36 / 48
死なば諸共
厄日
しおりを挟む
双子の兄弟は声もほとんど遜色がなく、電話越しであれば尚更、聞き分けるのは不可能だ。耳をそばだてても、差異を見抜くのは腹を痛めて産んだ母親ですら気付かないだろう。
「状況的に疑わざるを得ないです」
確証はないようだが、推測をするにあたっての手がかりはある。顎に手をやり、思案する姿が想像に難くない。探りを入れるような語り口で情報の取捨選択を試みる電話口の相手に、痺れを切らした双子の弟は捲し立てる。
「その様子だと鈴木さんは喋ることもできないような状態にあるんですね?」
その背景を慮るというより、言葉の端々に相手を問い詰める語気の鋭さがあった。
「近い状況にあります」
しかし、断言を徹底的に避けるどっちつかずの言葉を繰り返し続ける電話口の相手へ、双子の弟は遂に堪忍袋の尾が切れた。
「ぼくに一体何を答えて欲しいんだ?! はっきり言ったらどうだ」
雑多な空気が流れていた喫茶店に水を打ったような静けさが訪れる。
「特徴は、銀縁の眼鏡に肩まで伸びた黒髪の女だ。思い当たることはあるか?」
突然、声色が低くなり、つらつらと或る人物の姿形について説明した。ただ、双子の弟は拍子抜けする。その特徴は、想定していた相川とは似ても似つかぬ風貌であり、勘が外れたことに顎が緩んだ。
「知らないな」
「わかった」
一方的に通話を切られ、双子の弟は耳を落とされたかのようにスマートフォンから顔を離す。
「何なんだ一体……」
それから数週間後、美食倶楽部「あめりあ」の開催が会員へ通知される。場所は、駅から歩いて十分。商店街などを抜けて、中央分離帯が設けられた四車線道路に面した、ある六階建ての雑居ビルだ。周囲には、日用雑貨や電気屋、車のディーラー。多種多様な飲食などが並んでおり、小さな町の中で日がな一日、人気が途切れないのは、この大通りと駅前ぐらいである。そしてそんな場所が開催地に選ばれたとなると、会員は一様に渋い顔をした。出来るだけ人目に触れることを避けてきた、「あめりあ」の開催地選びから大きく逸脱しているからだ。
これだけではない。開催の時刻もまた、奇妙なのだ。普段は社会に属し、規則正しい生活を送っている吸血鬼を鑑みて、開催時刻が設けられていた。が今回、午前零時という夜の深い時間に指定された上、日付は七月二十三日。吸血鬼であるならば、殊更に意識せざるを得ない。
「アルファ・マンティス作戦」
その時刻、その日付が選ばれたのか甚だ理解できない、吸血鬼たちの嘆息が漏れ聞こえてくる。忌み嫌って当然の事柄に因む「あめりあ」の開催は、流れる汗に悪寒を含んだ。
「状況的に疑わざるを得ないです」
確証はないようだが、推測をするにあたっての手がかりはある。顎に手をやり、思案する姿が想像に難くない。探りを入れるような語り口で情報の取捨選択を試みる電話口の相手に、痺れを切らした双子の弟は捲し立てる。
「その様子だと鈴木さんは喋ることもできないような状態にあるんですね?」
その背景を慮るというより、言葉の端々に相手を問い詰める語気の鋭さがあった。
「近い状況にあります」
しかし、断言を徹底的に避けるどっちつかずの言葉を繰り返し続ける電話口の相手へ、双子の弟は遂に堪忍袋の尾が切れた。
「ぼくに一体何を答えて欲しいんだ?! はっきり言ったらどうだ」
雑多な空気が流れていた喫茶店に水を打ったような静けさが訪れる。
「特徴は、銀縁の眼鏡に肩まで伸びた黒髪の女だ。思い当たることはあるか?」
突然、声色が低くなり、つらつらと或る人物の姿形について説明した。ただ、双子の弟は拍子抜けする。その特徴は、想定していた相川とは似ても似つかぬ風貌であり、勘が外れたことに顎が緩んだ。
「知らないな」
「わかった」
一方的に通話を切られ、双子の弟は耳を落とされたかのようにスマートフォンから顔を離す。
「何なんだ一体……」
それから数週間後、美食倶楽部「あめりあ」の開催が会員へ通知される。場所は、駅から歩いて十分。商店街などを抜けて、中央分離帯が設けられた四車線道路に面した、ある六階建ての雑居ビルだ。周囲には、日用雑貨や電気屋、車のディーラー。多種多様な飲食などが並んでおり、小さな町の中で日がな一日、人気が途切れないのは、この大通りと駅前ぐらいである。そしてそんな場所が開催地に選ばれたとなると、会員は一様に渋い顔をした。出来るだけ人目に触れることを避けてきた、「あめりあ」の開催地選びから大きく逸脱しているからだ。
これだけではない。開催の時刻もまた、奇妙なのだ。普段は社会に属し、規則正しい生活を送っている吸血鬼を鑑みて、開催時刻が設けられていた。が今回、午前零時という夜の深い時間に指定された上、日付は七月二十三日。吸血鬼であるならば、殊更に意識せざるを得ない。
「アルファ・マンティス作戦」
その時刻、その日付が選ばれたのか甚だ理解できない、吸血鬼たちの嘆息が漏れ聞こえてくる。忌み嫌って当然の事柄に因む「あめりあ」の開催は、流れる汗に悪寒を含んだ。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる