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後日譚⑯『舞踏会』
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「いってらっしゃい」
宵闇が訪れた頃、カイトに見送られてイリアスは馬車に乗った。
普段の夜会着ではない着飾った姿にカイトはいつもと違うね、と言いながら頬を染めていた。
反面、兄のユリウスは微妙な顔をしていた。
カイトには夜会だと言ったが、兄は騙せない。服装から上流階級の会食ではないことは一目瞭然だった。
馬車はルヴェン家に向かった。車中でカイトのことを想う。
義父である伯爵は早々に出かけた。彼はサウスリー領の南に位置する海洋国家タラントの王子との密会である。
かの国の王子は三年前、領主家に社会勉強としてお忍びでやってきた。
このたび王太子として立つことになったので、最後に羽根を伸ばしに近くまでやって来るそうだ。
このことは極秘であり、兄にも伝えていない。
伯爵が隣国の王子の密会を優先するのは当然だったが、イリアスの予定は反故にしてもよいものである。
それを期待したが、義父は行けと言った。今はまだ伯爵には逆らえない。
イリアスは口を引き結んだ。カイトと兄を残して外出などしたくなかった。
日中、何があったのかわからないが、カイトが兄に心を開いたのがわかった。
王宮でのカイトは無条件に魅かれてしまう兄を気にはしていたが、距離は取っていた。
だが、木陰で安心しきった顔で兄の手を握って眠っている姿に、どうしようもなく嫉妬した。
兄はディーテとのことを引き合いに出したが、あの頃の自分はまだ子供で、二人はすでに大人の恋をしていた。
恋愛感情など生まれる余地はなかった。
だがカイトは違う。
運命で魅かれる相手に恋をしてもおかしくないくらい、心も体も大人だ。
兄の気持ちがカイトに傾くことなどない。それは自信をもって言える。
しかし、その揺らがない気持ちすらも兄の魅力のひとつだ。自分は兄に勝てる気などまったくしなかった。
順調に進んでいた馬車が止まった。目的地に着いたようだ。御者が扉を開けたので、イリアスも思考を一旦止めて降りた。
ルヴェン家の屋敷の前には多くの馬車が止まっている。到着は遅い方だった。
屋敷に入るとホールはシャンデリアが煌めき、華やかな衣服を纏った若い男女たちを照らし出している。
各々話しに花を咲かせていた。皆が浮き立っている。
今夜はルヴェン家主催の舞踏会だった。
イリアスが現れると場内から微かに驚きの声が上がり、ざわついた。それもそのはず。
イリアスが舞踏会に参加するのは三年ぶりだった。
三年前、辺境警備隊の前隊長が魔獣から受けた傷が元で亡くなった。
次の隊長は当時から副官を務めていたダグラスがなるものだと誰もが思っていた。
五十代前半であり、年齢的にも申し分ない。だが彼はイリアスを隊長に指名し、自らは副官のままで留まった。
十九歳という異例の若さで隊長職を受けることには大いに抵抗があった。
隊員達の反発だって予想された。イリアスは十五歳で辺境警備隊に入隊していたが、貴族ということもあり、入隊から四年経っても、隊員たちからは一歩引かれていた。
自分自身も愛想の良い方ではないのはわかっていたし、積極的に仲良くなろうとする性格でもなかった。
隊の足を引っ張らない程度に意思疎通だけはしていた。
孤立しているわけではなかったが、他の隊員たちが気軽に肩を叩き合っていても、彼には誰もそのような態度は取らなかった。
取れなかったというのが正解だろう。その中でも、気安く話してくれたのは前隊長とダグラスだけだった。
訓練のときもイリアスと組む者はどこか遠慮していた。
気にしないでくれと言っても、貴族の不興を買いたくないという意識は皆にはたらく。
必然的に剣の相手はダグラスが務めるようになった。魔法に至ってはイリアスの右に出る者はいない。
将来は王宮の守護を任されるはずで、そのための魔法教育を幼少時代から受けていたのだ。
魔法の訓練の時間は強力な攻撃魔法を編み出すことを考えていた。
剣技の達人であるダグラスの指南を受け、イリアスは隊長になる前から群を抜いて強かった。
ダグラスが隊長に推薦した理由のひとつが実力だったらしい。
それでも若さゆえに反感も買っているだろうとの危惧もあり、隊長に就任してからは隊員達に気を配ることに重きを置いた。
いざとなったときに指示に反抗され、勝手な行動を取られては困るからだ。
人心も含めて早急に隊を掌握しなければならない時期に、舞踏会など悠長に出ていられない。
イリアスは事情を伯爵に話し、夜会には出ても、舞踏会は免除してもらっていた。
結局、イリアスの心配は杞憂に終わり、隊員たちあっさりと自分について来てくれた。
ただ、何かと面倒な舞踏会には出たくなかったので、これ幸いと放っておいたのだが、ここに来て伯爵から舞踏会に出るように命令された。
伯爵がそんなことを言い出したのは、カイトとの関係に気づいたからだろう。
カイトと想いを交わして半年しか経っていない。
彼とはまだ始まったばかりで、将来を約束したわけでもない。
イリアスは頭を悩ませながらも、断る理由がなく、不本意ながら参加することになったのだった。
宵闇が訪れた頃、カイトに見送られてイリアスは馬車に乗った。
