探偵小説の正体とその内訳

駄犬

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第一部

四方山話もバツが悪い

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 長物たるタクシー乗り場を徒然と過ごす。駅を囲むようにして建てられたビル群の窓を遊び場にする太陽の幼心が一際、眩しい。あっけらかんとした冬の空に回遊する雲を見つけられず、なるべく日差しが目に入らぬように薄目を開けてやり過ごす。タクシーを待つ列は刻一刻と減っていき、ようやくワタシ達が列の先頭となった。長年、この街を乗り回してきたであろう白髪頭の運転手が、山の尾根となる場所まで運んでくれるようだ。タクシーの後部座席に乗り込むと、“支配人”はすかさず言った。

「越賀の山の麓まで」

 形容し難い不安が雫のように鳩尾から下腹部にかけて落ちる。口に出せば白眼視を受けそうな負の感情を煙草の火を消すように、尻を左右に振って揉み消した。街並みを楽しむ余裕はなく、何の変哲もない自分の太腿を凝視する。

「これから、山に登るんですか?」

 目の前のハンドルをあやしながら、運転手はワタシ達の動向を伺ってきた。“支配人”の格好や行き先によって、答えは出ているようなものだが、それを手がかりにして会話を繋ぐ運転手なりの処世術なのかもしれない。

「えぇ、まぁ」

 ぶっきらぼうに答える“支配人”の口先からして、運転手の客捌きについて腹に一物ありそうであった。

「驚くでしょう。ワタシの格好に」

 なかなか馬鹿げた身持ちを自ら自虐的に語り、“支配人”に向けられた注目をワタシが引き継ぐ。

「そういう方も多くいますよ」

 運転手は呆れたような口吻で昨今の若い登山者を包括的に皮肉った。闇雲に卑下した訳ではなく、自覚的に行ったはずだったが、運転手のイヤらしい目付きに想像以上の反発を覚える。

「富士山でもよく、訪日した外国人がサンダルなんかを履いて登ったりもしますし」

 もはやその素行は、旅の恥は掻き捨てとして振る舞う外国人に比べられてしまうぐらい、品性が底を尽く。

「そうですか!」

 これ以上、貶められることを嫌って、殊更に大きく返事をした。すると、“支配人”がコソリと笑い、運転手とワタシの会話が少しでも報われたことに溜飲は下がった。

「どれくらい掛かりますか?」

 “支配人”が駅から目的の場所までの距離を概算しようと運転手に訊ねれば、「うーん」と唸るような声を漏らし、赤信号で止まった車の中で、カーナビに頼らない運転手ならではの両腕を組んだ思索を始める。

「この調子だと……四十五分ほどで着くかもねー」

 道路を走る車の数によって変動する時間を、的確に試算しようとする運転手はまさにタクシーの鑑であったが、一言多いのが玉の瑕か。

「はぁー」

 こんこんと湧き上がる心痛に襲われるワタシとは裏腹に、湿り気を含んだ息を漏らす“支配人”は、溢れんばかりの好奇心が満たされることを待ち望む。夢想家らしい姿勢が今は憎らしく思えてきた。人で栄えていた街の中心地を離れていくにつれて、背の低い建物が散見し出し、歩道を歩く人々は白髪や、腰が大きく曲がる年嵩の歩行者が増え出した。車道は狭まり、対向車と歩行者に気を遣いながら速度を齷齪と調節しているのが伝わってくる。経年劣化したアスファルトの道路にハンドルを細かく左右に切る様子も見て取れ、ふと外へ視線をやれば、畑や空に伸びる野火の黒い煙が目に入った。絵に描いたような郊外の景色は、山へ近付いていることを予感させ、知らぬ間に震えを催す足を揉んだ。
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