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脈動
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へたりこむ少女の目の前に
一人倒れ込む男がいた。
研究者だろうか
白衣に点々と真っ赤な血が伝っている。
「…とう…さん」
ただ父に言葉をかけるしかできない。
その声に反応したのか…ゆっくりと少女の
頬に手を当てる。
「勤…」
彼女の名を呼び、もう一方の手に持っていた何かを手渡す。
「これは…お前にしかできない事だ…」
プラグのような四角い物体を勤の手に乗せながら強く握りしめる。
「勤…お前が人類を、導く…」
"始祖になれ"
………バサッと起き上がる
夜を終えて彩辻は目覚めた。
肌を伝う大量の汗の粒が
寝苦しい夜であった事を裏付けていた。
シャワーを浴び、制服に着替え
冷蔵庫の中にあった飲みかけていたゼリー飲料を飲み干す。
いつもと変わらぬ朝のルーティン
先程までボサボサであった髪を整えて
彼女は今日も
茹だるような暑さを残す9月上旬の外へと
歩き出した。
____________________________________
パトカーの唸るサイレンの音が鳴り響く中
今この現場に男が1人到着する。
「英矢!」
その姿を確認した女性がこちらに駆け寄ってくる。
「こりゃあ、派手にやられたな」
「えぇ、D区間の被害は尋常じゃないほど深刻よ」
先日のG(グラン)メンシュによる襲撃に
よる街の被害はそれが凄惨であったことを
容易に想像できるものだった。
「まさかまた都輝輪にこんな事が起こるなんて…」
都輝輪市
日本の何処かにあるこの街は元々は別の街同士だったものが年々問題となっていた少子高齢化により市町村の合併を繰り返し、一つの市として機能していた。
表向きは新たな市の制定による、新都市の
建設を進めているものであったが…その裏では、Gメンシュによる被害を想定した街作りがなされている。
街自体をAからD区間に分け、各自対応できるよう、それぞれの区間にあらゆる設備を整えていた。
いつか現れるであろその怪物達に立ち向かうべく、設立された組織
"メトロポリス"はこうして誕生したの
だった。
Gメンシュには、現代の科学力を駆使しても歯が立たない。
それはまるで怪獣やら怪人…
異星人のような…まさにフィクションの
存在だ。
そんな化け物に唯一対抗できる手段が
あった。
Re Union(リユニオン)
数十年前に発見されたそのエネルギーは
放射された後、ある特殊な工程を経て再び
再集結し、再利用ができる事から名付けられた…
2037年現在、リユニオンはあらゆる分野で活躍し、この世界を支え続けている。
そしてそれはGメンシュ達に対しても有効である事がここ数年で明らかになった。
Gメンシュを構成する細胞に対してリユニオン粒子と名付けられたそれが破壊作用を及ぼすのだという。
すぐに兵器利用の為の研究が始まった。
紆余曲折を経て最終的に、作られたそれは
リユニオンに生体鎧を形成させ、対Gに対して有効な戦士を作り上げるパワードスーツであった。
「…あの子もここにいたらしいわ」
「…怪我なくて助かったのは、例の女子高生のおかげだな」
そんな超兵器を軍人でもなければ警察でもない…
一見するとただの女子高生が使っているというのだから驚くべきことだった。
「俺たちは無力だ」
「どんなに抗っても、なんの力もない俺たちには何もできない」
「たった1人の女の子に、戦う事を強要することでしか、この世界を救えない」
「…俺はあの子に、何もしてやれていないんじゃないかって…」
英矢はわかりやすく落ち込む様子を
見せる。
そんな彼の背中に思い切り叩かれた痛みが襲ってくる。
「いってぇ!?」
「何すんだよ桜!」
桜と呼ばれた女性は呆れた表情を見せる。
「しっかりしなさいよ!あんたそれでもあの子の保護者?」
「…わかってるさ」
「あの子は俺の…」
「私達の…でしょ?」
「あぁ、そうだな」
「あの子は俺たちの家族だ…責任は最後まで取るつもりだ」
崩れたビルの数々をみて、英矢と桜は仕事へと戻って行った。
____________________________________
一段ずつ階段を上がり、彩辻はいつもの扉の前までくる。
