探偵小説の正体とその内訳

駄犬

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第一部

つぶさに

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「もちろんですよ!」

 目の前に差し出される一枚の写真には、男を含んだ五人の男女が写っており、青々とした海を背景に揃いも揃ってピースサインを片手に掲げている。その友人関係は至って健康的な気風に溢れていて、仲違いの予兆は感じ取れない。しかし、雑居ビルの一部屋を間借りして営業する私の仕事内容をつぶさに理解した上で、男は目の前に姿を現し、三日月に比肩する口角の上がり方を包み隠さずに見せている。

「では、この紙に四人全員の年齢、氏名。現住所を」

 個人情報について取り扱うには極めて簡素な三つの枠が、上記の内容を書き込む場所として設けられた一枚の紙をペンと共に男に渡した。

「いやぁー、信じられませんよ」

 綻ぶ男の顔は、恣意的に生み出される都合の良いアリバイ作りに対する関心と、それを享受する立場にある身持ちからきた、仄暗い意図を持つ者らしい相貌であった。

「これに書き込んでしまえば、要望通りのモノが四人に植え付けられるんでしょう? 信じられない」

 男の猜疑心や炯々たる目利きは、此処を謂わば避難所代わりに飛び込んできた者ならではの鋭さを有し、語尾には疑問符がついて回る。

「皆さん、そうおっしゃいます」

 私はそんな依頼者の心に寄り添い、訳知り顔を常に浮かべて受け答えする。判を押す前の婚約書に嬉々としてペンを動かしているかのような男の溌剌とした所作は、私が迎えてきた依頼者の中でもとりわけ前向きな姿勢といえ、その軽やかさに誘われて親しげな言葉遣いをしようものなら、距離感を誤り足元を掬われかねない。私が相手にする者達は尽く、日本国憲法に抵触する後ろ暗さを備え、軽々しく接するべきではないのだ。

「どうぞ」

 事前に予習してきた為か、書き損じは一つもなく、読み間違えを生じさせない力強い筆致が紙にインクとして落とされている。

「お客様の名前も伺ってよろしいですか?」

「嗚呼! 僕の名前もか」

 男は慌てて私の手元にあった紙を引き寄せ、一度手放したペンを勢いよく走らせた。

「いやぁーそうなんですねー。そうなのか」

 舌を出す茶目っ気は、お釣りの計算を誤り、財布の小銭を出し入れする気恥ずかしを連想させる。まじまじとその様子を凝視すれば、ペンの迷いを誘引し、バツが悪いと男が頭を掻き出すかもしれない。私はわざわざ依頼者の痴態を拝みたくもなかった為、あからさまに視線を外した。

「!」

 言葉にならない感嘆符が男の口元から漏れ聞こえ、それは即ち書き間違えを示唆したが、重要な書類の備考欄を埋めてもらっている訳でもない。男には肩の力を抜いてもらい、私と接する際はあくまでも大らかな心持ちを抱いて欲しい。

「大丈夫ですよ。間違えたなら、棒線を引いて書き直してもらっても」

 男は私の発言には目もくれず、餌を前にした犬さながらにつんのめり、紙と睨み合う。潔癖気味なその眼差しは、山荘での殺人を謀る者の性質が垣間見え、一筋縄ではいかない腹積りがありそうだ。
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