探偵小説の正体とその内訳

駄犬

文字の大きさ
8 / 18
第一部

以後、お見知り置きを

しおりを挟む
 探偵と呼称される登場人物は一癖も二癖もある。人格破綻とはいかないまでも、現実にいれば煙たがられて当然の性格の持ち主であり、緩衝材となる相棒役が欠かせない。ワトソン君はその代表例であり、食事で言うなれば薬味のような箸休めとして機能し、目が滑りかける読者との関係を辛うじて維持する役目があった。ワタシはその点で言うと、気の置けない相棒に恵まれず、常日頃から独り言に邁進する酔狂な狂言回しに気炎を吐くしかない。これは読者諸君を相棒と見立てたワタシなりの振る舞いに違いなく、極めて一方通行な語りかけになることだろう。とはいえ、冴えた頭の回転で慧眼を働かせるような所謂、探偵らしい身の振り方は期待しないでもらいたい。ワタシはあくまでも、事の成り行きをつぶさに観察し、解決に至るまでの過程を見届ける立場にある。ワタシのことは、個人的な主観に基づく事件の概要を伝える拡声器のように思ってもらえると嬉しい。

「またこれは……」

 人間が臍の緒を持って生まれるように、生産時に備えられたメール機能は昨今、連絡ツールアプリの発達によって著しく陳腐化してきている。簡単な操作と射幸心を満たすモバイルゲームの台頭に合わせて、メールアドレスはデータと紐付けさせる為のものでしかなく、企業が「お知らせ」と称して顧客の消費を喚起させるだけの無味乾燥なる未読の数字が、メールのアイコンに残るだけだ。ただし、ワタシにとって時折、重要な要件が飛び込む機会となっていることは、上記の台詞からお察し頂けただろう。

「十一月十五日。〇〇県〇〇市の山荘で一日を過ごします。予めご準備の程お願いします」

 ワタシは彼のことを“支配人”と名付け、超常的な人物として評価してきた。これから先に起きる事件事故を事前に嗅ぎつけ、ワタシをその場に立ち合わせる。前回は、マンションの屋上に呼び出されると、眼下にある工場の注視を指示した。ワタシは悪い予感がし、とっさに身構えた。正味五分程度の短い時間だったと思うが、少なくなる瞬きの数に応じて一秒は長く引き絞られ、とりわけ肥大した時間の中を過ごしていた。それは、危機感からくる防御姿勢であり、来し方に味わってきた“支配人”の趣向を汲み取った証だ。決して、精神過敏な小心者が見せる警戒心ではない。偶さか下ろした目蓋の裏側で、耳をつんざくような衝撃音に襲われたことからも、はっきりとしている。ワタシはモノの見事に肝心な「爆発」の瞬間を見逃した訳だが、後に報じられるニュース番組にて、監視カメラの映像を通して目の当たりにした。

 どうして“支配人”の言いつけを頑なに守り、憂き目に遭おうするのか。読者諸君は疑問にお思いだろう。人間が起こすあらゆる事象を天使などの超常的な存在を介さずに、この世に生まれた人間という種族を利用して、地球の動静を目敏く公平な方法で観測しているのだ。勿論これは、“支配人”の言うことに付き合う上での方便である。荒唐無稽な信心深さがなければ、素直に従う道理がない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

【新作】1分で読める! SFショートショート

Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...