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第83話『幽延草』
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「心臓を弱める、痙攣を起こす。この症状は毒草にはよくあるものなんです。つまり、一種類の毒かもしれないし、二種類かもしれない。それによって解毒薬も変わってきます。使われた毒草がわからないことには、なんとも」
「手の施しようがないということでしょうか」
モーリスが眉根を寄せている。
「何かは効くかもしれません。適当に当たりをつけて、飲ませてみせましょう」
「もし解毒がうまくいかなかったら、レヴィン様はどうなるのですか」
モーリスの問いに、クオンは目を瞑った。
「心音が弱っているので、このままだと……」
怖ろしくて、口には出せなかった。
平静を装ってはいたが、クオンは激しく動揺していた。
レヴィンにはもう会わないつもりでいた。
だがそれは生きていることが前提だ。死んで会えなくなるなんて、そんなこと想像もしなかった。
クオンが口を結んだとき、グラハムが思いついたように言った。
「幽延草はどうだろうか? 万能薬と言われているそうだけど。あれならまだ持っているよ」
クオンもそのことには思い至っていたが、やはり首を振る。
「確かに幽延草なら解毒できると思います。だけど、先生に渡しているものは花です。花には解毒の効果はありません。必要なのは根の部分です」
「根っこ? クオンくんは持ってないのかい?」
「幽延草の根は猛毒なんです。少しでも他のものと混ざってしまったら命に関わるので、採取してません」
薬草は乾燥すると同じ色合いになる。誤って混在したら大変なことになるので、万が一のことを考えて、花しか摘んでいなかった。
根だけならいつでも採取できると思っていたこともある。クオンは悔んだ。父から話しは聞いていたが、そんな解毒が必要になることなんてないと思っていた。
しかし、あきらめたらレヴィンは死ぬ。クオンは意を決した。
「間に合うかわかりませんが、夜が明けたら、採りに行って来ます。戻るまでに二日、そこから乾燥させて、計四日。レヴィンの体力に賭けることになりますが……」
今できることは、それしかなかった。
グラハムも賛成して言った。
「じゃあ、とりあえず効きそうな解毒薬を飲ませてみよう」
クオンも薬草の選定をしようとしたとき、モーリスが遠慮がちに言った。
「ユウエンソウというのは、レヴィン様がクオンさんと一緒に採りに行っていたものでしょうか?」
「ええ、そうです」
クオンが答える。
「その根というのは、どれくらいあればいいのですか」
「ほんの少しです。幽延草が一本あれば十分なんですが……」
するとモーリスはベッドと反対側にある壁の方に歩いていき、赤茶色の壁にかかっている小さな額縁を外した。持って来て、クオンに見せる。
「これは使えないでしょうか」
クオンは目を見張った。
「これ! どうしたんですか⁉」
額の中に入っていたのは、蝶のように花開いた幽延草の押し花だった。根まで残してある完璧な一本だ。
モーリスが言う。
「レヴィン様がお持ち帰りになったんですよ。水に浸けていましたが枯れてしまいまして。残念そうにされていたので、私が押し花にして飾ったのです」
真綿のように白い幽延草は水分が抜け、茶色がかっている。その状態にクオンは顔を輝かせた。しかも根まである完璧な一本だ。
「レヴィン様がお持ち帰りになったんですよ。水に浸けていましたが枯れてしまいました。残念そうにされていたので、私が押し花にして飾ったのです」
クオンは顔を輝かせた。
なんという幸運の持ち主だろうか。
「これならすぐに使えます!」
声を弾ませて言うと、モーリスの顔が明るくなった。
クオンは早速、額の裏板を外して、根を確認する。
乾燥しきったこの根を煎じるだけで解毒薬の完成だ。
モーリスに台所を借りたいとお願いしたところで、グラハムが心配そうに言い出した。
乾燥しきっているので、手で煎じることができる。モーリスに台所を借りたいとお願いしたところで、グラハムが心配そうに言い出した。
「猛毒……なんだよね? 本当に大丈夫かい?」
モーリスの顔が急に曇った。
その気持ちは十分わかる。クオンも幽延草を使った解毒は初めてだ。
改めて問われ、クオンは目を瞑った。父がかつて言っていた言葉が脳裏に蘇る。
―すべての毒に打ち勝てるのは幽延草の猛毒だけだ。いいか、量を間違えるなよ。
