吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

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死なば諸共

ピエロ

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「糞が」

 鈴木はどうにか片足でバランスを取りながら、立ち上がる。伽藍になった倉庫で監視の目を気にして身持ちの如何を決める必要はなかった。だからといって、倉庫を意気揚々と出ていくにはいかず、なかなか口惜しい状態にある。外部の人間と連絡を取ろうにも、スマートフォンは万屋と女に取り上げられて、自力で病院に向かうなどしないと身体は安息を授かれない。

「華澄由子、アンタは一体何を考えている」

 この恨み節の訳を明らかにするならば、万屋が双子の吸血鬼から華澄由子の手掛かりを尋ねたあたりまで遡らなければならない。

「しらみ潰しに訊いていくのも面倒だな」

 婉曲な言い回しで華澄由子の特徴を並べ立てて、情報を引き出そうと苦心したが、全くの空振りであった。これを一人ずつ繰り返していくと考えると、万屋は歯噛みして仕方ない。だがそんな折、鈴木のスマートフォンが音を立てて点灯した。

「これは……」

 思ってもみなかった僥倖が、万屋の目に飛び込む。それは、美食倶楽部「あめりあ」の開催を知らせる連絡であった。

「これなら、新しい手掛かりが得られるかもしれない」

「……」

 鈴木は憮然とした表情で万屋を見やる。

「何だよ。ボクにも教えてくれよ」

 折られた足を庇いながら、鈴木は嫌味ったらしく万屋に尋ねた。

「あめりあの開催だよ」

「?!」

 鈴木は目玉を落としそうなほど、大きく目を見開いて、事態の突飛さに驚いてみせた。「あめりあ」の運営に深く関わり、準備並びに開催を取り決めていた鈴木ならではの青天の霹靂であった。そして、七月二十三日を目処に鈴木は漸く、監禁状態から解放された。

「美食倶楽部って、やはり私が殺した吸血鬼とも深く関わっているんでしょうね」

「十中八九そうだな。梶井は鈴木からの指示で人間を拐っていた。きみの嗅覚は見事なものだ」

 七月二十三日、時刻は午後八時頃。万屋と女は雑居ビルの前まで来ていた。
 
「本当に大丈夫かな」

 女の心配を他所に、万屋は躊躇なく雑居ビルに入っていく。剥がれ落ちかけた天井から見ての通り、管理の手は一切入っていない。人が出入りすることをまるで考えていない退廃加減である。だが、受付カウンターに美食倶楽部の関係者と思しき人物がぽつねんと立っていた。万屋の背中に隠れながら女はおずおずと様子を伺う。

「これをどうぞ」

 すると受付は、ピエロのマスクを万屋と女に渡す。都合が分からないなりに、「郷に入れば郷に従え」という言葉を借りて、二人はいそいそとピエロのマスクを着けた。そして、非常階段から三階を目指した。

「……」

 ここでは秘密の会話も誰に聞かれるか分からない。無闇に口を開くお粗末な振る舞いにはお暇願い、厳しい沈黙を招く。二階をやり過ごし、三階へ足を伸ばすと、二人は揃って襟を正した。

「いらっしゃい」

 華澄由子に迎え入れられると密かに思ってもみなかった二人は、密かにピエロのマスクに感謝した。

「ある人たちがここへ来ます。私たちに危険をもたらす異分子であり、必ず排除しなければなりません」

 ピエロのマスクを着けた万屋と女、四人の会員が華澄由子を前に整然と横並びになり、まるで説教でも聴くかのように厳かな雰囲気を醸す。

「これを乗り越えれば、「あめりあ」の存続は約束されます」
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