今日も一人で過ごすためにこの屋上にやってきた…のだが
彩辻は何か予感があるのだろうか
一呼吸整えて、その思い扉を開く。
……
(やっぱり…いた)
空に向かって手を合わせる女性
善民(よしたみ)セリアがそこに立って
行った。
その様子をしばらくじっと見つめていると
「あのカラス、私と初めて会った時怪我をしていたの」
彩辻に気が付いたのか静かに話し出す。
「そんな姿を見てたら…ほっとけなくて」
「手当てしてあげてるうちに、
懐いてくれたんだ」
「…そう」
特に興味もなさげに答える。
「カラスなんてこの世界に腐るほどたくさんいるのに、わざわざ手当てまでして…」
「よっぽど大切な存在なんでしょうね」
わざとらしく嫌味を言ってみる
突然目の前に現れたこの女性は、彩辻にとってはただの変人であり、午後のひと時を過ごすのに邪魔な存在でしかなかった。
「私は、この子が死んじゃった時」
「悲しいと感じたけれど…それだけ
だった」
「…私にとってあの子は、涙を流す程でもない…そんな程度の存在だったんだって」
「なんだか…自分が非情な人間に感じてしまったの」
死んだ…その単語を聞いて彩辻は
彼女の元にあのカラスがいない理由を
知る。
「それって何かおかしいかしら?」
その言葉を聞いて善民は後ろを振り返る
以前この場所であった人物…だが
何処か以前とは違う雰囲気を彩辻は
感じた。
「カラス一匹にそんな感情を向けられるほど、貴方の心は余裕があるのね」
「世の中には自分の事で手一杯な人間が山ほどいる、カラスどころか、同じ人間にだって
かまけてる暇がないくらいに」
「私だってそう」
「たとえどんなに酷い怪我をしてたとしても、私が貴方と同じ状況だったのなら…カラスになんて構っていなかったわ」
「それが普通よ」
「普通かぁ…」
分かりやすく考え込むポーズを取る
しばらくして
「卑屈だねぇ…」
「はっ…?」
「別に深い意味はないよ」
笑みを浮かべながら
彩辻の顔をじーっと見つめる。
「ただ目の前で…何もしなかったらそのまま死んでしまいそうな…そんな姿を見てたら、いつのまにか行動に出てただけ」
「何もせずに死なれるよりはマシって事?」
「…どうなんだろうね」
「そもそも、貴方になんのメリットがあるの?」
ただただ問答を続けていく。
普段なら決して関わろうとしないであろう
ただ黙って別の場所に移動しているはずだった。
だが、彩辻はそんな今までの感性を忘れてしまうほどに今目の前にいる善民セリアという人物に何処か不思議な感情を向けて
いた。
彼女にとって、目の前にいるこの女性は何処か掴み所のない雲のようにふわふわとした印象を受ける。
しかし、それは決して良い意味でなく単純に理解ができないというとても薄気味悪い心情であった。
他人に興味がなかったはずの彩辻からしてみれば、それだけでセリアという女性に興味を示すには十分な理由であった。
たかがカラス一匹に何故こうも無償の愛を向けているのか。
…化け物に対抗できる力があるにもかかわらず、それを恐れず普通に接する事の
できる。
彼女を…
「メリットかぁ…考えたことないなぁ」
「それこそ君が言ってた事と逆なんじゃないかなぁ?」
「それってどういう…」
スッと、少女の顔が向かってくる。
いつ見ても思わず見惚れてしまう
ガラス細工のような赤色の瞳孔がじっと見つめながら彩辻に向けて笑みを浮かべ続けている。
「心に余裕がないからこそ、何かを助けたりするんじゃないかな…なんてね」
「…」
最初に屋上で出会った時…
Gメンシュの襲撃にあった時…
そして今、3回話してみて彼女から感じたのは、よく言えば高貴な…
悪く言えばあやふやな印象だった。
「えっと…」
「?」
ふと善民は指で頭をトントンと叩きながら
彩辻の顔を見つめる。
うーんとうなり何か困ったなぁという表情を浮かべていた。
「…まさか」
「"名前”…忘れたって言うんじゃないわよね…?」
「へっ!?あっ…えーっと…」
「…ごめん★」
図星だったようだ。
「はぁ…貴女ってひょっとして人間に興味なかったりする?」
「えっ?」
突然の彩辻の問いに困惑する善民
「カラスと友達だったり…」
「…あんな姿を見ておいて私に構おうと
するし」
「うーん…そうだなぁ」
「確かに普通じゃない人とかは面白そうだけど…でも」
