探偵小説の正体とその内訳

駄犬

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第一部

探偵の誕生を祈願する

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 殺人事件は作為的でなければならない。犯人は狡賢く、時に矛盾を抱えて、探偵の前で道化を演じなければならない。著作者によって用意された多種多様な殺人に鉢合わせる探偵は目敏く、聡い人物として、物語上の都合に合わせて思考しなければならない。手練手管を使い、熟読玩味する読者の虚を突こうとする犯人の悪知恵を睨みつけ、魅力的な狂言回しに従事する探偵は、その名を冠に「小説」を語るに値し、寵愛を受ける立場にあるのだから。

 花を積むかのような軽やかさで事件が解決に導かれていく快感は、探偵小説ならではの経験といえ、僕はそんな探偵に憧憬すら抱いていた。しかし前述した通り、現実と地続きにはないフィクションとしての側面が強く感じられ、仕掛けや動機が機械的に、「本」との一体化を求めていない創作物の面がヒシヒシと伝わってきて、物悲しさもあった。だからこそ、僕はこの身を持ってフィクションの壁を打ち破り、自らの手で新たな探偵を誕生させようと思っている。皆様方には、そんな偉大なる瞬間に立ち会ってもらい、共に祝ってもらいたい。これは、「探偵小説の正体とその内訳」である。

 体外に飛び出したはずの血が、板の間にある隙間に沿って流れていく。その構造に囚われる様は、今の状況を正確に映していて、虎視眈々と準備に追われた苦労が報われた証でもある。僕は、芯から震え上がる目も当てられないような危機感を味わったことがない。これは親の過剰な監視や環境からくるものではなく、生来に由来する臆病な性質がそうさせたのだ。

 鳩尾が震えを催す稀有な経験は、身体のあらゆる末端が不感症を訴え出したのを境に始まった。頭は依然として冴えていたが、間もなくして、甲高い耳鳴りが線となって鼓膜を貫通し、頭の中を支配し始める。それは、事切れる瞬間まで、絶え間なく続くだろう。そんな、確信があった。「走馬灯」という言葉が辞書にも載っている通り、人は今際の際に記憶を掘り返すらしいが、自ら死を選んだ者にその資格は与えられないようだ。神様は実に気難しい。遍く死を峻別し、優劣をつけた上、起きる事象の有無までお決めになさる。天罰とは思わないが、人間らしい感情の持ち主だ。ただし、これから起きる出来事には手出しさせない。僕がこの身をもって用意する、密室殺人には決して——

「今度、山荘で殺人事件を起こそうと思っているんです」

 私が受ける依頼のほとんどは、必ず成し遂げたいという意思の強さが介在し、それは言うなれば私怨や打算、複雑怪奇な事情によって、人を殺める覚悟をもった人間だけが訪問する。

「なるほど」

 私は至って当然の如く相槌を打って、依頼者の男に次の質問をした。

「写真はお持ち頂けていますよね?」

 依頼者は眉根を溌剌に持ち上げて、懐の内ポケットに手を突っ込んだ。物騒なやりとりをしているというのに、どこか愉しげで露悪的だが、諸般の理由によって訪ねてきた男の心情は計り知れず、ひいては「アリバイ作り」に於いて注視すべき事柄には入らない。
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