量はお前の体で根の半分だ。おまえは配合の勘がいい。使うときは自分を信じろ―
耳元で父の声が聞こえた気がした。
目を開けたクオンは力強くうなずいた。
「大丈夫です。レヴィンは助かります」
「手の施しようがないということでしょうか」
モーリスが眉根を寄せている。
「何かは効くかもしれません。適当に当たりをつけて、飲ませてみせましょう」
「もし解毒がうまくいかなかったら、レヴィン様はどうなるのですか」
モーリスの問いに、クオンは目を瞑った。
「心音が弱っているので、このままだと……」
怖ろしくて、口には出せなかった。
平静を装ってはいたが、クオンは激しく動揺していた。
レヴィンにはもう会わないつもりでいた。
だがそれは生きていることが前提だ。死んで会えなくなるなんて、そんなこと想像もしなかった。
クオンが口を結んだとき、グラハムが思いついたように言った。
「幽延草はどうだろうか? 万能薬と言われているそうだけど。あれならまだ持っているよ」
クオンもそのことには思い至っていたが、やはり首を振る。
「確かに幽延草なら解毒できると思います。だけど、先生に渡しているものは花です。花には解毒の効果はありません。必要なのは根の部分です」
「根っこ? クオンくんは持ってないのかい?」
「幽延草の根は猛毒なんです。少しでも他のものと混ざってしまったら命に関わるので、採取してません」
薬草は乾燥すると同じ色合いになる。誤って混在したら大変なことになるので、万が一のことを考えて、花しか摘んでいなかった。
根だけならいつでも採取できると思っていたこともある。クオンは悔んだ。父から話しは聞いていたが、そんな解毒が必要になることなんてないと思っていた。
しかし、あきらめたらレヴィンは死ぬ。クオンは意を決した。
「間に合うかわかりませんが、夜が明けたら、採りに行って来ます。戻るまでに二日、そこから乾燥させて、計四日。レヴィンの体力に賭けることになりますが……」
今できることは、それしかなかった。
グラハムも賛成して言った。
「じゃあ、とりあえず効きそうな解毒薬を飲ませてみよう」
クオンも薬草の選定をしようとしたとき、モーリスが遠慮がちに言った。
「ユウエンソウというのは、レヴィン様がクオンさんと一緒に採りに行っていたものでしょうか?」
「ええ、そうです」
クオンが答える。
「その根というのは、どれくらいあればいいのですか」
「ほんの少しです。幽延草が一本あれば十分なんですが……」
するとモーリスはベッドと反対側にある壁の方に歩いていき、赤茶色の壁にかかっている小さな額縁を外した。持って来て、クオンに見せる。
「これは使えないでしょうか」
クオンは目を見張った。
「これ! どうしたんですか⁉」
額の中に入っていたのは、蝶のように花開いた幽延草の押し花だった。根まで残してある完璧な一本だ。
モーリスが言う。
「レヴィン様がお持ち帰りになったんですよ。水に浸けていましたが枯れてしまいまして。残念そうにされていたので、私が押し花にして飾ったのです」
真綿のように白い幽延草は水分が抜け、茶色がかっている。その状態にクオンは顔を輝かせた。しかも根まである完璧な一本だ。
「レヴィン様がお持ち帰りになったんですよ。水に浸けていましたが枯れてしまいました。残念そうにされていたので、私が押し花にして飾ったのです」
クオンは顔を輝かせた。
なんという幸運の持ち主だろうか。
「これならすぐに使えます!」
声を弾ませて言うと、モーリスの顔が明るくなった。
クオンは早速、額の裏板を外して、根を確認する。
乾燥しきったこの根を煎じるだけで解毒薬の完成だ。
モーリスに台所を借りたいとお願いしたところで、グラハムが心配そうに言い出した。
乾燥しきっているので、手で煎じることができる。モーリスに台所を借りたいとお願いしたところで、グラハムが心配そうに言い出した。
「猛毒……なんだよね? 本当に大丈夫かい?」
モーリスの顔が急に曇った。
その気持ちは十分わかる。クオンも幽延草を使った解毒は初めてだ。
改めて問われ、クオンは目を瞑った。父がかつて言っていた言葉が脳裏に蘇る。
―すべての毒に打ち勝てるのは幽延草の猛毒だけだ。いいか、量を間違えるなよ。
量はお前の体で根の半分だ。おまえは配合の勘がいい。使うときは自分を信じろ―
耳元で父の声が聞こえた気がした。
目を開けたクオンは力強くうなずいた。
「大丈夫です。レヴィンは助かります」
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