「私、普通の人も好きよ」
何処か引っかかる言い方をしたかと思えば
「と言うわけで…私と友達になってくれる?」
「はぁ?」
突拍子もなくいきなりそう告げてくる
あまりにも突然な提案に彩辻は改めて困惑していた。
「いやよ」
「えぇ!?なんで?」
「人の名前も覚えられない人となんて友達になりたくないわ」
「じゃあもう一回教えて!」
「めんどくさい」
「今度はちゃんと覚えるからぁ~」
「はぁ…」
思わずため息が漏れる
面倒になった彩辻は大きく息を吸って
「さーやーつーじぃ…つッ!とォ!むゥ!」
半ばやけくそ気味にもう一度彼女に名前を告げる。
「ハァ…ハァ…」
「…次忘れても絶対おしえないから」
「…ありがとう"彩辻"さんね」
「しっっっかりと覚えとくから」
「私は貴女の事を忘れたいわ…」
「というわけで私と…」「嫌」
「まだ何も言ってない!?」
「…どうして」
彩辻は感じていた疑問をぶつける。
「どうして私にそこまで構おうとしてくるの?」
「…私が、怖くないの?」
「…なんで怖がる必要があるの?」
「なんでって…」
「だって彩辻さんは私と女の子を守ってくれたじゃない」
その言葉を聞いて彩辻は先日の事を
思い出す。
「…あんな場所でなにをしていたの?」
「女の子と一緒に避難してたの」
ごく自然にそう伝える善民
「女の子って…」
「近くで泣いてたのを見て…ほっとけなかった」
「そうやって貴女は…誰かを助けて…
危ない目に遭ってまでそれを貫こうとする」
「…どうしてそこまでできるの?」
再度聞いてみる…だが帰ってきた言葉は
「さっきも言ったけど私」
「心に余裕なんてない」
「だから…だからこそ私は」
「誰かの"力"になりたいから」
そう言ってただ静かに彩辻を見つめる。
「…貴女、一体なんのつもり?」
彩辻が問う
その答えを待っていた時だった
遠くからサイレンの音が鳴り響く
この街で…この音が鳴り響く時は…
「Gメンシュ…」
彩辻はすぐにその場を離れようとする
「彩辻さん」
声をかけられ、彩辻は数秒足を止めた
「…いってらっしゃい」
どんな意図で、そんな言葉をかけたのかは分からない
釈然としない所はあったものの
彩辻は返事を返さずに
悪魔の待つ場所へと走って行った。
一人倒れ込む男がいた。
研究者だろうか
白衣に点々と真っ赤な血が伝っている。
「…とう…さん」
ただ父に言葉をかけるしかできない。
その声に反応したのか…ゆっくりと少女の
頬に手を当てる。
「勤…」
彼女の名を呼び、もう一方の手に持っていた何かを手渡す。
「これは…お前にしかできない事だ…」
プラグのような四角い物体を勤の手に乗せながら強く握りしめる。
「勤…お前が人類を、導く…」
"始祖になれ"
………バサッと起き上がる
夜を終えて彩辻は目覚めた。
肌を伝う大量の汗の粒が
寝苦しい夜であった事を裏付けていた。
シャワーを浴び、制服に着替え
冷蔵庫の中にあった飲みかけていたゼリー飲料を飲み干す。
いつもと変わらぬ朝のルーティン
先程までボサボサであった髪を整えて
彼女は今日も
茹だるような暑さを残す9月上旬の外へと
歩き出した。
____________________________________
パトカーの唸るサイレンの音が鳴り響く中
今この現場に男が1人到着する。
「英矢!」
その姿を確認した女性がこちらに駆け寄ってくる。
「こりゃあ、派手にやられたな」
「えぇ、D区間の被害は尋常じゃないほど深刻よ」
先日のG(グラン)メンシュによる襲撃に
よる街の被害はそれが凄惨であったことを
容易に想像できるものだった。
「まさかまた都輝輪にこんな事が起こるなんて…」
都輝輪市
日本の何処かにあるこの街は元々は別の街同士だったものが年々問題となっていた少子高齢化により市町村の合併を繰り返し、一つの市として機能していた。
表向きは新たな市の制定による、新都市の
建設を進めているものであったが…その裏では、Gメンシュによる被害を想定した街作りがなされている。
街自体をAからD区間に分け、各自対応できるよう、それぞれの区間にあらゆる設備を整えていた。
いつか現れるであろその怪物達に立ち向かうべく、設立された組織
"メトロポリス"はこうして誕生したの
だった。
Gメンシュには、現代の科学力を駆使しても歯が立たない。
