吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

文字の大きさ
44 / 48
死なば諸共

白兵戦

しおりを挟む
 鼻口を手で抑えたくなるほどの粉塵が舞い、視界もままならない中、華澄由子を中心に集まった者たちが一堂に会する。

「これじゃ何が何だか」

 万屋がピエロのマスクを外して、視界の確保に走った矢先、山岸の手刀が首筋を襲う。予期しない死角からのダメージは、冷や水を浴びせられたかのように身体の自由を奪い、万屋はあえなく床へ突っ伏す。アルファ隊の動きは鮮やかだった。吸血鬼の臭いを正確に嗅ぎ取り、粉塵に紛れて奇襲をかける。

 金井も吸血鬼の背後を取ろうと動くが、

「おっと、それはうまくいかないぜ」

 双子の吸血鬼は互いの背中を守る、補完関係にあり、金井の奇襲を見事に防いだ。

「チッ。吸血鬼よぉ、群れてんじゃないよ」

「群れる? 家族なんだから群れて当然、守って当然。自然の摂理だろうが」

 金井の額に一筋の汗が流れる。双子の吸血鬼は、流れるような攻防を織りなし、反撃の隙を与えない勢いがあった。金井はひたすらソレをいなしつつ、動きに目を慣らしていく。一人が攻撃に転じると、一人が守りに徹する。流麗な身体の入れ違いは規則的ともいえ、互いを慮った二人の隙間に腕を突っ込めば、ボタンを一つ掛け違えたかのように阿吽の呼吸が乱れた。

「?!」

 精緻に連動した双子の吸血鬼は少しの乱れが波状していき、忽ちコントロールを失う。金井はすかさず、双子の吸血鬼を一つにまとめる蹴り払いで反撃した。双子の吸血鬼は糸のように絡まりながら床を転がって、消沈する。

「さぁ、次!」

 床を破壊し、状況の攪拌を図ったイロウの判断は素早く理に適った行動だった。迎え撃つ構えであった八人の吸血鬼の虚をつき、まんまと白兵戦と持ち込んだ。

「アンタがボスかい?」

 イロウは華澄由子を前にして、先程までの思い切りの良さを剥落させ、慎重な構えを見せる。

「いや? どちらかと言うと、隠し味かな」

 華澄由子はこの状況に些かも慌てる様子がなく、イロウとの会話を悠々とこなす。不気味なまでの落ち着きにイロウは強い警戒心を抱いていた。

「どれくらい食ったんだ? 人間を」

 イロウは華澄由子が持つ力の幾ばくかを測ろうと直裁に尋ねる。

「私に聞かないで、こっちに聞けば?」

 そう云うと華澄由子の脇から、ピエロのマスクを被った吸血鬼が飛び出してきた。イロウが思わず防御姿勢をとるほどの速度でもって、間合いを詰めるピエロは、腕と足で身体全体を守るイロウを前蹴りで吹っ飛ばす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...