吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

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死なば諸共

腹積り

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 海沿いのホテルといえば聞こえはいいが、目の前にある防風林によって視界は阻まれ、最上階にあたる五階からの眺めは指でなぞって終わる水平線が見えるだけだ。波打ちの音を聴こうと窓を開けば、眼下に走る国道のエンジン音が蔓延る。

「いつまでこんな生活を続ければいい?」

 そんなホテルの一室にて、瀬戸海斗は悪態をつく。コンビニで購入したであろうカップ麺の空をいくつも重ねて不健康を絵に描く食事の様から、瀬戸海斗が言う生活への不満は真っ当ではある。だが、華澄由子はそんな不満に一切、聞く耳を持たない。

「なぁ、藍原の血を吸ったのはどこの誰だ?」

 皮肉たっぷりに睥睨する瀬戸海斗の憎たらしさは、華澄由子の口を開かせた。

「その原因は貴方にあるでしょう? 見境なく人を襲い、挙句知人に見られた。禍根を生んだのは紛れもなく貴方」

 どちらの立場が優勢にあるかを示すかのように、華澄由子は掛けていた銀縁の眼鏡のレンズを拭き出して、焦燥感に苛まれる瀬戸海斗との差異を作る。

「頼むから、俺と協力して藍原を殺そう。そうすれば、全て解決するんだ」

 世俗とは著しく乖離した物々しい提案の出立は、如何にも我慢を知らない稚気な視野狭窄がもたらしたものであり、華澄由子がそぞろに嘆息するのも無理からぬことだ。

「簡単に言うのね」

「何か問題があるのか? 吸血鬼が二人だぞ。二人掛かりでやれば、受血者といえど殺せる」

 よしんば華澄由子が首を縦に振ったのならば、直ぐにでも藍原を殺しに向かいそうな鬱勃とした心意気を発露させる。ただし、花曇りする華澄由子の表情を明かすものではなく、思慮深さに欠ける言動との折り合いの付け方について苦慮させた。

「実力行使は貴方の専売特許のようだけど、それはきっと藍原くんも同じ」

「一人を相手に何をそこまで奥手になる必要があるんだ」

 瀬戸海斗には、先々を憂いて思い悩む繊細な心の機微がない。それでいて、連日のホテル暮らしを甘んじて受け入れる面倒この上ない性格は、端的にいうと小心者の悪戯者である。華澄由子は手元のスマートフォンに目を落としつつ、仔細顔で目配せした。

「そう遠くない日に顔を合わせることになるよ」

 腹に一物あるといったその表情を間に受けて、喜ぶ瀬戸海斗はある意味で純真無垢ひいては阿呆なのかもしれない。
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