それはまるで怪獣やら怪人…
異星人のような…まさにフィクションの
存在だ。
そんな化け物に唯一対抗できる手段が
あった。
Re Union(リユニオン)
数十年前に発見されたそのエネルギーは
放射された後、ある特殊な工程を経て再び
再集結し、再利用ができる事から名付けられた…
2037年現在、リユニオンはあらゆる分野で活躍し、この世界を支え続けている。
そしてそれはGメンシュ達に対しても有効である事がここ数年で明らかになった。
Gメンシュを構成する細胞に対してリユニオン粒子と名付けられたそれが破壊作用を及ぼすのだという。
すぐに兵器利用の為の研究が始まった。
紆余曲折を経て最終的に、作られたそれは
リユニオンに生体鎧を形成させ、対Gに対して有効な戦士を作り上げるパワードスーツであった。
「…あの子もここにいたらしいわ」
「…怪我なくて助かったのは、例の女子高生のおかげだな」
そんな超兵器を軍人でもなければ警察でもない…
一見するとただの女子高生が使っているというのだから驚くべきことだった。
「俺たちは無力だ」
「どんなに抗っても、なんの力もない俺たちには何もできない」
「たった1人の女の子に、戦う事を強要することでしか、この世界を救えない」
「…俺はあの子に、何もしてやれていないんじゃないかって…」
英矢はわかりやすく落ち込む様子を
見せる。
そんな彼の背中に思い切り叩かれた痛みが襲ってくる。
「いってぇ!?」
「何すんだよ桜!」
桜と呼ばれた女性は呆れた表情を見せる。
「しっかりしなさいよ!あんたそれでもあの子の保護者?」
「…わかってるさ」
「あの子は俺の…」
「私達の…でしょ?」
「あぁ、そうだな」
「あの子は俺たちの家族だ…責任は最後まで取るつもりだ」
崩れたビルの数々をみて、英矢と桜は仕事へと戻って行った。
____________________________________
一段ずつ階段を上がり、彩辻はいつもの扉の前までくる。
今日も一人で過ごすためにこの屋上にやってきた…のだが
彩辻は何か予感があるのだろうか
一呼吸整えて、その思い扉を開く。
……
(やっぱり…いた)
空に向かって手を合わせる女性
善民(よしたみ)セリアがそこに立って
行った。
その様子をしばらくじっと見つめていると
「あのカラス、私と初めて会った時怪我をしていたの」
彩辻に気が付いたのか静かに話し出す。
「そんな姿を見てたら…ほっとけなくて」
「手当てしてあげてるうちに、
懐いてくれたんだ」
「…そう」
特に興味もなさげに答える。
「カラスなんてこの世界に腐るほどたくさんいるのに、わざわざ手当てまでして…」
「よっぽど大切な存在なんでしょうね」
わざとらしく嫌味を言ってみる
突然目の前に現れたこの女性は、彩辻にとってはただの変人であり、午後のひと時を過ごすのに邪魔な存在でしかなかった。
「私は、この子が死んじゃった時」
「悲しいと感じたけれど…それだけ
だった」
「…私にとってあの子は、涙を流す程でもない…そんな程度の存在だったんだって」
「なんだか…自分が非情な人間に感じてしまったの」
死んだ…その単語を聞いて彩辻は
彼女の元にあのカラスがいない理由を
知る。
「それって何かおかしいかしら?」
その言葉を聞いて善民は後ろを振り返る
以前この場所であった人物…だが
何処か以前とは違う雰囲気を彩辻は
感じた。
「カラス一匹にそんな感情を向けられるほど、貴方の心は余裕があるのね」
「世の中には自分の事で手一杯な人間が山ほどいる、カラスどころか、同じ人間にだって
かまけてる暇がないくらいに」
「私だってそう」
「たとえどんなに酷い怪我をしてたとしても、私が貴方と同じ状況だったのなら…カラスになんて構っていなかったわ」
「それが普通よ」
「普通かぁ…」
分かりやすく考え込むポーズを取る
しばらくして
「卑屈だねぇ…」
「はっ…?」
「別に深い意味はないよ」
笑みを浮かべながら
彩辻の顔をじーっと見つめる。
「ただ目の前で…何もしなかったらそのまま死んでしまいそうな…そんな姿を見てたら、いつのまにか行動に出てただけ」
「何もせずに死なれるよりはマシって事?」
「…どうなんだろうね」
「そもそも、貴方になんのメリットがあるの?」
ただただ問答を続けていく。
普段なら決して関わろうとしないであろう
