吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

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死なば諸共

厄日

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 双子の兄弟は声もほとんど遜色がなく、電話越しであれば尚更、聞き分けるのは不可能だ。耳をそばだてても、差異を見抜くのは腹を痛めて産んだ母親ですら気付かないだろう。

「状況的に疑わざるを得ないです」

 確証はないようだが、推測をするにあたっての手がかりはある。顎に手をやり、思案する姿が想像に難くない。探りを入れるような語り口で情報の取捨選択を試みる電話口の相手に、痺れを切らした双子の弟は捲し立てる。

「その様子だと鈴木さんは喋ることもできないような状態にあるんですね?」

 その背景を慮るというより、言葉の端々に相手を問い詰める語気の鋭さがあった。

「近い状況にあります」

 しかし、断言を徹底的に避けるどっちつかずの言葉を繰り返し続ける電話口の相手へ、双子の弟は遂に堪忍袋の尾が切れた。

「ぼくに一体何を答えて欲しいんだ?! はっきり言ったらどうだ」

 雑多な空気が流れていた喫茶店に水を打ったような静けさが訪れる。

「特徴は、銀縁の眼鏡に肩まで伸びた黒髪の女だ。思い当たることはあるか?」

 突然、声色が低くなり、つらつらと或る人物の姿形について説明した。ただ、双子の弟は拍子抜けする。その特徴は、想定していた相川とは似ても似つかぬ風貌であり、勘が外れたことに顎が緩んだ。

「知らないな」

「わかった」

 一方的に通話を切られ、双子の弟は耳を落とされたかのようにスマートフォンから顔を離す。

「何なんだ一体……」

 それから数週間後、美食倶楽部「あめりあ」の開催が会員へ通知される。場所は、駅から歩いて十分。商店街などを抜けて、中央分離帯が設けられた四車線道路に面した、ある六階建ての雑居ビルだ。周囲には、日用雑貨や電気屋、車のディーラー。多種多様な飲食などが並んでおり、小さな町の中で日がな一日、人気が途切れないのは、この大通りと駅前ぐらいである。そしてそんな場所が開催地に選ばれたとなると、会員は一様に渋い顔をした。出来るだけ人目に触れることを避けてきた、「あめりあ」の開催地選びから大きく逸脱しているからだ。

 これだけではない。開催の時刻もまた、奇妙なのだ。普段は社会に属し、規則正しい生活を送っている吸血鬼を鑑みて、開催時刻が設けられていた。が今回、午前零時という夜の深い時間に指定された上、日付は七月二十三日。吸血鬼であるならば、殊更に意識せざるを得ない。

「アルファ・マンティス作戦」

 その時刻、その日付が選ばれたのか甚だ理解できない、吸血鬼たちの嘆息が漏れ聞こえてくる。忌み嫌って当然の事柄に因む「あめりあ」の開催は、流れる汗に悪寒を含んだ。
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