18 / 89
第18話『特別茶』
しおりを挟む
クオンは黒い瞳をまっすぐに向けて言った。
「来る頃だと思ったよ」
レヴィンは扉を大きく開け、家の中に入るとクオンの前に立って頭を下げた。
「きのうはすまなかった」
罵詈雑言も覚悟していたが、クオンは驚くほどあっさりしていた。
「しょうがない。あれは事故みたいなもんだろ」
「許してくれるのか?」
「めちゃくちゃ腹は立ったけどな」
「…………」
レヴィンが小さくなると、くすっとクオンが笑った。テーブルに置いてあったティーポットを傾け、「まあ、お茶でも飲めよ」とカップを勧めてくれた。
なんだかとても優しい。レヴィンは拍子抜けした。
椅子をひいて座り、カップを受け取った。香草茶だろうか、変わった香りがする。
口をつけた瞬間。
レヴィンは派手に吹き出しそうになった。
不味い! この上なく不味い!
レヴィンは奇跡的に吐き出さなかったが、大きくむせた。
苦味なのかなんなのかわからない。喉にはりつくような、とにかく飲めたものではなかった。
そんなレヴィンを見て、クオンはにやりと笑った。
「兎が後ろ足で配合してくれた特別茶だ。責任もって全部飲めよ」
兎が床の上を滅茶苦茶にした、あの薬草を集めたものだろう。レヴィンは絶望的な気分になった。だが、飲むしかない。
覚悟を決め、何度もむせながらカップ一杯分の兎配合茶を飲み切った。涙目になったところで水をもらい、やっと落ち着いた。レヴィンは大きく息を吐いた。舌がおかしい。
「この兎の……配合茶は、あとどれくらいあるんだろうか」
床に散乱した茶葉はカップ一杯で済む量ではない。レヴィンは本気で全部飲むつもりだったが、意外にもクオンは止めた。
「全部飲めってのは冗談だ。腹下しの薬草が混ざってる。これ以上は体に毒だ」
クオンに言われて、改めて大変なことをしてしまったと思った。
どう混ざったかわからないものは売りには出せない。日々薬草の採取をして、乾燥させた売り物を自分はダメにしてしまったのだ。何日分を無駄にしたのかわからない。
だが、クオンはこの激烈に不味いお茶一杯で済ませてくれようとしていた。
申し訳なさでいっぱいになりながら、レヴィンは朝市で買ってきた蜂蜜を取り出した。
「こんなものでは、割りに合わないだろうが」
差し出した瓶を見て、クオンが目を大きくした。
「蜂蜜か⁉」
うなずくと、クオンは手に取って顔を輝かせた。
「ほしかったんだよ! いいのか⁉」
元より、詫びの品だ。レヴィンが「もちろんだ」と言うと、逆に礼を言われた。笑顔が眩しい。瓶を持って、ホクホク顔で調合の部屋に向かったクオンは、部屋の中から頭だけ出した。
喜色満面の笑みを無理やり消したような顔で言う。
「今日から一か月は薬草茶づくり、手伝ってもらうからな」
レヴィンは口端を上げて、大きくうなずいた。
「来る頃だと思ったよ」
レヴィンは扉を大きく開け、家の中に入るとクオンの前に立って頭を下げた。
「きのうはすまなかった」
罵詈雑言も覚悟していたが、クオンは驚くほどあっさりしていた。
「しょうがない。あれは事故みたいなもんだろ」
「許してくれるのか?」
「めちゃくちゃ腹は立ったけどな」
「…………」
レヴィンが小さくなると、くすっとクオンが笑った。テーブルに置いてあったティーポットを傾け、「まあ、お茶でも飲めよ」とカップを勧めてくれた。
なんだかとても優しい。レヴィンは拍子抜けした。
椅子をひいて座り、カップを受け取った。香草茶だろうか、変わった香りがする。
口をつけた瞬間。
レヴィンは派手に吹き出しそうになった。
不味い! この上なく不味い!
レヴィンは奇跡的に吐き出さなかったが、大きくむせた。
苦味なのかなんなのかわからない。喉にはりつくような、とにかく飲めたものではなかった。
そんなレヴィンを見て、クオンはにやりと笑った。
「兎が後ろ足で配合してくれた特別茶だ。責任もって全部飲めよ」
兎が床の上を滅茶苦茶にした、あの薬草を集めたものだろう。レヴィンは絶望的な気分になった。だが、飲むしかない。
覚悟を決め、何度もむせながらカップ一杯分の兎配合茶を飲み切った。涙目になったところで水をもらい、やっと落ち着いた。レヴィンは大きく息を吐いた。舌がおかしい。
「この兎の……配合茶は、あとどれくらいあるんだろうか」
床に散乱した茶葉はカップ一杯で済む量ではない。レヴィンは本気で全部飲むつもりだったが、意外にもクオンは止めた。
「全部飲めってのは冗談だ。腹下しの薬草が混ざってる。これ以上は体に毒だ」
クオンに言われて、改めて大変なことをしてしまったと思った。
どう混ざったかわからないものは売りには出せない。日々薬草の採取をして、乾燥させた売り物を自分はダメにしてしまったのだ。何日分を無駄にしたのかわからない。
だが、クオンはこの激烈に不味いお茶一杯で済ませてくれようとしていた。
申し訳なさでいっぱいになりながら、レヴィンは朝市で買ってきた蜂蜜を取り出した。
「こんなものでは、割りに合わないだろうが」
差し出した瓶を見て、クオンが目を大きくした。
「蜂蜜か⁉」
うなずくと、クオンは手に取って顔を輝かせた。
「ほしかったんだよ! いいのか⁉」
元より、詫びの品だ。レヴィンが「もちろんだ」と言うと、逆に礼を言われた。笑顔が眩しい。瓶を持って、ホクホク顔で調合の部屋に向かったクオンは、部屋の中から頭だけ出した。
喜色満面の笑みを無理やり消したような顔で言う。
「今日から一か月は薬草茶づくり、手伝ってもらうからな」
レヴィンは口端を上げて、大きくうなずいた。
1
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる