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第74話『いまの二人』
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追い出された話を聞いて、レヴィンは苦笑した。
「クオンらしいな」
リウもまた苦笑した。
「でも、僕が出ていって、よかったのかもしれません」
「?」
「クオンはいつか東国に帰りたいみたいなんです。僕がいると自由に動けませんし」
どきっとした。
いずれ、この地を去るつもりなのか。
レヴィンの胸が騒ぎかけたが、今は考えないようにする。
リウに訊くのは間違っているかもしれないが、レヴィンは確認しておきたいことがあった。
「リウ。あの二人が俺からリウを隠していた理由は知っているか」
レヴィンの問いに、リウは中空を見た。
「クオンは……僕がレヴィー様を好きで苦しんでいたことを知っているから、会ったらまた傷つくんじゃないかって思ったのかもしれません」
レヴィンは迂闊なことを言ってしまったと苦々しく思った。この件に関して、自分は何も言える立場にない。言葉に詰まったレヴィンにリウが慌てて手を振った。
「レヴィー様を責めてるわけじゃないです。これは僕の問題ですから。それにロッドが黙っていたのは、クオンとは理由が違います。これはロッドに聞きました」
クオンから話を聞いた夜、リウはロッドに詰め寄ったという。
なぜ一年も黙っていたのかと。
「ロッドは僕がレヴィー様と会ったら、レヴィー様に気持ちが戻るんじゃないかって、不安だったそうです。僕がずっとこれを付けてるから」
リウは首から下げた緑の石を触った。
「僕はロッドが好きです。だけど、レヴィー様からもらったこの石は僕のお守りなんです。ずっと付けてたから、ないと逆に不安で。そのことはロッドにもちゃんと言ったんですけど……」
愛しそうに石を撫でながら、不満そうに口を尖らせた。
レヴィンも贈った物を大事にしてくれているのはうれしかった。だがそのせいでいらぬ誤解を生んでいる。リウの気持ちもわからぬでもないが、好きだった人からの贈り物を後生大事に付けられていては、疑いたくもなるだろう。
ロッドに同情しながらもレヴィンは言葉を選んだ。
「わかってもらえるといいな」
リウはにこりと笑った。だがすぐに真面目な顔になる。
「ロッドはクオンにひどいことをしました。僕とレヴィー様を会わせたくないからって、クオンを隠れ蓑にするなんて! クオンが協力しないわけがないんです。クオンの気持ちを知らなくたって、許せません」
リウは目を怒らせた。
「僕はクオンのことを実の兄のように思ってるんです。もう傷つけたくない……。なのに、クオンに嘘をつかせて、レヴィー様を押し付けて……。頭にきたから、ロッドとはここ一週間、口をきいてません」
頬がふくらんでいる。
クオンが大好きで憤慨しているリウを、レヴィンは微笑ましく思った。
じっと見ていると、リウは小首を傾げた。その仕草がなんとも可愛いかった。
「こういってはなんだが、リウは若く見えるな。本当にクオンの弟のようだ」
暗に幼いと言ったのだが、リウは腹を立てたりしなかった。
「それはそうですよ。実際、クオンの方が年上ですし」
さらりと言う。
レヴィンは一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「…………えっ⁉」
驚きの声を上げると、リウは目をぱちくりさせた。
「えっ、て、レヴィー様、知らなかったんですか? クオンは僕らより五つ上ですよ」
「そうなのか⁉」
そういえば、年齢を訊いたことはなかった。出会ったときはリウだと疑っていたから、同い年だと思い込んだままだった。小間使いにされた数々のことを思い出す。
「そうか……だから俺には遠慮がなかったのか」
「どういうことですか?」
レヴィンはこの家で雑草抜きや柴刈りなどをしていると言ったら、リウは震えあがった。
「クオンったら、なんてことを! 宮廷にバレたら投獄されちゃう‼」
頭を抱えて叫んだので、レヴィンは慌てた。
「いや、俺が何でもすると言ったんだ。クオンは悪くない。それに、年上は年下に言いやすいものだろう?」
クオンを庇うと、リウは額に手をあてた。
「そういうことではありません。王子殿下に雑草抜きさせるなんて、心臓に毛が生えてるとしか思えない」
大真面目に言うので、レヴィンは笑った。
「クオンの役に立てるのがうれしかったんだから、いいんだ」
にっこり言うと、リウが懐かしむように目元を柔らかくした。
「僕、レヴィー様のそういうところが好きでした」
細められた黒い瞳を見て、レヴィンは「ありがとう」と微笑んだ。
自分もリウに淡い恋心を持っていたと今ならわかる。だが、気づいていなかった気持ちをあえて言う必要もない。
二人の少年時代の恋はすでに昇華されているのだから。
リウは「お茶入れます」と台所に立った。その後ろ姿を見て、レヴィンはクオンを想った。
自分が王子だということも、リウのこともすべて知っていた。
ロッドへの想いを抱えながら、彼の気持ちを汲み取り、クオンはレヴィンと一緒にいた。
『どんな思いで協力したと思ってんだ』
いつかのクオンの言葉がよみがえる。
毎日押し掛ける自分を受け入れ、ロッドとリウの幸せを願ってその月日を過ごしていたのかと思うと、たまらなくなった。今すぐクオンを抱き締めたかった。
