探偵小説の正体とその内訳

駄犬

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第一部

成り立ちと探偵

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「……」

 そんな鬱屈とした感情は他所に、颯爽と山荘の中に入っていく“支配人”の後ろを歩くのは気が触れてしまいそうだった。

「今日、二人泊まりたいんですが」

 宿泊客の応対や電話の取り次ぎ。民宿経営ならではの人手不足をたった一人で解決させようとする白髪混じりの中年男が、受付カウンターにてあらゆる事務作業に追われている様子であった。

「え、ああ」

 ワタシ達が来店したことも気付かないほどの忙しさを体現する中年男に幾ばくかの不安を覚えながら、一泊二日の間に事を好む“支配人”の概算をなんとなしに悟る。

「ふぅ」

 登山と呼ぶには些か憚られるこの疲労感を、散歩と括って寡少に扱う気はないし、大きく広がる胸から吐き出された息の重さを今は素直に慰めたい。

「案内します」

 中年男の案内に従って、ワタシ達は山荘の二階に上がる。見た限り、部屋数は六室あるように見え、一階と合わせると相当数の客人が泊まれるように設計されていた。そんな山荘のオーナーの計らいを無視して、“支配人”はわざわざ一部屋だけを借りた。不足な事態へ迅速な対応を図る“支配人”は、ワタシとの意思の疎通を恙無く行える距離感を求めており、気が抜けない一日を過ごすハメになりそうだ。

「おー」

 寝て起きるには丁度いい卑近な気持ちを掘り起こす。こじんまりとした部屋の中でワタシは今宵、憂き目に遭う瞬間までまんじりともせず、ひたすら耳をそばだてながら感覚を鋭敏に保つ。“支配人”の奇矯な力のおかげで、これは徒労に終わる努力にならないことが担保されているからこそ、道中はとりわけ身重に感じ、鈍化した足取りから気持ちは伏すばかりであった。

「……」

 荷物を床へ置き、部屋の間取りを隈なく確認する“支配人”の軽やかさとは対照的なワタシの心持ちは、二つ仲良く並んだベッドを目にすると、途端にベッドの片方へ身体を投げた。思ったよりも敷かれた布団に受け止める度量がなく、派手な軋みを立てたものだから我ながら驚いた。

「大丈夫かい?」

 “支配人”の心配を誘引するほどの音となったことが面映く、ワタシは投げやりに言った。

「ああ! 全くもって問題ないです!」

 如何にも母の注目を嫌った稚児が慌てて返事をしたような焦りを多分に含んだ声の調子で、ワタシはこの無様な座持ちをなんとか取り繕う。

「はしゃぐにはまだ早いよ」

「……」

 物見高いカラスの如き目の光らせ方をする野次馬根性を宥める“支配人”のお言葉に、ワタシはベッドに突っ伏したまま、嘆息をシーツに湿気として残す。名状も未だ追いつかない、のっぴきならない機運を前にワタシはとある思いを抱く。「どうか大事にならないように」と。しかしそんなワタシの嘆願は、定石通りに用意された山荘と、限られた客人達によって、体のいい殺人事件がまな板の上に置かれ、やむを得ない「探偵」役に抜擢されるのであった。
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