ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)

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カノン:リフレインⅢ

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それから私は、体力が快復するにつれて二人の修行にも徐々に参加するようになった。
ゲイルさんの扱う拳法は【幻神流】という流派で、型は三つ。私の習った龍形拳、他には麒麟拳、鳳凰拳がある。

ゲイルさんの師匠の代までは全てが一体になった流派だったが、それぞれの長所を伸ばす目的で分けて確立させたらしい。

他の拳の使い手とは一人しか顔を合わせた事が無いし、連絡手段が無いのでどうしているのかはわからない。

「幻神流に共通する技術の一つとして、魔力を魔法にせず、威力を持ったエネルギーとして自身の力とする教えがある」

そう言って、ゲイルさんは拳圧のみで岩を粉々に砕いて見せてくれた。

単純に見えるが、魔力コントロールには集中力と繊細さが求められる。体内の魔力を拳として飛ばすイメージで、尚且つ、自身の動きで出せる威力と速度を的確に把握しなければならない。

想像以上でも以下でも、その理解が間違っていては意味がないのだとか。
身体強化という便利な魔法もあるが、それの何倍も魔力消費は少なく、高威力だという。

「こんなん楽勝だよ!カノンも練習すりゃすぐだ」

「ギース、調子乗んな。お前よりカノンのが飲み込みは早いんだから、すぐ追い抜かれるぞ」

無邪気に笑うギースに、ゲイルさんの呆れたような声が響く。

「ほんと?!ゲイルさん、わたし上手?」

「もちろんだ。もう一年もすりゃあ、ギースなんかケチョンケチョンだろ」

「何でだよ~、カノンに甘すぎだろ」

ゲイルさんは、私を褒める時や慰める時は、決まって頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。私はそれで安心したり、元気を貰ったりして、それが大好きだった。

楽しかった。ゲイルさんに修行を付けてもらうのも、ギースと切磋琢磨するのも。
三人で過ごして、たまに喧嘩もしたし、一緒に山奥まで進んで大型の魔物に襲われて遭難したりもしたけど、全部全部楽しくて、大切な思い出。

そうして、八年の月日が流れた。

ある日の夜中、私は喉が乾いて目が覚めたから、裏の井戸で水を飲みに行った。
月明かりだけでは心細く、小さな灯りを指先に灯しながらそこまで行くと、獣のうめき声というか、苦しげな低い声が聴こえてきた。

「何……?」

「誰だ」

暫く様子を窺っていると、先程の音のした方から、聞き覚えのある声が私へ向かって発せられる。

いつもより低いトーンだが、その声は間違いなくギースだった。

「なに、してるの……?」

「……なーんだ、カノンちゃんか。いや、ちょっとね~」

薄暗くてよく見えなかったギースの手元をおもむろに照らすと、私は息を呑んだ。
その手には、無惨に変わり果てたイノシシ型の魔物だと思われるそれが、無造作に握られていたからだ。

「なに……、なにそれ……?!」

「あーこれ?ははっ。ちょっと新しい技の試し打ちみたいな?そんな怖がるなよ」

明らかに試し打ちという域を超えた過剰な損壊具合に、足が竦んでしまう。
頭蓋はひしゃげ、全身の骨も恐らく折れているであろうその姿は、目を背けたくなる程の惨状だ。

この頃のギースは一人で鍛錬に山奥へ行く事が多々あったが、その時もこうして生物を惨殺していたのだろうか。

「いくら魔物だからって、そんな酷いやり方……」

「はぁ?でもさ、見ろよコイツ。たった一撃でこんなになっちまうんだぜ?俺は今までの生温い修行よりこうやってした方が強くなれると思うんだよね~」

楽しそうに語るギースの顔は、もういつもの彼の顔ではなかった。目を爛々とギラつかせ、口角を吊り上げるように笑みだけを貼り付けたその表情は、私の恐怖を煽るのに十分だった。
思わず言葉に詰まって後退りしたところで、後方からゲイルさんの声がした。

「何してんだ?お前ら。こんな時間に」

「ゲイルさん……」

「何でもないよ。俺はそろそろ寝る」

ギースは、眠そうに頭を掻くゲイルさんを一瞬睨み付けると、魔物の死骸を落として私達の横を通り過ぎていった。

緊張が解れた私は、ひとまず水を飲むと、ギースが落としていった魔物の死体を見つめているゲイルさんに向き直った。

「ギースが、これを……」

「ああ。ひでぇ事しやがる」

「あんなギースやだよ、ゲイルさん……」

さっきの残虐な笑みも、こんなことをして楽しそうに嗤うギースも、思い出して怖くなる。
俯いて拳を握ると、頭にポン、とゲイルさんの大きな手が乗って、くしゃくしゃと撫でられた。

「強さに固執して過剰な事をやり始めるなんてのは、若い拳士にありがちなことでな。大丈夫だ、すぐ元のアイツに戻るさ」

「そう、だよね。ギース、また一緒に修行してくれるよね」

「ああ。お前は心配しなくていい。早く寝な」

ゲイルさんに頭を撫でられると、私はこうして安心できる。けれどその時は、今思えば無理して納得しようとしてた部分もあったかもしれない。
それでも、私はさっきまでの恐怖は吹き飛んでいた。私はゲイルさんのおおきくてゴツゴツした手が、大好きなんだ。

あの夜以降、ギースは食事と睡眠以外で帰ってくることは殆どなかった。振る舞いは元通りだったけれど、まるで別人がギースのフリをしているような確かな違和感もあって。
そんな生活が続いたある日。

「ゲイルさん、食材が少なくなってきたから村まで買い出しに行ってくるね」

「おう!気を付けて行けよ」

そう言って私は麓の村まで降りた。あの地獄のような五年間を過ごした村とは違うが、雪が積もったその景色を見ると辛かったのも、その頃はだいぶマシになってきた為である。

村の八百屋さんや雑貨屋さんと談笑を交えて必要なものを買い揃えた私は、軽い足取りで元来た道を戻る。
その日は色んな野菜を安くしてもらったのもあって、気分が良かった。

でも、そんな気分も少しの事で曇ってしまうもので。
上から動物達が、まるで何かから逃げるように駆け下りてくるのだ。

「動物達が……。何かあったのかな」

──ズシン!

続いて、地鳴りのような轟音が山を揺らした。私達の暮らす小屋も上の方にあるから、妙な胸騒ぎがする。
気が付くと駆け出していた。

「はぁっ!はぁっ!」

木々の盛り上げた地面を飛び、草木を掻き分けて走っていた。
ゲイルさん、ギース、私が三人で過ごした小屋の目の前まで漸く辿り着く。

「そんな……なんで……」

そこには、まるで嵐に晒された跡のように崩壊した小屋の残骸が広がっている。
思わず落としてしまった買い物袋から、中身が転がっていくのをそのままに、暫く放心状態になった。

「誰が、なんでこんな……。まさか」

誰にともなく呟いたが、本当は何となくわかっていたのかもしれない。ただ認められないだけで。
脳裏に過る、あの夜のギースの残虐な笑み。

──ドゴォォォ!

そして、またしても鳴り響く轟音を合図にするように、私はそこへ駆け出した。

いつかまた三人で、笑ってご飯を食べて、修行して。
そんな日々が戻ってくると思っていた。信じていた。だけどそれは、私が足を進めるごとに崩れていくような気がして、目尻から溢れる冷たい涙が、風に流されていく。

そして、やっと見つけた二人の姿を見て、私の望みは叶わないものになってしまった。

「ギース、テメェ……っ」

「師匠、あんたを殺して、俺はもっと強くなる」

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