レヴィンは閉じられた扉を切なく見つめていた。
「クオンらしいな」
リウもまた苦笑した。
「でも、僕が出ていって、よかったのかもしれません」
「?」
「クオンはいつか東国に帰りたいみたいなんです。僕がいると自由に動けませんし」
どきっとした。
いずれ、この地を去るつもりなのか。
レヴィンの胸が騒ぎかけたが、今は考えないようにする。
リウに訊くのは間違っているかもしれないが、レヴィンは確認しておきたいことがあった。
「リウ。あの二人が俺からリウを隠していた理由は知っているか」
レヴィンの問いに、リウは中空を見た。
「クオンは……僕がレヴィー様を好きで苦しんでいたことを知っているから、会ったらまた傷つくんじゃないかって思ったのかもしれません」
レヴィンは迂闊なことを言ってしまったと苦々しく思った。この件に関して、自分は何も言える立場にない。言葉に詰まったレヴィンにリウが慌てて手を振った。
「レヴィー様を責めてるわけじゃないです。これは僕の問題ですから。それにロッドが黙っていたのは、クオンとは理由が違います。これはロッドに聞きました」
クオンから話を聞いた夜、リウはロッドに詰め寄ったという。
なぜ一年も黙っていたのかと。
「ロッドは僕がレヴィー様と会ったら、レヴィー様に気持ちが戻るんじゃないかって、不安だったそうです。僕がずっとこれを付けてるから」
リウは首から下げた緑の石を触った。
「僕はロッドが好きです。だけど、レヴィー様からもらったこの石は僕のお守りなんです。ずっと付けてたから、ないと逆に不安で。そのことはロッドにもちゃんと言ったんですけど……」
愛しそうに石を撫でながら、不満そうに口を尖らせた。
レヴィンも贈った物を大事にしてくれているのはうれしかった。だがそのせいでいらぬ誤解を生んでいる。リウの気持ちもわからぬでもないが、好きだった人からの贈り物を後生大事に付けられていては、疑いたくもなるだろう。
ロッドに同情しながらもレヴィンは言葉を選んだ。
「わかってもらえるといいな」
リウはにこりと笑った。だがすぐに真面目な顔になる。
「ロッドはクオンにひどいことをしました。僕とレヴィー様を会わせたくないからって、クオンを隠れ蓑にするなんて! クオンが協力しないわけがないんです。クオンの気持ちを知らなくたって、許せません」
リウは目を怒らせた。
「僕はクオンのことを実の兄のように思ってるんです。もう傷つけたくない……。なのに、クオンに嘘をつかせて、レヴィー様を押し付けて……。頭にきたから、ロッドとはここ一週間、口をきいてません」
頬がふくらんでいる。
クオンが大好きで憤慨しているリウを、レヴィンは微笑ましく思った。
じっと見ていると、リウは小首を傾げた。その仕草がなんとも可愛いかった。
「こういってはなんだが、リウは若く見えるな。本当にクオンの弟のようだ」
暗に幼いと言ったのだが、リウは腹を立てたりしなかった。
「それはそうですよ。実際、クオンの方が年上ですし」
さらりと言う。
レヴィンは一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「…………えっ⁉」
驚きの声を上げると、リウは目をぱちくりさせた。
「えっ、て、レヴィー様、知らなかったんですか? クオンは僕らより五つ上ですよ」
「そうなのか⁉」
そういえば、年齢を訊いたことはなかった。出会ったときはリウだと疑っていたから、同い年だと思い込んだままだった。小間使いにされた数々のことを思い出す。
「そうか……だから俺には遠慮がなかったのか」
「どういうことですか?」
レヴィンはこの家で雑草抜きや柴刈りなどをしていると言ったら、リウは震えあがった。
「クオンったら、なんてことを! 宮廷にバレたら投獄されちゃう‼」
頭を抱えて叫んだので、レヴィンは慌てた。
「いや、俺が何でもすると言ったんだ。クオンは悪くない。それに、年上は年下に言いやすいものだろう?」
クオンを庇うと、リウは額に手をあてた。
「そういうことではありません。王子殿下に雑草抜きさせるなんて、心臓に毛が生えてるとしか思えない」
大真面目に言うので、レヴィンは笑った。
「クオンの役に立てるのがうれしかったんだから、いいんだ」
にっこり言うと、リウが懐かしむように目元を柔らかくした。
「僕、レヴィー様のそういうところが好きでした」
細められた黒い瞳を見て、レヴィンは「ありがとう」と微笑んだ。
自分もリウに淡い恋心を持っていたと今ならわかる。だが、気づいていなかった気持ちをあえて言う必要もない。
二人の少年時代の恋はすでに昇華されているのだから。
リウは「お茶入れます」と台所に立った。その後ろ姿を見て、レヴィンはクオンを想った。
自分が王子だということも、リウのこともすべて知っていた。
ロッドへの想いを抱えながら、彼の気持ちを汲み取り、クオンはレヴィンと一緒にいた。
『どんな思いで協力したと思ってんだ』
いつかのクオンの言葉がよみがえる。
毎日押し掛ける自分を受け入れ、ロッドとリウの幸せを願ってその月日を過ごしていたのかと思うと、たまらなくなった。今すぐクオンを抱き締めたかった。
レヴィンは閉じられた扉を切なく見つめていた。
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