのだ。
「目先の勝ち負けに感情的になったら負けだ。常に先々を見据えて賭けるんだ」
カジノに於ける心構えも指南し始める客の饒舌さに、俺の背中越しに彼はさりげなく舌打ちをする。差し出がましい物言いや、凡そ自分が興味のない話題をとりわけ苦手としており、嘆息に始まって舌打ちに終わると、その場を風のように離れる。他者を顧みない自分本位な行動を情報の売買を始めた当初に指摘したことがあった。愛想を振り撒けとは言わない。だが、相手に気付かれないように、さりげなく発露するぐらいなら、俺も目を瞑る。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる