勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗

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エリシエル×ユリウス外伝

当て馬令嬢は幼馴染に愛される。18

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士隊の騎士達がなだれ込む中。
ユリウスは彼らの一人に私が無事であったことなどの説明をしていた。
通路でへたり込んでいた主犯デミカスは既に捕らえられ、数人の騎士に連行されている。
騎士らにレオノーラの事を聞いてみたところ、彼女は無事ヴォルクに助け出されたそうだった。それを聞いてほっとする。

途中、士隊の騎士の一人が私に手を差し伸べてくれたけれど、私はそれを首を横に振って断った。
ので未だ地面に座り込んだまま、騎士と話すユリウスを眺めている。

物々しい騎服に身を包んだ男達の中で、唯一優雅な白い貴族服を身に纏い、凜と立つ彼はお世辞ではなくとても格好が良かった。

見上げている私に気がついたユリウスが、騎士と話しながら視線だけを私に流す。
それから口元をふっと緩ませ、嬉しそうな顔をした。

……なんて顔、してるのかしら。
どうしてあんなに嬉しそうなの。ユリウスは。
いや、私も嬉しくないわけじゃないけど……。

うやうやと面はゆい感覚に内心悶えていると、話し終わったのかユリウスがぱっとこちらに振り返った。
そして、微笑を浮かべたまま私の方に近づき、膝をつく。

「さて」

「何……?って、ちょっ、ちょっとユリウスっ!?」

ユリウスは私の前で膝をついたかと思えば、おもむろに両腕を差し出し、あろうことが私を軽々持ち上げた。
あまりに突然な動作に、驚きと焦りで声を上げる。

ななな、突然何してるのよユリウスはっ!

まるで重さなど感じていないように、ふわりと抱き上げられて、羞恥で私の顔面がおかしなことになっている。
口元は泡を食ったみたいになっているし、もしかしなくとも頬は真っ赤だろう。
背中と膝の裏には細い割にしっかりしたユリウスの腕が回されており、私の半身は彼の胸にぴたりとくっついている。
生地越しに少し低めの彼の体温を感じていて、触れている場所からはしなやかな筋肉の感触が伝わっていた。

昔、屋敷に仕える若いメイドが話していた恋愛小説の事を思い出す。
「主人公がこうされると萌えるんです……!」と言っていたのが、まさにこれだったような。

こ、これはもしや、お姫様だっこっていうやつかしら……!?

自分の置かれている状況に、ぼぼぼぼと身体が火のように熱くなる。というか恥ずかしい。ものすごく、恥ずかしい。

「エリィ、遅くなってごめんよ。もっと早く来ていれば……君にこんな思いをさせずに済んだのに」

わたわたしている私の心情を知ってか知らずか、ユリウスはそう言いながら、はだけた私の肩に軽い口付けを落とした。
ちゅ、という、唇の触れた音が耳に届く。
途端、心臓がびゃっと妙な感じになった。バクバクと響く心音がうるさい。

「~~~っ、な、なななん、で」

「何でって、僕は君が好きだと言っただろう?」

あわあわしながら問うと、ユリウスはほんの少し目元を赤く染めながら、私の心臓が飛び出そうなほど綺麗な顔で笑った。
嬉しげな、楽しげな、そして幸せそうな彼のそんな表情に、一瞬虚をつかれる。

……だ、だから!!
なんて顔してるのよユリウスは……っ!!
しかも今言う!?
好きとか……っ!今言うのっ!?

「だって、あれはっ……その、」

「エリィがこれまで考えてきた事の、半分は正解だ。……それについての弁明はしない。君も、見たんだろう?エレニー=フォルクロスが見せた、あの映像を」

そう言って一瞬だけ真剣な表情になったユリウスは、ふっと長い睫を伏せ、再び私に視線を合わせた。
それから私を抱きかかえたまま、軽い足取りで通路を歩いていく。
次々にやってくる士隊の騎士達が私達を見て驚いた顔をしていたけれど、それもすり抜け悠々と外へ出る。

暗がりから視界が開けると、太陽は既に山の稜線に茜を描いていて、辺りをほんのりと赤く染めていた。

予想通り、ここは没落した貴族の屋敷だったようで、元は子爵か男爵の位を持った一族のものだったようだ。
屋敷の周囲は士隊の騎士達で取り囲まれ、がやがやと騒々しい。

「あの映像はやっぱり、本当の事だったのね……」

ユリウスの白金の髪に赤い光が差し込むのを見ながら、私はあの映像の中にいた幼い彼の姿を思い出していた。
この青年天使と見まごうほど秀麗な彼には、私が考えもしなかった凄惨な過去があった。
そして恐らく、あの映像すらその一部でしか無いのだと。

同情では無く本心で、あの頃のユリウスの小さな背中を、抱き締めてあげたかったと心底から思う。
あんなに細い身体で、一人で、どれだけ心細かった事だろうか。
今の彼になるまで、どれほどの苦難を、乗り越えてきたのかと。

「……ああ。君が見たのは僕の過去だ。そして僕が見たのは……レンティウス伯爵の、過去だった」

「レンティウス伯爵の……?」

形の良い綺麗な瞳を、じっとこちらに向けたまま、ユリウスが静かに頷く。そして顔を上げて、ふっと柔らかく微笑んだ。
どこか晴れ晴れしたような、憑き物が落ちたような、そんな雰囲気が表情から見える。

「わかってしまえば、すごく簡単な事だったんだ。だけど少し……そう、ほんの少しボタンをかけ違ってしまった。そのせいで、全く別の物に見えてしまっていたんだ。……まあ、それも全部、エリィに持っていかれたんだけどね」

「私……?」

どこかで聞いたような言葉に、意味も分からず首を傾げる。おまけに自分の名前まで出てきて、余計にわからず問い返した。
すると、ユリウスが珍しく、というより始めて口を開けて笑い出す。

「ははっ、口調が戻ってるよエリィ。君は本当はとても女性らしい、繊細な人なのに。わざと荒っぽく言ってるんだから」

「な、ゆ、ユリウス……っ!」

肩を震わせ、氷色の瞳を細めて、とても嬉しそうに、楽しげにユリウスが笑う。
私を抱く腕にはぎゅっと力が込められていて、まるで抱き締められているみたいだった。笑顔のユリウスの髪が風でふわりと舞い上がって、本当に青年天使が自分を抱いているような、そんな心地になってくる。
たぶん、私の顔は夕日以上に赤くなっているのだろう。私の顔を見て、ユリウスが蕩けそうな笑みを見せた。

「ははは!ああ、本当にもう……可愛いな。君は」

しかも、そんな台詞まで囁いてくるのだから、本当にもう、どうしようもなかった。

どうしようも……なく、彼の事が好きだったのだと思い知らされて。来てくれたことも嬉しくて。

私の前で笑ってくれることが嬉しくて、胸に熱くじわりとしたものがこみ上げる。
ずっとずっと聞きたかった彼の声、見たかった彼の顔が目の前にある事実に、私の心が喜びの花で溢れていく。

「今までごめん。エリィ、僕は君を……愛してる」

すっと顔を寄せられて、耳元で囁かれた言葉。

求めていたのはこれだったのだと―――心に眠っていた幼い私が、にこりと微笑むのが見えた。
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