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第79話『宮廷からの使者』

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 その日、レヴィンはモーリスから宮廷の使者が到着したと聞き、声を弾ませた。

「待ちくたびれたぞ!」

 言葉とは裏腹にレヴィンの顔は明るかった。これでやっとクオンに会いに行けると思った。

 クオンに突き放されてから三か月。レヴィンはその日々をただ過ごしてきたわけではない。

 あの日、告白は受け入れてもらえなかった。
 
 胸が痛んで苦しいばかりで、何もやる気が起きなかった。クオンの言葉が何度も甦った。

『そばにいることを許されるわけがないだろう』

 クオンは未来を語ったが、レヴィンは今、クオンにそれを許されていなかった。
 
 振られる覚悟はしていた。気持ちを受け入れてもらえなくても、そばにいようと思っていたのに、あれほど激しく拒絶されるとは思わなかった。
 
 このまま何もせず、森の家に行ってもクオンは会ってくれないだろう。彼は関係を絶つつもりでいる。その強い意志を感じた。それがロッドに言っていた「引き際」の意味に違いなかった。
 
 身分という障壁。王子である以上、自分を受け入れてくれることはない。
 
 レヴィンにはもうひとつ、憂いがあった。リウの言っていた、クオンはいつか東国に帰るかもしれないということだ。
 
 宮廷から追放された身とはいえ、王族であることに変わりはない。何の手続きもせず他国に入るわけにはいかなかった。

 宮廷に申告しても認めてもらえないだろうし、だからといって黙って他国に入り、身分がばれたら国家間問題へと発展してしまう。クオンがこの地を去り、他国に行ってしまえば追えなくなってしまう。
 
 クオンの言った可能性をゼロにし、レヴィンが自由に国境を越えるための方策はひとつだけあった。そのための手続きを宮廷に申し入れて、父である国王にも会ってきた。
 
 それから三か月。じりじりしながら待っていた。この間にクオンがこの地を去らないことを祈るばかりだった。
 
 もし、クオンが街を離れることがあるなら、必ず医師のグラハムに伝えるはずだろう。森の家は彼のものだからだ。グラハムにはクオンが何か言ってきたら教えてほしいと頼んである。

 今日まで、彼からの連絡はなかった。
 
 間に合った、とレヴィンは思った。
 
 応接間に通されていた宮廷からの使者は二人だった。

 一人は年配の男で、眉間に深い皺を刻んでいる。もう一人はレヴィンと同じくらいの年に見える若い男だった。

 レヴィンは対峙するように腰を下ろしながら言った。

「ずいぶん時間がかかったな。何をやっていたんだ」

 王族としての苦言に、年嵩の使者が渋面を作った。

「これでも異例の早さです。王位継承権の放棄と王家離脱。通常なら一年以上はかかります」
「恩着せがましい言い方だな。異例の早さでできたということは、宮廷はよほど私が邪魔だったとみえる」

 皮肉で返すと、年嵩の使者はむっつりと黙った。もうひとりの立会人である年若い使者が書類を広げた。若いが有能なのだろう、聡明な顔をしていた。

 レヴィンが書類を手に取り、内容に目を通していると、若い使者が口を開いた。

「殿下。それに署名される前に、聞いていただきたいお話がございます」

 顔を上げると同時に、年嵩の使者が若い使者をにらんだ。

「待て。何を言うつもりだ」

 年配者の威圧に若者が怯むのを見て、レヴィンは書類を置いた。

「いい。言ってみろ」

 年嵩の使者は口を歪め、苦々しそうに顔をそらした。若い使者はレヴィンに礼を言い、居住まいを正した。

「お話したいのは、殿下の『レイトン送り』の内情です」
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