吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

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死なば諸共

懊悩

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 四方山話に花を咲かすより、腹を満たすことにかけて没我する昼頃のファミリーレストランは、穏やかな空気といって差し支えない時間の流れが淹留している。だからこそ、眉間にシワを寄せて見聞を持ち寄る藍原たちの口回しは、この場に於いて異彩を放っていた。

「ここと、ここ、後は転々としてて、不規則に開催されている」

「藍原くん、やっぱり二人で一人を追ったのは失敗だったかもね」

「亀井さんが上手くやってくれていたら、こんなしらみ潰しなやり方はしてませんよ」

 藍原は不貞腐れたような調子で亀井を一瞥した。

「はぁ、蒸し返すなよ」

 煮詰まった会話は枝葉に分かれて、語るべき本質を掴み損ねる。そして、

「これからアレをやり過ごしながら、美食倶楽部に迫ることなんか不可能だろう」

 大型商業施設で一目散に、「逃げる」ことを選んだ亀井は、煙のように突然現れたアルファ隊の二人をアレと形容して憂う。

「ぼくもビックリしたよ。まさかバーに来たお客さんたちが、受血者だったとは」

 にわかには信じ難いと顔を強張らせてバーテンダーが俯く。しかし、沈鬱な影を落とす二人とは裏腹に、藍原は全く気にしていない様子だった。

「まんまと目の前で大立ち回りを演じたなんて一石二鳥だ」

「?」

 喜んでいるようにも見える藍原の奇妙な態度に二人は首を傾げた。

「だって、そうだろう? 確実に美食倶楽部はアレによって炙り出される」

「俺らはどうなるんだよ」

 直裁に亀井が疑問を呈すると、藍原は瞳の奥に鉄のような強い芯を座らせた。

「守りますよ、守って見せたでしょう」

 亀井が逃げる隙を作ったのは紛れもなく藍原であった。先刻のことを度外視して猜疑心を抱けば、道理に反した心持ちをあらますだけだ。ならばいっそ、胸を借りてしまった方が、協力関係は恙無くこなせるだろう。

「……吸血鬼と受血者じゃ相性は最悪だからな」

 亀井はそう呟き、自分を納得させる。それもそのはずだ。もう既にこの町は吸血鬼にとって危険地帯であり、不用意な行動が死に直結するかもしれない。表通りは死線となり、影を好んで歩く吸血鬼らしい行動こそが、身を守るための処世術になった。

「……」

 バーテンダーは浮かない顔だ。「楽観的になれ」とは言わないが、亀井が吹っ切れたように注文した珈琲を飲み干す横では、とりわけしおらしく見える。

「心配ですか?」

 ヘソを曲げた子どもに歩み寄るかのように物腰を柔らかくした藍原がバーテンダーの機嫌を伺った。

「いや、その……」

 その口籠もり方はまるでゴムでも食むような咀嚼を想起させ、吐き出すことをせがめば、醜悪な固形物がテーブルの上に現れそうだ。

「ぼくは、ぼくのことを理解していたつもりだった。でも、思っていた以上に、」

 人の顔から刻一刻と血の気が引いていき、荒涼たる土気色を帯びる。そんな廃的な気風に満ち満ちたバーテンダーの背中を亀井は軽くはたく。

「やめてくれよ。そういう空気を出されるとこっちまで気落ちするぜ」
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