普段の夜会着ではない着飾った姿にカイトはいつもと違うね、と言いながら頬を染めていた。
反面、兄のユリウスは微妙な顔をしていた。
カイトには夜会だと言ったが、兄は騙せない。服装から上流階級の会食ではないことは一目瞭然だった。
馬車はルヴェン家に向かった。車中でカイトのことを想う。
義父である伯爵は早々に出かけた。彼はサウスリー領の南に位置する海洋国家タラントの王子との密会である。
かの国の王子は三年前、領主家に社会勉強としてお忍びでやってきた。
このたび王太子として立つことになったので、最後に羽根を伸ばしに近くまでやって来るそうだ。
このことは極秘であり、兄にも伝えていない。
伯爵が隣国の王子の密会を優先するのは当然だったが、イリアスの予定は反故にしてもよいものである。
それを期待したが、義父は行けと言った。今はまだ伯爵には逆らえない。
イリアスは口を引き結んだ。カイトと兄を残して外出などしたくなかった。
日中、何があったのかわからないが、カイトが兄に心を開いたのがわかった。
王宮でのカイトは無条件に魅かれてしまう兄を気にはしていたが、距離は取っていた。
だが、木陰で安心しきった顔で兄の手を握って眠っている姿に、どうしようもなく嫉妬した。
兄はディーテとのことを引き合いに出したが、あの頃の自分はまだ子供で、二人はすでに大人の恋をしていた。
恋愛感情など生まれる余地はなかった。
だがカイトは違う。
運命で魅かれる相手に恋をしてもおかしくないくらい、心も体も大人だ。
兄の気持ちがカイトに傾くことなどない。それは自信をもって言える。
しかし、その揺らがない気持ちすらも兄の魅力のひとつだ。自分は兄に勝てる気などまったくしなかった。
順調に進んでいた馬車が止まった。目的地に着いたようだ。御者が扉を開けたので、イリアスも思考を一旦止めて降りた。
ルヴェン家の屋敷の前には多くの馬車が止まっている。到着は遅い方だった。
屋敷に入るとホールはシャンデリアが煌めき、華やかな衣服を纏った若い男女たちを照らし出している。
各々話しに花を咲かせていた。皆が浮き立っている。
今夜はルヴェン家主催の舞踏会だった。
イリアスが現れると場内から微かに驚きの声が上がり、ざわついた。それもそのはず。
イリアスが舞踏会に参加するのは三年ぶりだった。
三年前、辺境警備隊の前隊長が魔獣から受けた傷が元で亡くなった。
次の隊長は当時から副官を務めていたダグラスがなるものだと誰もが思っていた。
五十代前半であり、年齢的にも申し分ない。だが彼はイリアスを隊長に指名し、自らは副官のままで留まった。
十九歳という異例の若さで隊長職を受けることには大いに抵抗があった。
隊員達の反発だって予想された。イリアスは十五歳で辺境警備隊に入隊していたが、貴族ということもあり、入隊から四年経っても、隊員たちからは一歩引かれていた。
自分自身も愛想の良い方ではないのはわかっていたし、積極的に仲良くなろうとする性格でもなかった。
隊の足を引っ張らない程度に意思疎通だけはしていた。
孤立しているわけではなかったが、他の隊員たちが気軽に肩を叩き合っていても、彼には誰もそのような態度は取らなかった。
取れなかったというのが正解だろう。その中でも、気安く話してくれたのは前隊長とダグラスだけだった。
訓練のときもイリアスと組む者はどこか遠慮していた。
気にしないでくれと言っても、貴族の不興を買いたくないという意識は皆にはたらく。
必然的に剣の相手はダグラスが務めるようになった。魔法に至ってはイリアスの右に出る者はいない。
将来は王宮の守護を任されるはずで、そのための魔法教育を幼少時代から受けていたのだ。
魔法の訓練の時間は強力な攻撃魔法を編み出すことを考えていた。
剣技の達人であるダグラスの指南を受け、イリアスは隊長になる前から群を抜いて強かった。
ダグラスが隊長に推薦した理由のひとつが実力だったらしい。
それでも若さゆえに反感も買っているだろうとの危惧もあり、隊長に就任してからは隊員達に気を配ることに重きを置いた。
いざとなったときに指示に反抗され、勝手な行動を取られては困るからだ。
人心も含めて早急に隊を掌握しなければならない時期に、舞踏会など悠長に出ていられない。
イリアスは事情を伯爵に話し、夜会には出ても、舞踏会は免除してもらっていた。
結局、イリアスの心配は杞憂に終わり、隊員たちあっさりと自分について来てくれた。
ただ、何かと面倒な舞踏会には出たくなかったので、これ幸いと放っておいたのだが、ここに来て伯爵から舞踏会に出るように命令された。
伯爵がそんなことを言い出したのは、カイトとの関係に気づいたからだろう。
カイトと想いを交わして半年しか経っていない。
彼とはまだ始まったばかりで、将来を約束したわけでもない。
イリアスは頭を悩ませながらも、断る理由がなく、不本意ながら参加することになったのだった。
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―――
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2023/04/06 後日談追加
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