ただ黙って別の場所に移動しているはずだった。
だが、彩辻はそんな今までの感性を忘れてしまうほどに今目の前にいる善民セリアという人物に何処か不思議な感情を向けて
いた。
彼女にとって、目の前にいるこの女性は何処か掴み所のない雲のようにふわふわとした印象を受ける。
しかし、それは決して良い意味でなく単純に理解ができないというとても薄気味悪い心情であった。
他人に興味がなかったはずの彩辻からしてみれば、それだけでセリアという女性に興味を示すには十分な理由であった。
たかがカラス一匹に何故こうも無償の愛を向けているのか。
…化け物に対抗できる力があるにもかかわらず、それを恐れず普通に接する事の
できる。
彼女を…
「メリットかぁ…考えたことないなぁ」
「それこそ君が言ってた事と逆なんじゃないかなぁ?」
「それってどういう…」
スッと、少女の顔が向かってくる。
いつ見ても思わず見惚れてしまう
ガラス細工のような赤色の瞳孔がじっと見つめながら彩辻に向けて笑みを浮かべ続けている。
「心に余裕がないからこそ、何かを助けたりするんじゃないかな…なんてね」
「…」
最初に屋上で出会った時…
Gメンシュの襲撃にあった時…
そして今、3回話してみて彼女から感じたのは、よく言えば高貴な…
悪く言えばあやふやな印象だった。
「えっと…」
「?」
ふと善民は指で頭をトントンと叩きながら
彩辻の顔を見つめる。
うーんとうなり何か困ったなぁという表情を浮かべていた。
「…まさか」
「"名前”…忘れたって言うんじゃないわよね…?」
「へっ!?あっ…えーっと…」
「…ごめん★」
図星だったようだ。
「はぁ…貴女ってひょっとして人間に興味なかったりする?」
「えっ?」
突然の彩辻の問いに困惑する善民
「カラスと友達だったり…」
「…あんな姿を見ておいて私に構おうと
するし」
「うーん…そうだなぁ」
「確かに普通じゃない人とかは面白そうだけど…でも」
「私、普通の人も好きよ」
何処か引っかかる言い方をしたかと思えば
「と言うわけで…私と友達になってくれる?」
「はぁ?」
突拍子もなくいきなりそう告げてくる
あまりにも突然な提案に彩辻は改めて困惑していた。
「いやよ」
「えぇ!?なんで?」
「人の名前も覚えられない人となんて友達になりたくないわ」
「じゃあもう一回教えて!」
「めんどくさい」
「今度はちゃんと覚えるからぁ~」
「はぁ…」
思わずため息が漏れる
面倒になった彩辻は大きく息を吸って
「さーやーつーじぃ…つッ!とォ!むゥ!」
半ばやけくそ気味にもう一度彼女に名前を告げる。
「ハァ…ハァ…」
「…次忘れても絶対おしえないから」
「…ありがとう"彩辻"さんね」
「しっっっかりと覚えとくから」
「私は貴女の事を忘れたいわ…」
「というわけで私と…」「嫌」
「まだ何も言ってない!?」
「…どうして」
彩辻は感じていた疑問をぶつける。
「どうして私にそこまで構おうとしてくるの?」
「…私が、怖くないの?」
「…なんで怖がる必要があるの?」
「なんでって…」
「だって彩辻さんは私と女の子を守ってくれたじゃない」
その言葉を聞いて彩辻は先日の事を
思い出す。
「…あんな場所でなにをしていたの?」
「女の子と一緒に避難してたの」
ごく自然にそう伝える善民
「女の子って…」
「近くで泣いてたのを見て…ほっとけなかった」
「そうやって貴女は…誰かを助けて…
危ない目に遭ってまでそれを貫こうとする」
「…どうしてそこまでできるの?」
再度聞いてみる…だが帰ってきた言葉は
「さっきも言ったけど私」
「心に余裕なんてない」
「だから…だからこそ私は」
「誰かの"力"になりたいから」
そう言ってただ静かに彩辻を見つめる。
「…貴女、一体なんのつもり?」
彩辻が問う
その答えを待っていた時だった
遠くからサイレンの音が鳴り響く
この街で…この音が鳴り響く時は…
「Gメンシュ…」
彩辻はすぐにその場を離れようとする
「彩辻さん」
声をかけられ、彩辻は数秒足を止めた
「…いってらっしゃい」
どんな意図で、そんな言葉をかけたのかは分からない
釈然としない所はあったものの
彩辻は返事を返さずに
悪魔の待つ場所へと走って行った。
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