異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

文字の大きさ
53 / 117

第4章 いにしえの因果⑩『すまほ』

しおりを挟む
 王太子が会場を去ったとみるや、イリアスは、ディーテのところに行くぞ、と入口に向かった。
 
 その頃にはお腹いっぱい食べられていたので、文句はない。
 
 会場を出る前にもう一度、ユリウスを振り返った。すると彼もこちらを見ていて、目が合った。

 海人はびっくりして慌てて目を逸らした。

 先を行くイリアスに置いて行かれそうになり、駆け寄る。

「部屋の場所はわかるの?」

 海人は話しかけたが、イリアスは反応しなかった。

「イリアス?」

 のぞき込むように声をかけたら、やっと海人を見た。

「なんだ?」

 聞こえていなかったようだ。イリアスが上の空というのは珍しかった。

「ディーテさんの部屋! わかるのって聞いたの」
「ああ、大丈夫だ。子どもの頃、何度も行ったからな」
「ふーん」

 海人は妙に面白くない気分になった。

 イリアスはアフロディーテのことをあまり話さなかったから、イリアスにとっても距離のある存在なのかと思っていた。

 だが実際のアフロディーテはイリアスのことを『イル』と愛称で呼び、抱き着いて喜ぶほど親密そうだった。イリアスも親しげに話していた。
 
 海人はモヤモヤする気持ちを抱えながら、イリアスについていく。

 アフロディーテの部屋は王宮の離れにあった。イリアスが部屋の扉を叩くと、快く迎えられた。ソファに座ると、

「何か飲む?」

と訊かれたので、海人はお酒以外のものを、と言ったら炭酸水が出てきた。
 
 イリアスが果実酒を頼むと、イルがお酒を飲むなんて~、と笑っていた。

 飲み物を用意し、ソファに座ったアフロディーテは海人を見た。

「改めて、はじめまして。僕の名前は佐井賀さいがしょう。フジワラカイトくんだったよね」

 アフロディーテこと佐井賀はふざけた雰囲気を消すと、落ち着いた大人の男だった。

 切れ長の瞳で鼻筋が通っており、知的な顔をしている。

「日本人だよね? 名前、どんな字書くの?」

 問われて、海人は少し考えて答えた。

藤原道長ふじわらのみちながの藤原に、うみひとで、海人です」

 名前の漢字を訊かれたときは、大概「藤の花の藤に、原っぱの原」と答えていたが、あえて歴史上の人物名で例えてみた。すると、佐井賀はくすりと笑った。

「藤原道長か。久しぶりに聞いたよ。……まさか日本人に会えるなんて」
 
 胸が詰まったような、泣きそうな声で佐井賀は見つめてきた。
 
 海人はこのときになって、初めて彼の境遇を思った。
 
 海人はこの世界に来てすぐにもう一人の異世界人の存在を知った。自分以外にも同じ境遇の人がいると知って、うれしかった。

 たったそれだけのことが、海人の心をどれだけ勇気づけてくれていたか。だが、彼はずっと、この世界にひとりでいたのだ。
 そのことを思うと、海人も胸が詰まった。

「藤原くんにとっては災難だ。あまり喜んじゃいけないか」

 佐井賀は苦笑したが、海人は首を振った。

「いえ。おれも佐井賀さんに会えるのを心の支えにしてました」

 佐井賀が微笑んでうなずくと、海人は思い出したようにズボンのポケットを探った。

「実は、佐井賀さんは日本人じゃないかもって思ってたんです。名前からして……。
 だから、同じ世界の人間だってわかるような物を持って来たんですよ」
「なに?」

 佐井賀が身を乗り出したので、海人はポケットからスマホを取り出して、渡した。

「これは……」

 佐井賀は画面も背面も黒いスマホの裏表を確認して、顔を上げた。

「えっと、これはなに?」

 きょとんとした顔をされた。

「え⁉」

 予想外の反応をされてしまい、海人は焦った。

「なにって、スマホです!」
「すまほ?」
「ケータイですよ!」

 佐井賀は驚いた顔をした。

「ケータイ⁉ これが⁉」
 
 佐井賀の話を聞くと、日本ではまだスマートフォンは普及していなかったらしい。携帯電話と言えば、折り畳み式が主流であり、タッチパネルではなかったという。

 佐井賀がこちらの世界に跳ばされて、まもなくして流行しはじめたものだとわかった。
 
 海人からすれば、携帯といえばスマホである。まさかスマホを知らないとは思わなかった。

 彼はガラケー世代の人間だったのだ。
 佐井賀は滑らかな黒い画面を指で撫でた。

「はあ。今の日本って、こんななんだ。僕、いま帰れたとしても、ついていけないかも」

 言いながら、海人にスマホを返す。

「佐井賀さんは十五年前にここに来たんでしたっけ」
「そうだね。十六のとき。藤原くんはいま何歳?」

 海人でいいです、と付け加え、この世界で十八歳になったことを伝えた。

「似たような年齢か……」

 佐井賀は少し考え込むような顔をした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...